『虎に翼』最終回の後に残らなかった余韻 爽やかにサラッと終わった意味
SNSやネットニュースでたびたび話題に上がり、近年稀に見る傑作との声も多かったNHK朝ドラ『虎に翼』が最終回を迎えた(ネタバレあり)。
これまでに女性の社会進出や夫婦別姓、事実婚、人種差別、性的マイノリティ、認知症や介護、原爆裁判、少年法改正などさまざまな社会問題を当事者の視点から取り上げてきた本作。
最終週は、後半最大の山場だった尊属殺の重罰規定を巡る裁判における違憲判決の決着が描かれ、その後、寅子がこれまでの自身と家族を振り返るのと同時に、横浜家裁の所長に決まった彼女のもとにかつての仲間たちが集まった。
そして、最終回は平成11年。寅子が亡くなってから15年後の世の中が描かれた。寅子は若き日の姿で家族と社会を見守る。娘の優未は、偉大な母を誇りに思い、日々の生活のなかで法律を通して母が近くにいると感じることを喜ぶ。誰もの生活にあって、人に寄り添うべき法律を、自身にとっての母と重ねた。
振り返れば、寅子は女性や弱者にとって不平等な社会と闘ってきた。平成の世の中で、それはいくらかは変わった。しかし、すべてが真に平等な社会にはなっていない。女性たちの闘いはこれからも続く。
そんな現代社会へ向けて、いまにつながる礎を築いてきた寅子は、自身が特別ではないと語る。「強い女性はいつの時代にもいる。それを時代が許さず、特別な存在にした」とし、いまの社会で闘いながら生きる女性たちに「誰もが強い」とエールを送り、自らが歩んだ“地獄の道”を最高の人生と称した。
最後まで寅子らしい明るさと強さがにじみ出る前向きな意思が映し出され、爽やかにサラッと流れるように幕を閉じた。そこにも寅子らしい生き方が描かれていた気がする。
心が震えた『カムカムエヴリバディ』の最終回
本作は、誰もの権利が平等に守られる社会を目指して闘ってきた女性たちの姿を描いた。社会問題に切り込みながら、差別や抑圧に苦しむ個人の思いを痛切に映し出す、すばらしい作品だった。
一方、社会性の高いドラマだったが、爽やかに終わった最終回の後の余韻はなかった。近年の朝ドラだと『カムカムエヴリバディ』の最終回は、壮大な家族の人生を描いてきた人間ドラマの終着点に、涙なしには見られない心の震えと大きな感動があった。その余韻からしばらく抜け出せないほどのインパクトがあったことは記憶に新しい。
『虎に翼』は、そういった感情の揺さぶりが少ない社会派ドラマだった。もちろん、社会にメッセージを投げかける意義のある作品であり、多くの人を引き付けた。ただ、朝ドラのラストに泣ける家族の物語を求める朝ドラファンにとっては、いまひとつ感情が動かされなかった物足りなさや寂しさも残ったかもしれない。
『虎に翼』と『ラストマイル』の共通点
それを見て重なったが、オリジナル脚本の邦画実写として異例の大ヒット中の『ラストマイル』。社会的弱者の視点から、強者が支配する社会へメッセージを投げかける点は『虎に翼』と共通する。
『ラストマイル』は、物流業界を舞台に、外資系の本国と日本の関係性、発注元から下請け会社への圧迫、すべてのしわ寄せがくる現場スタッフなど、社会のなかのさまざまな理不尽や不合理を描き、弱者側の痛烈なメッセージが世の中を動かす演出にはカタルシスもあった。
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ストーリーとしての完成度は高く、満足度の高いすばらしいエンターテインメント作品に仕上がっており、おもしろいことは間違いないのだが、感情を激しく揺さぶられるような、終劇後に尾を引く余韻はそれほどない。
一方、呉美保監督の『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(公開中)は、ろうの親と健常者の息子の日常を淡々と描き、とくに大きな事件や出来事が起こるわけではない。しかし、ラストシーンではそれまでのストーリーを思い起こしながら、家族の愛に涙が止まらなくなる。
いま話題になっているNetflix『極悪女王』も女子プロレスを舞台にしたエンターテインメント作品だが、根底にある人間ドラマに心を動かされ、ラストには大きな感情の揺さぶりがあり、その余韻にしばらく心を引きずられる。
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その違いを考えさせられた。
明るい爽やかなラストこそ『虎に翼』らしさ
それぞれジャンルもタイプもまったく異なる作品であり、社会派ドラマと家族ドラマのどちらが優れているという話ではない。見た人全員が満足する作品はないように、人それぞれの好みの問題になる。
繰り返しになるが、『虎に翼』も『ラストマイル』もすばらしい作品であり、おもしろい。それ故に世の中の評価が高く、いろいろなところで話題になり、大ヒットしている。
ただ、終わったあとに余韻が残らないことが気になった。『虎に翼』の明るい爽やかなラストこそ、このドラマのよさであったのかもしれない。朝ドラとしては珍しいタイプの作品だったことを、そんなところからも感じさせられた。
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