『地面師たち』の次は『極悪女王』 ヒット作連発するNetflix制作スタイル 民放連続ドラマとの違い
Netflixオリジナルドラマ『極悪女王』が9月19日から配信され、さっそくXのトレンド入り。SNSやネットニュースで話題になっているほか、9月20日のNetflix国内TV番組TOP10でいきなり1位に登場した(2位は『地面師たち』)。
本作の企画・プロデュース・脚本を務めた鈴木おさむ氏は、放送作家魂を込めたという企画の成り立ちを綴り、配信開始日にXでポスト。すると全話を一気観したという多くの視聴者のポジティブなメッセージがあふれかえり、世の中的な注目度と話題性の高さが示された。
つい先日まで大きな話題になっていた『地面師たち』の人気ぶりが記憶に新しいなか、Netflixオリジナルドラマからまた新たなヒット作『極悪女王』が生まれた。
なぜNetflixオリジナルドラマは視聴者の心を掴むのか。その背景には、独自の制作スタイルがある。
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民放連続ドラマや映画製作委員会とは対照的
Netflixのオリジナル制作の特徴は、潤沢な予算と余裕のある制作スケジュールにある。もちろん作品によって異なるが、グローバルプラットフォームであるNetflixの予算は規模が違う。『地面師たち』を例にすると、1話あたりの製作費は民放連続ドラマの3倍以上と聞く。
昨今の製作費削減傾向にある民放テレビ局の連続ドラマや、出資が集まりにくくなり縮小が続く予算規模のなかでの製作を求められる映画製作委員会による大作映画とは、対照的だ。
そして、制作面において特徴的なのが、徹底した企画のブラッシュアップのうえ、基本的に全話を通した脚本を完成させてから撮影に入ること。
内容によって本国とのワークショップで脚本をブラッシュアップ
さまざまな制作プロダクションやクリエイターらから、Netflixに持ち込まれる企画の数は多い。そのなかから選別をくぐり抜け、制作決定までこぎつける企画はほんのひと握り。
さらにそこから、徹底した企画のブラッシュアップがはじまる。この段階で頓挫することもあるが、企画が進んでいくと、作品内容によっては脚本執筆前のプロットの段階で、本国アメリカとのワークショップがある。
ワークショップを取り入れる作品は、日本のプロデューサー、監督、脚本家らスタッフと、アメリカの制作責任者やショーランナー、クリエイターらが参加。日本からの企画に対して、双方が納得するまで意見交換し合う。
そうしてプロットが完成し、ようやく脚本執筆に入る。同時にロケハンもスタート。その過程で、脚本の修正が入る。たとえば、このロケーションであれば、こういう設定のストーリーのほうがより作品の完成度を高められるなどの意見があれば、その都度検討され、本国のショーランナーらの意見も反映されながらブラッシュアップされていく。それが続き、全話を通した脚本が完璧に仕上がってから撮影がスタートする。
ベテラン脚本家・岡田惠和氏も脚本を書き直した
Netflixの秋のオリジナルドラマ『さよならのつづき』(11月14日世界配信)は、NHK朝ドラ『ちゅらさん』や『ひよっこ』をはじめ、数々の名作を生み出してきたヒットメーカーであり、ベテラン脚本家の岡田惠和氏が脚本を手がけている。
岡田氏は初めてのNetflixとの仕事だったが、岡田氏ほどのベテランでも、本国とのワークショップを重ねて企画および脚本はブラッシュアップされ、脚本がほぼ完成した段階からの書き直しもあったという。
長いキャリアのなかで、自身の脚本に対して意見を出し合うワークショップ自体が初めての経験だったという岡田氏だが、その過程を経て「新しい気づきもあり、自信を得られた」と語っている。
そんな過程を経て作り上げられているのが、Netflixオリジナルドラマだ。
世界で見ればオーソドックスなスタイル
ただ、こうした制作手法は、世界で見ればオーソドックスなスタイルでもある。
映画をはじめとしたエンターテインメント・コンテンツのファンドによる製作が一般的な韓国では、ファンドを組む前に企画をブラッシュアップして、脚本を完成させなければならない。
その脚本をもとに、ファンドマネージャーに企画を投げるのだが、そこのハードルが非常に高い。ファンドマネージャーたちは、いかにいい脚本をいい俳優で、どれだけ早く撮れるかを競っており、必然的に完成度が高くヒットが確実に見込めるような脚本が求められ、それほど多くの企画は成立しない。
映画で見ると、日本は年間676本(2023年)の邦画が公開されているが、韓国の国内映画は200本ほど。映画プロデューサーの李鳳宇氏は、日本の企画制作の過程を「韓国の競争の厳しさからすると、日本は幸せな環境」という。
日本人プロデューサーが痛感したアジアとの差
こうした撮影前に脚本の完成度を高めるブラッシュアップは、アジアでも一般的だ。
今年7月に韓国で行われたアジアのプロデューサー育成プログラム「NAFF Fantastic Film School」に日本から参加した古山知美プロデューサーは、韓国人のメンターのもと、台湾、インドネシアからのクリエイターとのインターナショナルチームで、3ヵ月間の企画・脚本作りの研鑽を積んだ。
古山さんによると、メンターのもと3人それぞれの企画やプロジェクトを徹底的にブラッシュアップする過程は、日本では経験してこなかったことであり、気づきや学びが多くあったとする。
一方、その永遠にも思えたというブラッシュアップの繰り返しが、韓国、台湾、インドネシアでは当たり前に行われており、彼らとの経験値の差も痛感した。古山さんは自身の作品制作だけでなく、その学びを日本の現場にフィードバックしようと活動している。
閉じた空間の民放連続ドラマ制作に投じられた一石
Netflixの制作スタイルは、世界標準で見れば決して特別ではなく、理にかなったスタンダードな手法だ。
一部の関係者やスタッフのみの閉じられた空間で、企画作りから脚本執筆まで行われてきた日本の民放連続ドラマのほうが、特殊な制作スタイルなのだろう。そこでは、作品によっては放送と同時に脚本が執筆されていたり、放送日ギリギリまで撮影、編集が行われる制作が当たり前になっている。
これまでにもテレビ局のドラマ制作スタッフの間では、自転車操業のような制作スケジュールの問題は挙がっていた。しかし、聞いている限りでは、放送開始前に完成しているドラマは多くない。改善されてはいるものの、いまだそうした制作は続いている。
その結果が、Netflixオリジナルとの歴然としたヒット率の差として表れている。関係者はこの状況をどう考えるか。ルーティンになっているかもしれない業界に投じられた一石の波紋は、広がっていくか。
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