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テレビをコロナが埋め尽くした2年間をどう考えるか

境治コピーライター/メディアコンサルタント
「いらすとや」の画像を合成して作成

今週、エムデータ社が2021年のTVニュースランキングを発表した。同社はテレビ放送の内容をすべてテキスト化しデータとして提供する会社で、このランキングは出演者などの集計結果とともに毎年発表している。2021年1月1日(金)から2021年11月30日(火)までの、月曜日から土曜日の毎朝10時までに放送しているニュース/ワイドショー番組で取り上げられた題材の放送時間を集計したものだ。

今年のランキングを見ると、ダントツで「新型コロナ感染、依然収束せず」がトップで放送時間の合計が1000時間を超えていた。次の東京五輪開催も200時間弱と国家的イベントとしてかなりの時間が割かれていたが、コロナ報道はその5倍。1000時間がいかに異常な数値かがわかるだろう。

表はエムデータ社リリースページより( https://mdata.tv/info/20211213_01/ )
表はエムデータ社リリースページより( https://mdata.tv/info/20211213_01/ )

当然ながらコロナ禍への報道時間の集中は昨年からの現象で、2020年のTVニュースランキングでも圧倒的1位だった上に1700時間を超えていて今年よりさらに異常だった。

表はエムデータ社リリースページより( https://mdata.tv/info/20201209_01/ )
表はエムデータ社リリースページより( https://mdata.tv/info/20201209_01/ )

この2年間、コロナ禍の報道時間がどれだけ異常だったかを示すために、2018年から2021年までのTVニュースランキングベスト5をグラフにしてみたのがこの画像だ。

エムデータ社発表TVニュースランキング(2018-2021年)より筆者作成
エムデータ社発表TVニュースランキング(2018-2021年)より筆者作成

2018年、2019年にランキングに入った題材、令和改元や台風、北朝鮮問題や平昌五輪などは決して報道時間が短かったわけではない。むしろ当該時期には連日扱われたものばかりだ。だがそれらよりコロナ禍報道の方が圧倒的に時間を費やしている。

人類史上稀な感染症が発生したのだから当然と言えば当然かもしれない。だが昨年4月5月の「巣ごもり期」にステイホーム生活をした人の多くがいつもより長くテレビ放送を視聴し、あらためてその面白さを再発見したとの声もあったものの、むしろ離れていった人が多かった。

インテージ社 Media Gauge TVより
インテージ社 Media Gauge TVより

このグラフは2020年1年間の、ネットにつながったテレビで人々が何を見ているか、各起動率の前年比を示したものだ。グレーが「地上波放送」で4月7日の緊急事態宣言発出以降、前年比で増えているが巣ごもり期の後半は逆に下がっている。オレンジの「アプリ」は主に配信サービスで、地上波テレビとは逆に巣ごもり期の後半に前年比で増えている。最初はテレビを見たが、テレビに飽きてYouTubeやNetflixを見るようになった傾向が見てとれる。せっかくテレビを見てくれる人が一時期増えたのに、結果的に配信サービスに奪われたと言えるだろう。この時期にもっぱらテレビは何を放送していたか。そう、コロナ禍についてだ。

筆者はここ数年、テレビが取り上げる話題が集中してしまうことに注目してきた。

テレビは特定の話題に集中しすぎていないか?データで示す「集中砲火傾向」(2018年8月)

私たちは「人の不倫をなじること」に侵されている〜テレビは何時間不倫を報じたか〜(2017年7月)

タレントの不倫、スポーツ界の不祥事、著名人のスキャンダル。最近はテレビ局自らつかんだスクープより週刊誌の後追いネタを週刊誌よりしつこく追い回すことが多かった。ネットでの紛糾も作用して特定の話題に集中する傾向が強まったように感じる。

見たい人がいるからだ、と言うのかもしれない。実際に目先の視聴率は高まるのだと思う。だがコロナ禍報道への集中は結果としてテレビ視聴者を配信に奪われることになってしまった。ライバル局に負けまいと視聴率を追っていたら、テレビ全体のライバルに客を奪われるのだ。見たい人がいる一方で、見たくない人、見飽きた人も大量にいることに気づく時ではないだろうか。

地上波テレビは今、夜のゴールデン・プライム以外はニュースやワイドショーだらけになっている。その枠で朝から晩まで同じ話題ばかり放送するのだから視聴者が引くのは当然だ。同じ話題を朝も昼も、午後も夕方も、そして夜のニュースでも扱う。コロナ禍で言えば数少ない感染症の専門家を一日中テレビで見る。辟易するに決まっている。

他の時間では取り上げない話題、他局が扱わない題材を積極的に報じるべきではないだろうか。なにしろこの国は課題が満載だ。テレビが見落としてきたり、やり過ごしてきた課題を表に出し、どうすれば解決できるかを視聴者の声も取り入れて議論する。そんな場にしていくよう、大きく放送の役割を見直してもらいたい。

来年は、コロナ禍の第6波が来る可能性がある。その時にまた一日中、感染者数の増減に騒いで専門家にコメントさせているだけでは、3年目の報じ方として見放されるだろう。コロナ禍の伝え方も、考え直してもらいたい。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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