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サッカーゴール等の転倒事故を防ぐ その6 〜ゴールの固定状況をチェックしよう〜

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

 寒い日が多くなってきた。この寒空の下でも、子どもたちが元気に走り回っているのを見るのはとても楽しい。子どもたちにもっともっと活動的になってもらいたい。しかし、それは安全が確保された状況下でのことだ。

 われわれSafe Kids Japanは、2018年から1月13日を「サッカーゴール等固定チェックの日」と定め、サッカーゴールやハンドボールのゴールの固定をチェックする活動を開始した。2回目の1月13日となった今日、これまでの活動を振り返り、もう一度、ゴールの固定チェックをお願いしたい。

この1年間の活動

 2018年1月から、サッカーゴールやハンドボールのゴールの固定状況をチェックし、それを皆で共有する「フォトシェアリング」の活動を開始した。この活動はテレビや新聞で広報してもらった。しかし、受付期間内に送られてきた写真は、何とわずか4件!であった。反響のなさに愕然とした。

 2018年5月と7月には、2つの市の教育委員会の教員を対象とした研修会で講演し、ゴールの固定状況を写真でチェックするシステムを提案した。また、教員の方を対象にした日本スポーツ振興センターの「学校における体育活動での事故防止対策推進事業」の研修会でも、サッカーゴールの転倒事故についてお話し、「ゴールの固定をチェックしてください」とお願いしたが、今のところ具体的な動きに関する情報はない。

 6月には、ゴール固定用の重りが学校に6個あったのに使用せず、ゴールが倒れて子どもがケガをした事例について、警察の依頼で供述調書を書いた。

 9月には、スポーツ庁の担当と思われる部署に「ゴールの固定をチェックするシステムで、ゴールの転倒事故を防ぎたい」と提案したが、いつものとおり「うちの担当ではない」と言うだけであった。国会議員を通して文科省に聞いてもらうと「各種の取り組みをしているということですが、現場に下りていない」という返事だった。これは官僚答弁の典型で、主語がなく、どこも責任を負わない言い回しとなっている。どの部署の、誰が、具体的にどのような取り組みをし、それがなぜ現場に下りていないのかを説明する必要がある。現場に伝わっていないということは、「文科省は何も取り組みをしていない」ということだ。であるから、また同じ事故が起こるのだ。

次に必要なことは?

 事故が起こるとすぐに調査が行われる。例えば、2018年1月23日に静岡市の中学校で、強風が吹いてハンドボールのゴールが倒れ、中学生がケガをした。静岡市教育委員会はすぐに各学校の現場に行ってゴールをチェックしたという。

 文科省や教育委員会は、事故の情報が入るとすぐに通達を出す。しかし、通達内容は「現場ではできないこと(毎回、必ず固定する、など)」を指示しているので、現場の状況は変わらず、必ずまた同じ事故が発生する。事故が起こると、また調査が行われるが、その調査は1回であることが多い。多くの学校では、サッカーゴールの移動は頻回に行われているはずであり、単発の調査では不十分である。

 

 まずは、各教育委員会単位で、各学校にゴールがあるか、何台あるのか、そしてゴールの使用頻度を聞く。

 校庭が広くて、ゴールは常に固定されているところは問題ない。「ゴールの移動」が問題である。動かすことがある場合には、どういう場合に動かすのか、どれくらいの頻度で移動させているのかを聞く。

 そして、固定していない場合には、なぜ固定しないのかを調べる。固定するのが面倒、固定具がない、固定具は高価である、ゴールが倒れるとは思わないなどの問題点が明らかになれば、ゴール固定用の器具の購入費を支給する、固定状況を定期的にチェックするシステムを導入するなど具体的な対策をとることができる。また、予告なしにゴールの固定状況をチェックする必要もある。

 

 現在、ゴールを固定する器具が販売されている。学校現場での実際の使用経験を聞くと、設置は容易であったという。固定具は、それほど高価なものではなく、5万円前後で購入できる。ここまで予防できる条件がそろっているので、ゴールを固定しないという理由は見当たらない。

 はっきり言えることは、これらの具体的な対策をしなければ、ゴールの転倒による事故を防ぐことはできないということだ。

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・ 身近なところにあるゴールが固定されているかどうか、チェックしてみよう。

・ ゴールの固定状況の写真を撮ってSafe Kids Japanに送ろう

・ Safe Kids Japanのリーフレットを配ろう。

・ はると君の「ひまわりのタネ」を蒔いて、ひまわりの花を咲かせよう。

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※画像はすべてSafe Kids Japan作成のリーフレット「サッカーゴールを固定して重大事故を予防しよう!」から

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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