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テレビでも賛否両論の「忘年会スルー」における本当の問題とは?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

「忘年会スルー」がニュースに

「忘年会スルー」という言葉を聞いたことがありますか。

職場の忘年会に参加しないことを「忘年会スルー」といいます。

フジテレビ「Live News it!」で「忘年会スルー」に関するニュースが放送されました。これをもとに起こされたFNN PRIMEの記事がYahoo!ニュースのトピックスにも取り上げられたので、「忘年会スルー」を知っている方は多いのではないでしょうか。

しかし実は、「忘年会スルー」という言葉を最初に取り上げたのは、これより4日ほど前に放送されたNHKのニュースでした。

NHKのニュースでは、「忘年会スルー」が多くなっているとして、色々な人にインタビューして声を聞いています。

さらには、いくつかの会社が行っている忘年会に代わる工夫や、珍しい幹事代行サービスも紹介。最後は、普段のコミュニケーションのあり方や、楽しい雰囲気で働けるような話し合いが重要であると結んでいます。

ネット上の反応

この「忘年会スルー」を取り上げたニュースが大きな反響を呼び、Twitterでも話題になりました。

NHKの『ニュースウオッチ9』(@nhk_nw9)で10日、職場の忘年会に参加しない「#忘年会スルー」をする人たちが増えているという特集が放送されました。「忘年会スルー」についての、みなさんのツイートをまとめました。

出典:「忘年会スルー」増加? みなさんはどう思いますか?

動画ツイートへのリプライを見てみると、「忘年会スルー」への共感が多く、ほとんどが職場の忘年会に対するネガティブな反応となっています。

当記事では、職場の忘年会がダメな理由、そして、「忘年会スルー」がはらむ懸念について考察していきましょう。

職場の忘年会がスルーされる理由

職場の忘年会が嫌われ、「忘年会スルー」されるのはなぜでしょうか。

最も大きな理由は、職場の人間関係で忘年会を行うということです。

職場の人間関係は、個人的な好き嫌いで構築されているわけではありません。あくまでも、何かしらの事業を行うために構築されたものです。その中には上下関係もあれば、ライバル関係もあり、プライベートな人間関係とは様相が異なります。

プライベートの忘年会であれば、気の合う仲間だけで集まれますが、職場の忘年会ではそうもいきません。職場の人間関係の延長のような席では、上司や先輩に気を使ってリラックスできなかったり、興味や関心が違って話が合わなかったりして、楽しく過ごせないでしょう。

行きたい飲食店に訪れたり、食べたい料理を食べたり、飲みたいドリンクを飲んだりできないことも、「忘年会スルー」の原因に挙げられます。

忘年会の場には、最大公約数的な無難な大衆居酒屋が選ばれることが多いです。加えて、コースも決められてしまっているので、好きでもないものを食べ飲みしなければなりません。

タバコの煙が苦手であるのに、忘年会の飲食店が喫煙可能や分煙となっていれば、滞在中は苦痛となるでしょう。喫煙する上司や先輩の近くに座ってしまえば、席を移動することも躊躇われてしまいます。

このような職場の忘年会に、自分のお金をと時間を使うことがもったいないので、「忘年会スルー」したくなるのです。

もしも幹事になったのであれば、さらにストレスは増えるでしょう。

「忘年会スルー」できないことに加えて、上司や先輩の都合や嗜好を最優先する必要があります。

日時を決めて店を選んで予約し、参加不参加の調整や管理を行わなければなりません。開催の案内や当日の運営をし、料金の徴収から支払いまでを行ってから、ようやく解放されます。

飲食店にとっては書き入れ時

職場の忘年会は、人によってはかなり苦痛と感じます。ただ、飲食店にとっては、忘年会シーズンは団体客の予約が入る書き入れ時です。

飲食店の立場にたってみれば、団体で利用する職場の忘年会がなくなったり、縮小したりするのは望むことではありません。つまり、飲食店にとって「忘年会スルー」は好ましいことではないのです。

ただ、飲食店の経営陣やマネージャーと、現場のスタッフとでは少し温度感は異なるでしょう。

気持ち的に解放感のある忘年会に大人数で訪れ、お酒を飲んで気が大きくなった客が、羽目を外すことは少なくありません。

閑散期に比べると繁忙期には困った客も多いだけに、現場のスタッフは必ずしも職場の忘年会を歓迎しているわけではないのです。

「忘年会スルー」への危惧

職場の忘年会について考察してきましたが、実は「忘年会スルー」は大きな問題をはらんでいます。

それは、ドタキャン(直前キャンセル)につながりやすいことです。

職場の忘年会は、会社の公式行事にほぼ等しい場合があります。会社の公式行事であれば、参加せざるをえない雰囲気となっているので、気軽に欠席できません。そのため、「忘年会スルー」するために、ドタキャンする可能性が高くなってしまうのです。

最初から参加しないと表明するのは憚られるので、とりあえず参加にしておきます。そして、体調不良や家族の看病、得意先からの呼び出しや業務の多忙などを理由にドタキャンするのです。

さすがにノーショー(無断キャンセル)は、上司や先輩、幹事に対する大きな不義理となるので、あまり起こすことはないでしょう。

しかし、ノーショーではなく、ドタキャンであったとしても飲食店は十分に困るのです。

ドタキャンした人の分だけ、料理が無駄となったり、食材が廃棄されたりして、食品ロスが生じてしまいます。団体のために確保していた席は不要となり、他の客が来店する機会を奪ってしまうのです。

健全な「忘年会スルー」

では、「忘年会スルー」を行う際に、ドタキャンにならないようにするためには、どうすればよいでしょうか。

最も重要なことは「忘年会スルー」しやすいようにすることです。それも、最初から不参加しやすいようにしなければなりません。

それには、参加の場合にだけ表明するようにし、不参加は表明しなくてもよいようにしたり、上司や先輩が直接声を掛けなかったりする配慮が必要です。ITツールの活用によって、不参加の精神的なコストを下げたりするのもよいでしょう。

職場の忘年会を重要なコミュニケーションの場であると考えるのであれば、参加しやすくすることと同じくらい、不参加しやすくすることが大切となります。

「忘年会スルー」が話題となっていますが、職場の忘年会に行きたくないという傾向だけではなく、「忘年会スルー」の方法が飲食店に影響を及ぼすことについても、考えてもらえるよい機会になれば幸いです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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