なぜ「若者に強く言えない」超草食系上司が増えているのか? その背景とは?
「若者に辞められると困るので、強く言えません」
そう言って、若者に厳しく指導できない上司が急増している。褒めたり承認はするが、組織の利益のために、そして若者本人の成長のために必要な指導ができない「超草食系」の上司たちである。
直属の上司だけではない。
「厳しく指導しろと言いますが、今の若者はちょっと厳しくすると辞めてしまいますから」
といって、踏み込んだ対策をとらない経営者も増えている。多くの企業で「期待最大化」ではなく「不安最小化」の思考が蔓延している。
その背景とは何か?
今回の記事では、サイレントマジョリティとノイジーマイノリティという言葉を使って解説していきたい。
■サイレントマジョリティとは何か?
サイレントマジョリティとは、積極的に発言しない多数派のことだ。サイレントマジョリティの反対は、積極的に発言する少数派である。あまりに声高に主張するので「ノイジー(うるさい)」「ラウド(やかましい)」という言葉をつけて「ノイジーマイノリティ」「ラウドマイノリティ」と呼ぶこともある。
サイレントマジョリティを無視してはならない。
「月曜日に有給休暇をとるなんて、社会人として失格だ」
「入社一年目は有給休暇をとらないことが常識だぞ」
このようなことを日ごろからマネジャーが口にしていたら、メンバーは有給休暇をとりづらいだろう。「同調圧力」が働くからだ。
だからこそ心理的安全性が重要なのだ。サイレントマジョリティが「サイレント」にならないために。
■ノイジーマイノリティとは何か?
いっぽう声の大きなノイジーマイノリティは、厄介だ。少数派の意見も、もちろん無視できない。しかしマネジャーが心理的安全性の概念を誤解し、ノイジーマイノリティの意見を重視し過ぎると、組織内のバランスが崩れることがある。
学校の給食でたとえてみよう。
生徒の中に海老アレルギーの人がいた。その生徒が、
「私は海老を食べられないので、給食で海老が出たら食べなくてもいいですか?」
と言ってきたら、無視してはいけない。
「そんなことを言っていたら、みんなも真似する。君だけ例外は許さない。何でも残さずに食べろ」
などと先生が言ったらハラスメントだ(ハラスメントで済まないかもしれない)。本人だけ別のメニューを提供するか、お弁当持参を許可する等の個別対応が必要だろう。
しかしその生徒(もしくは親)が、
「海老アレルギーの生徒がいるのに、給食に海老が入ったメニューがあるのはおかしい。すぐに給食のメニューから外すように」
と訴えたら、ノイジーマイノリティである。個別対応ではなく、全体対応してしまうと、前述したとおりバランスが保てなくなる。
新刊『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』では、どのようにバランスをとるのか11のルールを解説した。
心理的安全性は大事だ。もちろん傾聴も重要だ。しかし、どの意見に耳を傾け、どの主張は個別対応し、どんな提案はスルーすべきか。それを見極めないといけない。
「若者に強く言えません。強く言うと辞めてしまうから」
という超草食系上司の訴えは、本当に正しいのか。中には厳しく言われると、退職したくなる若者もいるだろう。しかしそれは大多数なのか、それとも一部の少数なのか? それを見極めるべきだ。
厳しいかどうかは別にして、キチンと指導してほしいという若者も多いのではないか。
ノイジーマイノリティに惑わされていると、職場におけるモラルハザードを引き起こすリスクがある。マネジャーのバランス感覚が問われている。