シリアからウクライナにロシアの傭兵とアル=カーイダの外国人戦闘員が入る
「今世紀最悪の人道危機」に苛まれていたシリアから、「第二次大戦以来最大の紛争」と評されるようになっているウクライナに傭兵が入ったとの報道が相次いでいる。
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ワグナー・グループと「ダーイシュ・ハンター」の戦闘員がウクライナへ
英国に本社を置くパン・アラブ系メディアのアラビー・ジャディードは3月8日、シリアの反体制派を監視追跡するロシア軍部隊に勤務する複数筋の話として、ロシア民間軍事会社のワグナー・グループと民兵組織「ダーイシュ・ハンター(サーイドゥー・ダワーイシュ)」の戦闘員多数がシリアからウクライナに転戦したと伝えた。
同筋によると、ロシアはこの15日間で、ヒムス県タドムル市東の第3石油ステーション(T3)周辺の油田地帯、同県東部のシャーイル油田、ダイル・ザウル県の油田地帯に展開していたワグナー・グループの戦闘員約500人を、ウクライナでの戦闘に参加させるため、駐シリアロシア軍司令部が設置されているラタキア県のフマイミーム航空基地からイリューシンII-76輸送機でロシア領内に移送した。
これに加えて、ロシアは「ダーイシュ・ハンター」の戦闘員約300人もシリア中部の砂漠地帯からウクライナに転戦させたという。
「ダーイシュ・ハンター」は2017年にロシア軍とワグナー・グループの監督のもとに結成された民兵で、兵力は約1,500人、そのほとんどがロシア人だが、一部シリアの沿岸地方出身者も参加している。
タドムル市、ヒムス県、ダイル・ザウル県の砂漠地帯でロシア軍とともに、ダーイシュ(Da’ish、アラビア語のal-Dawla al-Islamiya fi al-‘Iraq wa al-Sham(イラクとシャームのイスラーム国)の略語)、すなわちイスラーム国に対する「テロとの戦い」に参加、その後はロシア軍に油田地帯の防衛任務を任されていた。また、一部はリビアに派遣され、ハリーファ・ハフタル将軍率いるリビア国民軍を支援する任務にあたっていた。
同複数筋によると、ウクライナでの任務完了後は、シリアに帰国し油田防衛の任務に再びあたる予定だという。
親政権シリア人民兵はいまだ派遣されず
その一方、アラビー・ジャディードは、同複数筋の話として、ロシア軍が親政権シリア人民兵をウクライナでの戦闘、とりわけ市街戦に参加させるために募集しているとする一部報道を否定した。
米『ウォールストリート・ジャーナル』誌は3月7日、複数の米政府当局者の話として、ウクライナ都市部に向けてロシア軍が進軍を続けるなか、ロシア政府が市街戦の経験が豊富なシリア人を募集していると伝えていた。
だが、シリア国内ではロシア軍を支援するためウクライナに民兵を派遣する用意があると表明する者が現れている。
英国のパン・アラブ日刊紙『クドス・アラビー』は3月7日、シリア軍を支援する民兵組織である国防隊のキリスト教徒司令官がロシア軍を支援するため、ウクライナに戦闘員を派遣する用意があると表明した。
シリア人ジャーナリストのハマーム・イーサー氏によると、ウクライナへの戦闘員派遣の意思を表明したのはハマー県スカイラビーヤ郡で国防隊の司令官を務めているナービル・アブドゥッラー氏。
アブドゥッラー氏と彼が指揮する部隊は、ロシアから多大な支援を受け、対人ミサイル、暗視装置、地雷・爆発物探知機などを入手していたという。
アブドゥッラー氏自身はロシアとの密接な関係を隠し立てせず、モスクワにも度々訪れている。
シリアの複数の軍事筋によると、スカイラビーヤ郡の国防隊は、ロシア軍とともにハマー県、イドリブ県での反体制派との戦闘や、シリアの中部砂漠地帯でのイスラーム国との戦闘に参加してきた。
なお、3月5日には、アブドゥッラー氏がフェイスブックの自身のアカウントで、ロシア軍士官と撮った写真を公開している。
この写真には、「ウォロディミル・ゼレンスキー」が書かれたブタも映っており、ブタはその後殺され、ロシア軍士官に振る舞われたようだという。
アル=カーイダがウクライナ入り?
こうしたなか、ロシアのスプートニク通信(アラビア語版)が3月7日、シリア北西部から外国戦闘員ら450人あまりが、トルコを経由して、ウクライナ入りしたと伝えた。
ウクライナに到着した戦闘員の親族らの話によると、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)の複数の司令官は先週初め、中国新疆ウイグル自治区出身者からなるトルキスタン・イスラーム党、新興のアル=カーイダ系組織でシャーム解放機構とは対立関係にあるアンサール・タウヒードやフッラース・ディーン機構の司令官らと複数回にわたって会合を開き、トルキスタン・イスラーム党、アンサール・タウヒード、フッラース・ディーン機構に所属する一部外国人戦闘員がトルコ経由でウクライナに入ることを認める合意を交わした。
複数筋の話によると、イドリブ県からウクライナ入りした外国人戦闘員の数は現在のところ150人あまり。ベルギー、フランス、中国、モロッコ、チュニジア、チェチェン、英国出身者がほとんどだという。
加えて、イドリブ県やアレッポ県の複数地域からシャーム解放機構、アンサール・タウヒード、シリア・ムスリム同胞団の系譜を汲みトルコが全面支援するシャーム軍団、そして同組織などを主体としTFSA(Turkish-backed Free Syrian Army)として知られる国民解放戦線のメンバーら300人も派遣されたという。
このうち、シャーム解放機構のメンバーは、組織の幹部らとの間に問題を抱え、監禁やハッド刑といった厳しい嫌がらせに直面していた者たち。
ウクライナへの派遣は幹部とメンバーが双方にとって関係を修復する好機と捉えられているという。
シャーム解放機構は、ロシアがウクライナで特別軍事作戦を開始した当初は、シリア北部で戦端を開き、ロシア軍、シリア軍への攻撃を再開することを主唱する動きを嫌い、ウクライナのイスラーム教徒に決起を呼び掛けるなどしていた。2020年3月にロシアとトルコがシリア北西部で停戦合意を交わし、これを遵守することで生き残りを賭けていたためだ。だが、今回の戦闘員の派遣を通じて、シリア国内の主戦派の不満の「ガス抜き」を行ったかたちだ。
戦闘員450人は、3月3日に3回に分けてイドリブ県のヒルバト・ジャウズ村からトルコ領内に入り、トルコの諜報機関に所属すると思われる複数の監督者が統轄するなか、3月6日夜にウクライナに移送されたという。
ウクライナに派遣される戦闘員には、シリア人で月1,200~1,500ドルの報酬を与えられるという。外国人戦闘員の報酬額は定かではないという。