シリアの反体制派戦闘員がウクライナでロシアと戦う意思を表明、ウクライナ国籍のシリア人も民兵を結成
市民による平和的な抗議行動が、弱者の正義を振りかざした暴力に変貌しようとしている。
場所は言うまでもなく、ロシア軍の攻撃に晒されているウクライナだ。
だが、フリーダム・ファイターになろうとしているのは、ウクライナの市民だけではない。
2011年に「アラブの春」が波及して以降、「今世紀最悪の人道危機」と呼ばれて久しいシリア内戦において、シリア政府、そしてそれを全面支援してきたロシアへのルサンチマンに苛まれたシリアの市民(を自称する活動家)のなかにも、暴力の応酬に身を投じようとする者が残念ながら現れ始めている。
アブーTOWがウクライナ行きへの意思を表明
最初の声が上がったのは、アル=カーイダ系組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が軍事・治安権限を握り、自由と尊厳の実現をめざす「シリア革命」の最後の牙城と目されるイドリブ県だ。
ロシア軍がウクライナで戦端を開いた翌日の2月25日、米国製のTOW対戦車ミサイルによる狙撃の名手であることから、スハイル・アブーTOW(アブーはアラビア語で「お父さん」の意味)の異名で呼ばれるスハイル・ムハンマド・ハンムードがツイッターの自身のアカウントを通じて、ウクライナでロシア軍との戦闘に参加する意思を示した。
ハンムードの書き込み内容は以下の通りだ。
ハンムードは、シリア内戦が勃発する前はシリア軍に従軍していた。だが、2011年に政府が執拗に抗議デモを弾圧したことを受けて軍を離反、反体制活動に従事するようになった。
2012年6月から2013年4月頃までイドリブ県ザーウィヤ山地方でシリア軍との戦闘に参加したハンムードは、第21部隊連合、第1沿岸師団、第13師団、ハズム運動など、自由シリア軍諸派として知られる武装集団に所属、その後、シリア・ムスリム同胞団の系譜を汲み、トルコが全面支援するシャーム軍団に参加した。
ハンムードはまた、大のヌスラ戦線(シャーム解放機構)嫌いで知られ、2014年から2015年には彼らと戦火を交えた。だが、2017年4月にシャーム解放機構に拘束され、「宗教を揶揄した」として1カ月の禁固刑に処された。
釈放後は長らく公の場から姿を消していたが、2020年2月10日に戦線に復帰し、「決戦」作戦司令室に参加し、トルコ軍とともに、シリア軍、ロシア軍と戦った。
「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構と、シャーム軍団などを主体とする国民解放戦線(シリア国民軍)などからなる武装連合体である。
ウクライナ国籍のシリア人ビジネスマンが民兵結成
ハンムードがウクライナ行きの意思を示した翌日の2月26日、今度はウクライナ国内で反抗の声が上がった。
シリア人ビジネスマンでウクライナ国籍を持つターリク・ジャースィムを名乗る人物が、黒海沿岸に位置するウクライナ南部の都市オデッサで民兵を結成したと発表、ロシア軍に抵抗する意思を示した。
ジャースィムはビデオ・メッセージのなかで以下のように述べた。
ジャースィムは1985年、アレッポ市生まれ。高校を卒業後、2005年にウクライナに留学し、首都キエフの大学で建築工学を学んだ。その後、ウクライナ国籍を取得し、建築事務所に就職、不動産業務に携わった。
備忘のために
なお、在イスラエル・ウクライナ大使館は2月26日、フェイスブックのアカウントを通じて、ロシアに対する義勇兵のリストを作成すると発表し、登録を呼びかけていた。