ウクライナでのロシアに対する「名誉ある戦い」を「ジハード」にしようとするシリアのイスラーム過激派
シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)を主体とする反体制派の支配下にある同国北西部のいわゆる「解放区」で、ウクライナでのロシア軍に対する反抗を「名誉ある戦い」とみなす機運が強まるなか、それを「ジハード」にすり替えようとする動きが垣間見られるようになっている。
高まる「名誉ある戦い」の機運
シリア政府に反対の立場をとるレバノンのニュース・サイトのムドンが2月28日にアレッポ県の反体制派軍事筋の話として伝えたところによると、「解放区」の住民は、ウクライナの戦況に並々ならぬ関心を示し、あたかもそれが自分たちの戦いであるかのように感じているという。住民らは、ロシア軍が敗北し、ウクライナ上空でシリア軍戦闘機が撃墜され、戦車や兵員輸送車が街道や市内で焼かれるさまを目にすることを心待ちにしているのだという。
同筋によると、「解放区」を拠点とする反体制派の多くは、リビアやアゼルバイジャン・アルメニアをめぐってロシアとトルコが対立した際に、トルコによってシリア国民軍(Turkish-backed Free Syrian Army)の戦闘員が傭兵として国外に派遣されたことを嫌ってきた。だが、ロシア軍が2月24日にウクライナで特殊軍事作戦を行うとして侵攻したことで、多くの住民が、ウクライナ側に立って戦闘に参加することを「名誉ある戦い」と捉え、シリア政府の転覆と自由、尊厳の実現をめざす「シリア革命」を利すると考えるようになっている。
こうした変化のなか、国際社会がウクライナへの支援に合意し、その意思を明確に示せば、多くの反体制派戦闘員が率先して、支援に参加することが予想されるという。
「スハイル・アブーTOW」の異名で呼ばれる反体制派戦闘員が2月25日に、ウクライナでロシア軍との戦闘に参加する意思を示したのは、こうした機運を背景にした動きだと言える(「シリアの反体制派戦闘員がウクライナでロシアと戦う意思を表明、ウクライナ国籍のシリア人も民兵を結成」を参照)。
また、トルコのイスタンブールを拠点として活動する「ホテル革命家」の筆頭で、欧米諸国がかつて「シリア国民の正統な代表」と一方的に認定したシリア国民連合(正式名はシリア革命反体制勢力国民連立)のハイサム・ラフマ事務局長が2月26日に、以下のように述べ、反体制派への高性能兵器の供与を呼び掛けたのもこうした機運を受けたものである。
シリアでロシア軍への戦端を開くことを唱道するイスラーム過激派
だが、ロシアの侵略に対する「名誉ある戦い」を「ジハード」へと変貌させようとする動きも目に付くようになっている。
前述のムドゥンは2月25日、シリア国内で活動を続けるイスラーム過激派が、シャーム解放機構に対して、ウクライナ侵攻をめぐるロシアへの欧米諸国の批判や制裁を利するかたちで、「解放区」と政府支配地が接する境界地帯でもロシア軍とシリア軍に対する戦端を開くよう圧力をかけていると伝えた。
2020年3月のロシアとトルコの停戦合意以降、ロシア軍やシリア軍との全面衝突を回避するようになったシャーム解放機構に反対し、「解放区」で活動を続けるエジプト人のアブー・シュアイブ・ミスリー(タルハト・マスィール)は2月24日、テレグラムで次のように述べ、決起を迫った。
またムドンによると、シャーム解放機構を離反したアブー・ヤフヤー・シャーミーもこう述べた。
ウクライナでの反抗を煽るシャーム解放機構
これに対して、シャーム解放機構は、シリア国内ではなく、ウクライナでの戦闘への参加を煽る声を上げた。イラク人幹部のアブー・マーリヤー・カフターニーは2月26日、次のように述べ、ウクライナのイスラーム教徒にロシア軍と戦うよう呼びかけたのである。
また、「シリア革命」を支持し、イスラーム過激派に近いイスラーム法学者のアイマン・ハールーシュも27日にテレグラムを通じて次のように述べ、ウクライナへの支援を唱道した。
シリア大統領府のルーラー・シブル特別顧問(政治報道局長)は2月28日、ロシアのスプートニク・ニュース(アラビア語版)のインタビューに応じ、ロシアのウクライナでの軍事作戦への支持を表明する一方、「我々には過激な武装勢力が中東からウクライナやカザフスタンに向かったとの情報がある」と述べた。
シブル特別顧問の発言は、ロシアを支持するシリア政府のプロパガンダかもしれない。だが、「解放区」で広まるウクライナでの戦闘参加を是認する機運がかたちを得て、「独裁者プーチン」に対するウクライナの「正義の戦い」であったはずの反抗に、アル=カーイダを含む過激派が加わるような事態が発生すれば、「民主化」と称されていた抗議運動がアル=カーイダによってハイジャックされ、「今世紀最悪の人道危機」と称された混乱に至ったシリア内戦の二の舞になりかねない。