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駅のエスカレーターでは、なぜ立ち止まる必要があるのか? 26日からキャンペーン開始

小林拓矢フリーライター
駅のエスカレーターでは片側空けが一般的である(写真:アフロ)

 駅のエスカレーターで、急いで駆け下りる人を見かけることは多いだろう。またエスカレーターの片側にしか立たないという習慣のため、ホーム階から改札階まで行く場合には、混雑が激しいということもある。

 そんな中、今月26日から11月30日まで、鉄道各社局などでは「エスカレーター『歩かず立ち止まろう』キャンペーン」を開始することになった。駅にポスターを貼り、PRしていくという。

 なぜ、このようなキャンペーンが行われることになったのか。

駅に掲示されるポスターの画像(キャンペーンプレスリリースより)
駅に掲示されるポスターの画像(キャンペーンプレスリリースより)

駅のエスカレーターの危険性

 駅のエスカレーターは商業施設などのエスカレーターと異なり、長く、かつ多くの人が利用する。また、混雑時には多くの人が殺到し、危険な状態ともなっている。

 駅のエスカレーターを利用する人が、バランスを崩して転倒することは多い。また、駆け上がったり駆け下りたりする際に、他の利用者を転倒させるということもある。とくに、地下深い駅で長いエスカレーターを駆け下りると、その危険性は増大する。しかも最近では駅員がそこここにいるのではなく、監視カメラでチェックし、駅員はすぐに出てくることはない。

 そういう状況では、エスカレーターで立ち止まらず、駆け上がったり駆け下りたりということが、危険な事故を招きやすいということになると考えられる。

 実際、駅の長いエスカレーターに乗っていると、駆け下りてくる人は多く見られる。空いている時間ならまだしも、混雑時で片側だけ空いている状況で駆け下りる、という人は多い。もし何か間違いがあったら、事故につながるというのはひと目でわかる。だから「立ち止まる」ということが必要なのだ。

片側を空けることはいいことではない

 いまは、エスカレーターのマナーとして、片側を空けて急ぎの人のために道をつくる、ということが推奨されている。関東では右側、関西では左側を空けるということが基本となっている。

 しかしエスカレーターは、立ち止まって乗ることを基本とし、片側だけに負荷がかかるというのも、機械の性質上メンテナンスの難点ともなりうる。

 混雑時には、ホーム階で駅のエスカレーターに多くの人が乗ろうとし、そこで列が長くできているということも多い。その場合、エスカレーターの片側に人が乗ろうとしている。これを、両側に乗るようにすることでより多くの人を上のフロアに運ぶことができる、という方向にうながすこともまた、求められている。

 エスカレーターで片側にしか立たない、急ぐ人のためにもう片側を空けるという慣習は、左右いずれかの手すりにしかつかまることのできない人にとっては危険な事故につながるということもある。たとえば、歩行に杖を必要としている人はわかりやすいだろう。

 機械の性質や、エスカレーターでの移動の効率化、障がいを持った利用者への配慮から、エスカレーターで立ち止まることは必要である。

マナーがエスカレーターを危険に

 これまで通用してきたエスカレーターの各種マナーは、かえってよくないものであり、一部の利用者には厳しい。そもそも、急ぐ人でも歩いてはいけないということさえ、なかなか知られてはいなかった。

 多くの人の「善意」で行われていた「片側空け」の習慣が、「急ぐ人を便利に」するためのものではなく、エスカレーターの機械に負担をかけ、利用者を危険な状況にし、混雑を悪化させ、障がい者によってはかえって大変になるという状況を作り出してきた。行為が、意図せざる結果を生み出したわかりやすい例である。

「片側空け」が呼びかけられた当時は、多くの駅にエスカレーターが普及しておらず、階段しかない駅も多くあった。しかしいまでは、駅のエスカレーターは普及し、階段を使用する人が少なくなり、エスカレーターに人が殺到するようになった。

 その状態を解決しようというのが今回のキャンペーンであり、このキャンペーンにより駅のエスカレーターの利用形態が、少しでも変わることを願いたい。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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