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大阪のお好み焼き店で嫌韓されたという韓国人YouTuberが動画撮影でトラブルになった3つの理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

レストランで写真や動画を撮影

年末になると、レストランで食事する機会も多いかと思います。その際に、せっかくの食事ということで、写真を撮影し、InstagramやFacebookといったSNSに投稿することも少なくないでしょう。

最近では写真ではなく動画を撮影し、ムービーを投稿する人も多くなってきたのではないかと思います。

少し前になりますが、お好み焼き店を取材し、動画を撮影した韓国人YouTuberが、その飲食店とトラブルになったことが話題に上りました。

お好み焼き店でトラブル

動画を撮影していたYouTuberが従業員に注意されたことで怒り出し、店長を呼びつけて謝罪させたというものです。

大阪市内のお好み焼き店で動画撮影を店員に注意されて逆ギレし、店長を呼んで店員を謝罪させる――チャンネル登録者数4.2万の韓国人ユーチューバーがこんな動画を投稿して、物議を醸している。

出典:韓国人YouTuber、店員に注意され「嫌韓される!」 約300万再生、お好み焼き店は「動画配信禁止」

そしてこのことは、YouTuber自身がYouTubeに投稿したことによって公の知ることとなりました。

トラブルの概要

トラブルの概要は次の通りです。

YouTuberは入店した際に、従業員に撮影することを話し、承諾をもらっていました。しかし、撮影を進めていくと他の従業員から撮影を止めるようにいわれます。

それに対しては「撮影を許可された」「お金を払っているのに、そのような言い方はない」「それならタダで食べる」と反論。

注意を受けてからも撮影をそのまま続け、従業員に呼ばせた店長に謝罪させたということです。

そして、このお好み焼き店は動画投稿を禁止しているにもかかわらず、YouTuberはこの時に撮影した動画を編集して「大阪で嫌韓される!!観光に注意!!」という韓国語タイトルでYouTubeに投稿しました。

認識の違い

この事件が起きてしまった原因は、YouTuberと飲食店の間で動画撮影に対する意識の違いがあったことではないでしょうか。

さきほどの記事における店長インタビューでも述べられていましたが、YouTuberは動画を撮影するとはいっていたものの、YouTubeで配信するためとは伝えていませんでした。そのため、飲食店はあくまでもプライベートの撮影だと思っていたようです。

当記事では、YouTuberによる飲食店の動画撮影における問題を考えてみます。

プライベート用とYouTube投稿用の違いや、テレビとYouTubeの撮影の違いについて考察していきましょう。

撮影時間

プライベート用の動画撮影であれば、入店してから退店するまでの間、ずっとカメラを回しっ放しにするのはかなり稀なこと。プライベートでは、その飲食店でポイントと思えるようなところだけを撮影し、記録に残すことが一般的だと思います。

しかし、本件のYouTuberはYouTubeに投稿するということで、入店前からカメラを回し、入店から退店までのほぼ全てを動画に収めていました。

そうであれば、YouTuberと飲食店で認識がずれることは想像に難くありません。

飲食店にとっては、ノウハウやオペレーションの様子、客の入り具合や雰囲気など、企業秘密が詰まっているだけに、よほどのメリットがない限りは全てを動画で撮影されたくないものです。

テレビであれば丸一日密着したり、1ヶ月などの長いスパンで頻繁に訪れたりして、撮影するということがあります。しかし、そういった場合には、事前に何度も打ち合わせを行っており、飲食店は番組の趣旨を理解し、ディレクターは飲食店の希望を把握しているものです。

また、飲食店はテレビでの反響の大きさを鑑みて、密着撮影というリスクを許容しています。

こういったことを考えてみれば、単に動画を撮影するといっても、どれくらいの時間撮影するかということでは、飲食店とYouTuberに捉え方の差があったのではないでしょうか。

声の有無

プライベートで撮影する場合には、音声はそこまで必要ないでしょう。せいぜい店内の賑やかな雰囲気やスタッフによるプレゼンテーションを撮影できれば十分であると思います。

しかし、YouTubeの動画に投稿するためであれば、YouTuber自身がホストとなり、飲食店の特徴や料理の感想を述べたり、その時その時の様子を実況したりする必要があります。

ボソボソと話していては声が通らないので、それなりに通る大きな声で話さなければなりません。実際に、件のYouTuberも店内の喧騒に負けないように声を張っていました。

飲食店の中でずっと大きな声で話し続けているのは、他の客から見ると奇異に映ることもあり、飲食店にとってはあまり望まないことです。

したがって、動画を撮影するといっても、音声があるのとないのとでは、大きな違いがありますが、飲食店とYouTuberで音声の有無について共有されていなかったように思います。

ちなみに、テレビの撮影であれば、出演者であるレポーター、ディレクター、カメラマン、音声といったチーム構成が一般的。それなりに人数もいて明らかにテレビ撮影だと分かっているので、レポートしている声が聞こえても、他の客から変な目を向けられることは少ないでしょう。

また、テレビ撮影が入ると客に説明していることがほとんどなので、トラブルが起きないのです。

演出の派手さ

YouTubeに投稿する動画とあれば、やはりインパクトのあるものを制作したくなります。

そうであれば、演出も派手になってきて、さきほどの声の有無や大きさと同様に、身振り手振りが大きくなってくるものです。

テレビ撮影でもそうですが、通常では明らかにオーバーであると思われる声の大きさや起伏、リアクションなどの動きであっても、それがカメラの中に収まるとちょうどいいくらいになります。

したがって、プライベートではないYouTubeの動画であれば、テレビと同様に演出が派手になることは間違いありません。

今回のYouTuberも身振り手振りを交えて説明していますが、YouTube用の動画であれば、ある意味で当然の演出。

ただ、飲食店にとっては、あまりにも目立つことをしている客がいると、雰囲気が変わってしまうので困ります。

派手な演出があったからこそ、従業員からYouTuberに指摘があったのではないでしょうか。

飲食店の価値を上げる

テレビやラジオ、新聞や本、雑誌やWebマガジンと同様に、YouTuber自身も影響力のあるメディアです。

そして影響力のあるメディアであれば、飲食店の価値を上げるようなコンテンツを制作してもらいたいと、いつも思っています。

もちろん、嘘偽りを並べる必要は全くありません。しかし、重箱の隅をつつくような指摘を行ったり、その飲食店を自身のコンテンツの糧とするような扱い方をしたりすることには、全く賛同できません。

なぜならば、そういった飲食店のコンテンツがあるからこそ、当のメディアも存在しているからです。

飲食店におけるYouTubeの存在

飲食店を取り上げるメディアに携わっているのであれば、飲食店に対してもっと敬意の念を抱くべきではないでしょうか。

取材の大前提として、飲食店が最も大切にしている客に迷惑をかけないことは、絶対に遵守するべきことです。

そして、取材で客に迷惑をかけないこととは、すなわち、雰囲気を壊さないことも含まれているように思います。

ただ、テレビであったとしてもYouTubeであったとしても、動画を撮影していることによって、多少の雰囲気を壊してしまうことは仕方ありません。しかし、その時にどれくらい客や飲食店のことを慮っているかが重要であると思います。

件のYouTuberは、自分自身が客であるのかメディアであるのかを曖昧にしていましたが、客でありながらメディアでもあるということは、ありえません。したがって、メディアの立場に立ち、客にも飲食店にも気遣って動画を撮影するべきだったのではないでしょうか。

外食産業の中で、YouTubeというメディアがさらに発展し、YouTuberという職種がさらに信頼を獲得していくためには、残念ながらまだ課題があるように思えてなりません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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