コロナ禍で歴史的サイクロンとなる恐れ!?
世界中が新型コロナウィルスの恐怖にさらされているなか、バングラデシュでは新たな脅威に直面しています。
19日(火)現在、ベンガル湾には大型サイクロン・アンファンが発生し、サイクロン周辺の雲はインドを覆うほどの規模となっています。バングラデシュ気象局は特別気象速報を発表して、警戒を呼び掛けています。
バングラデシュとサイクロン
ベンガル湾に面するバングラデシュは、国土の多くがデルタ地帯にあり水害の発生しやすい土地です。洪水やサイクロン、高潮など毎年のように災害に見舞われ、恒常的に被害を受けています。なかでも、バングラデシュサイクロン(ボーラ・サイクロン)と呼ばれる二十世紀最大の気象災害があります。
1970年11月、当時の東パキスタンに上陸したサイクロン・ボーラは、最大風速およそ51.4m/sを記録したとされ、最大で10mの高潮が発生しました。日本では伊勢湾台風の際に記録された3.5mが国内最高の潮位上昇量ですから、そのおよそ3倍もの高さが襲ったことになります。サイクロンそのものの規模は大きくありませんでしたが、インフラが整備されていなかったこともあり、周辺地域は壊滅状態。30万~50万人の死者がでて数百万人のホームレスや貧困者が生まれたと言われています。
この災害がパキスタンからの分離独立運動に拍車をかけ、1972年に東パキスタンはバングラデシュとして独立しました。しかし、この地域がサイクロン常襲地域であることは変わりません。
1991年にはチッタゴンにサイクロン・ゴーキーが上陸し14万人が死亡、2007年にはサイクロン・シドルが、そして2009年にはサイクロン・アイラが襲来し、甚大な被害をもたらしました。1975年以降、人命や家畜、経済に大きな損失を与えたサイクロンがほぼ1年おきに繰り返されているのです。
そして今回のアンファンです。今年はMJO(マッデン・ジュリアン振動※)の影響でインド洋海域の海水温が高く(そのためフィリピン近海は下降域で台風の発生が遅れました)、サイクロンの発生、発達しやすい条件が整っています。インド気象局によると、5月19日現在、アンファンは中心気圧925hPa、最大風速60m/s(カテゴリー最大級Super Cyclonic Storm)でベンガル湾を北上中とみられ、20日には非常に強い勢力(Extremely Severe Cyclonic Storm)でインド・西ベンガル州もしくはバングラデシュに上陸すると予想されています。
コロナ禍における避難
バングラデシュは現在、コロナウィルス感染者が2万人を超え、感染拡大が続いています。政府機関や学校は閉鎖され、交通公共機関も停止。夜間の外出も禁止されるなど、実質的なロックダウンが行われています。
政府は、すでに沿岸地域にサイクロン通過による警戒を促しており、避難命令が出されるのはほぼ間違いないでしょう。1970年の被災を契機に防潮堤や高潮を防ぐシェルターの設置が進み、2015年にサイクロンが襲来した際には30万もの人々がシェルターへ避難しました。しかしながら、今はコロナ禍です。感染を恐れて避難をためらう人、また避難所の収容人数が制限されれば、避難できない人も出てくるでしょう。甚大な被害に見舞われる恐れがあるのです。
ここ数年、毎年のように気象災害が発生している日本も、対岸の火事ではありません。コロナ禍における避難、私たちにとっても真剣に考えなければならないテーマです。
※マッデン・ジュリアン振動(Madden Jurlian Oscillation)
熱帯赤道域上空で対流活動が活発な領域が約1~2か月かけて東へ進んでいく現象。「振動」のように繰り返し発生する。実際の天候としては、インド洋西部で「平年より雨量の多い領域」と「平年より雨量の少ない領域」が対になって出現し、30~60日程度かけて東へ移動し、太平洋西部に達すると消散。それと同時に再びインド洋西部で2つの領域が出現するという推移をたどることが多い。
参考資料
ASU大学HP「世界気象機関の世界の気象と気候の極値アーカイブ」
独立行政法人土木水害研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター資料第4052号「バングラデシュにおける水災害の要因分析」