働き方改革の時代は、「減点主義の時代」か?
■ 現状維持バイアスにかかったマネジャーたち
「それをやったら、本当にうまくいくんでしょうね?」
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。現場に入ってご支援させていただくため、現場のマネジャーから、このような反発をよく受けます。
「うまくいかなかったら、どう責任をとるんですか?」
「どう責任をとるんですか、って……」
「だって、これをやったら結果が出るんでしょう? そうでなかったら、やる意味がない」
現状を現状のまま維持しようとする心理欲求――「現状維持バイアス」にかかったマネジャーは、このように言って、とにかく新しいことをやりたがりません。減点方式で自己評価する、「減点主義」だからです。
■ 減点主義とは?
「減点主義」の人は、スタート時が「100点」で、うまくいかないと減点されていく評価の考え方を持っています。たとえうまくいっても加点されないので、リスクを冒すことができない。
うまくいかないのなら意味がない、「やるだけ無駄」という考え方になりがちです。
反対に、加点方式で評価する「加点主義」の人もいます。
「加点主義」の人は、スタート時が「0点」で、うまくいくと加点していく考え方をします。たとえうまくいかなくても減点されないので、完全プラス思考と言えるでしょう。
「やってみる価値はある」が口癖。
だから、たとえうまくいかなくても良い経験になる、自分の資産につながる、こう考えます。
いつも積極的にチャレンジできるのは、何もしないと0点のままだからでしょう。
■「不易流行」の教え
どちらがいい、どちらが悪い、ということではありません。松尾芭蕉がまとめた理念のひとつ「不易流行」という言葉を例にとって解説します。不易流行とは、
「いつのときも変化しない本質的なものの中にも、新しく変化を重ねているもの(流行)も取り入れていくこと」
経営はバランスです。経営をしていくうえで、守らなければならないものがあります。そして変わっていかなくてはならないものも、あります。減点主義、加点主義の人がバランスよく議論することで、経営は好転していくのです。
ただ、減点主義の人が多い組織は、改革が進まないことが多い。ブレーキがききすぎるのです。これだけ外部環境が激しく変化する時代です。加点主義の発想で組織運営できない企業は、いずれ壁にぶつかるはずです。
■「何をやってもうまくいく人」は加点主義?
「あの人は何をやってもうまく」
あなたの周りにそんな人はいませんか。羨ましいですよね。何に挑戦しても、だいたいがうまくいくわけですから。
印象で言うと、「10やったら9とか8ぐらいは、うまくいっている」ように見えます。客観的には、失敗体験が少ないような感じがする。
ところが、実態はそうでしょうか。実は真逆なのです。「何をやってもうまくいく」と思われている人は、実は加点主義だということを覚えておきましょう。
何をやってもうまくいく人は、
「10回に1回はうまくいけばいい、9回うまくいかなかったことなど何もマイナスではない」
このように考える「加点主義」の人です。ですから100回やれば10回うまくいくことになります。そのうち、うまくいかないパターンを学習して自ら消去していきますから、徐々に失敗体験が減っていきます。
その経験が積み重なって、うまくいく確率が高まります。成功の裏側に、膨大な「うまくいかなかった体験」があることを、周りの人たちは知らなくてはなりません。
■ 働き方改革時代は「減点主義」の人が増える?
2019年4月から、働き方改革関連法が施行され、残業時間の規制がとても厳しくなりました。「時短ハラスメント(ジタハラ)」がさらに増える可能性があります。
(※参考記事:4月から大企業で増えるであろう「ハラスメント」とは?)
そんな時代に、「10回に1回はうまくいけばいい」という発想が組織に受け入れられるでしょうか。
組織のトップが減点主義なら、働き方改革は向かい風となってしまいます。
「会社のためには重要なことだとわかってる。だけど、やるのは今じゃない」
「その業界を攻めたら、本当に儲かるのか? 失敗したら時間のムダだろう」
このように言われると、反論できる人は多くいません。
企業よりも古い? 大学生たちの「就職意識」で書いたとおり、若い人の安定志向はますます高まっています。したがって、強力なリーダーシップで組織を引っ張る「完全加点主義」の経営者でない限り、この時代を乗り切ることができないのではないか。そのように思えてなりません。
「余裕」をもたらすはずの「働き方改革」が、逆に多くの人のチャレンジ精神を奪いはじめている現状を、私たちは目にしています。投資と消費、浪費は違いますから、将来のための投資と思えるチャレンジは、効率を度外視していくべき時代です。