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国交省が2031年度の経営自立に向けて監督命令 厳しさ続くJR北海道は、持ちこたえられるのか?

小林拓矢フリーライター
JR北海道の看板列車「おおぞら」(写真:イメージマート)

 3月15日、国土交通省はJR北海道に対し、「事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」を下した。

 JR北海道に対しては、2018年7月に同様の命令が出され、経営改善に向けた取り組みを進めることになった。その命令をもとに、2023年度までの中期経営計画が掲げる収支改善をめざすことに。また、利用が少ない線区の「抜本的な改善方策の検討」も要請された。

 しかしうまくいかなかった。

苦境のJR北海道、なぜ経営改善ができなかったか?

 2018年7月の監督命令以降、コロナ禍が発生、人々は鉄道を利用しなくなった。いっぽうで燃料費が高騰、気動車の多いJR北海道にとっては大打撃だった。国鉄時代の気動車もJR北海道には残っている。

 普通列車用の気動車はしだいに新型の電気式気動車に置き換えられていくものの、一気に置き換えられる状況ではない。

JR北海道に導入された電気式気動車H100形
JR北海道に導入された電気式気動車H100形写真:イメージマート

 その上、利用者が少ない線区をどうするのかについては、まだ検討中という状態だ。

 輸送密度200人未満の線区は、石勝線の新夕張~夕張間が「攻めの廃線」で2019年4月1日に廃止されたのに続き、2020年5月7日に札沼線の北海道医療大学~新十津川間が廃止(ただしコロナ禍のため同年4月17日の運行をもって運休)、2021年4月1日に日高本線の鵡川~様似間が廃止(ただし2015年1月の高波で被災してバス代行になっていた)、2023年4月1日に留萌本線の石狩沼田~留萌間が廃止になった。

 残る根室線の富良野~新得間がことし4月1日に廃止(ただし東鹿越~新得間は2016年の台風で被災しバス代行になっている)となり、留萌本線の深川~留萌間も2026年3月までの運行をもって廃止になる。

 すでに廃止になったところ、もうすぐ廃止になるところと、あまりにも利用者が少なく、鉄道ネットワークの上でも重要度の低いところはだいたいなんとかしてしまうことができた。

 問題は、輸送密度200人以上、2000人未満のところである。この区分に属するところの中には、特急が走るようなところもあり、また地域内輸送で重要な役割を果たしているところもある。

 たとえば宗谷本線の名寄~稚内間や、石北本線の新旭川~網走間など、各地の中心となる小都市と札幌を結ぶネットワークに大きく貢献している路線もある。いっぽうで、日高本線の苫小牧~鵡川間のように、末端区間になってしまったところもある。

宗谷本線特急「サロベツ」
宗谷本線特急「サロベツ」写真:イメージマート

 また、廃止してしまうと、富良野市や根室市のように、主要都市でも鉄道で行けないところが出てくる状況となる。JR北海道の経営改善は必要だが、ネットワーク上残さなくてはならない路線も多くあるという状況だ。

 JR北海道は、何をすべきか。公的機関は、どんな支援をすべきか。

JR北海道は、何をしなければならないのか?

 経営自立の目標として定められた2031年度(2032年3月)までに、何をすべきか。国土交通省から発せられた命令には次のように記されている。

  • コロナ禍から急速に回復し、増加するインバウンド観光客を徹底的に取り込むための鉄道事業・非鉄道事業双方における取組の強化
  • 持続的な輸送サービスを提供していくために必要な安全投資の確保と輸送力の適正化等によるコスト削減
  • 非鉄道事業への投資戦略の具体化・実施とそのために必要な体制・人材の強化
  • DXの推進による生産性の向上やカーボンニュートラルへの積極的な貢献

 これらにより、収益を増加させコストを削減させることをめざす。

 なかなか厳しい注文である。現実のJR北海道は、過酷な自然環境、人手不足などの問題を抱えており、まずは鉄道事業を確固たるものにしていかなければならない状況に置かれている。インバウンド観光客は多く押し寄せているものの、それに対応できるだけのものをJR北海道は持っているわけではない。非鉄道事業のノウハウは、どうしても大都市の私鉄のほうが優れている。「ぬれ煎餅」を製造して鉄道事業を支える銚子電気鉄道のようなモデルは、あまりにもイレギュラーすぎる。

 じり貧状態で体質を改善するために積極的に取り組む、というのはなかなか難しいものである。

 もちろん、国や地方自治体の支援の下で、ということになっている。国は2024年度から2026年度の中期経営計画期間内には1,092億円の支援を行い、いっぽう利用の少ない線区には、設備投資や観光列車の取得に67億円を支援するという。その上で、JR北海道と地域の関係者を一体として2026年度末までに線区ごとに抜本的な改善策を取りまとめさせることになる。

JR北海道に導入された観光車両は特急にも使用される
JR北海道に導入された観光車両は特急にも使用される写真:イメージマート

北海道新幹線札幌開業まで持ちこたえられるか?

 北海道内では、バス転換しようにもバスの運転士がいないという状況が続いている。いっぽうで鉄道も経営が厳しい。国土交通省の支援では、観光列車の車両取得などが対象であり、本当にJR北海道にとって必要なものを支援してくれるというわけではない。

 JR北海道は、線路のつながるJR東日本から協力や支援を受けている。JR北海道の新型電気式気動車は、JR東日本の気動車を寒冷地対応させたもので、指定席の予約は「えきねっと」を導入している。

「えきねっと」! あの「使いにくい」「使いづらい」と言われるえきねっとである。これを嫌がる声もある。もちろん、「みどりの窓口」はどんどん閉鎖している。

 またJR北海道でも、主要な特急を全席指定にし、着席可能性の向上と、いっぽうで増収を図るといったことをしている。しかしそれがえきねっとと組み合わせられると、乗りにくいということになってしまう。

 さらに、JR北海道では運賃値上げを検討している。

 営利事業として成り立つことと、安全を確保することでは、鉄道の場合は後者のほうが重要である。しかし、苦境に立たされているJR北海道にどちらもやらせるというのは厳しいのではないか。さらに札幌圏の都市開発などはすでに力を入れており、自助努力は限界にまで達していると見ていい。

JR北海道は札幌駅周辺の開発を必死に行っている
JR北海道は札幌駅周辺の開発を必死に行っている写真:イメージマート

 利用が少ないけれどもネットワーク上重要な線区の上下分離や、あるいは税制の減免など、JR北海道に寄り添った支援も必要ではないか。

 国、北海道、地元自治体は弱い立場のJR北海道に厳しすぎる。厳しいことがいいようにさえ思っているのではないかと勘繰りたくもなる。

 JR北海道の状況が回復する見込みがあるとするなら、北海道新幹線の新函館北斗~札幌間が開業してからである。しかし、2031年3月を目標にしていた開業は目途が立たず、いつになるかわからない状態だ。北海道新幹線には社運がかかっている。

 それまで、持ちこたえられるかわからない。当然、「2031年度の経営自立」は無理である。北海道新幹線全線開業後にJR北海道の状況がよくなるということをスケジュールに入れながらの経営改善計画を立てるほうが、現実的ではないだろうか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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