大迫傑 復帰そして世界の強豪コメント NYCマラソンいよいよ明日
今年もニューヨークシティマラソン(TCS New York City Marathon)の季節がやってきた。
今年は51回目を数える。新型コロナの感染拡大で大会が2020年に中止となったが、昨年規模を縮小して復活。今年は通常通り、5万人のランナーの参加が見込まれている。
日本選手は上杉真穂(女子)、大迫傑(男子)、鎧坂哲哉(男子)、渡辺勝(車椅子、男子)、さらに多数の一般ランナーが国内外から出場する予定だ。
大会を目前に、優勝候補の有力選手(一部)に抱負を聞いた。
大迫傑
20年東京大会で自己記録、マラソン復帰戦
2020年の東京マラソンで自己記録(2時間05分29秒)を出し、21年の東京五輪(6位)後に引退した大迫傑選手。今年2月に現役復帰を表明し、アリゾナでトレーニングを積んできた。5000mとハーフマラソンで復帰しているが、フルマラソンは五輪以来となる。
「復帰してから準備期間が長ければ良いと思っていた」ことから本大会の出場を決めた。「アメリカで再スタートが切れ、モチベーションが上がります」。
当日の気温予報は摂氏24度と11月にしては暖かくなる予定。「寒いより暖かい方がいいので」と条件は悪くなさそうだ。
何より、心身共に復帰後は余裕が出てきたと語る。マラソン“初戦”という意気込みはなく、リラックスできていることが伝わってきた。「しっかりと自分の力を出し走り切ることが第一目標。いつも通りスマートなレースを心がけている。後半のセントラルパークが上り坂なため、そこに向けて体力を温存して走りたい」。
アルバート・コリル
昨年同大会の勝者
昨年の同大会(男子)の勝者(タイムは2時間08分22秒)、ケニアのアルバート・コリル(Albert Korir)選手。圧倒的な強さが印象的だった。
豪快に大きくジャンプしたゴールシーン(冒頭の写真)について、「幸せな気持ちを見てくれた人々に表したかった」と振り返った。
当地の大会に強く、19年も2位に輝いている。また17年のウィーン大会、19年のオタワ大会でも優勝。今年4月のボストンマラソンは6位(2時間08分50秒)だった。
トレーニングプログラムは変えていないが「体が強くなったと感じている」と自信をにじませる。今大会に向け「準備は整った。昨年のような良い結果になることを期待している。楽しみだ」と語り、王者の貫禄を見せた。
エバンス・チェベト
ボストン大会の勝者
4月のボストン大会の勝者、ケニアのエバンス・チェべト(Evans Chebet)選手(タイムは2時間06分51秒)。2020年のバレンシア大会で、自己最高の2時間03分00秒を出すなど、調子は上り坂のようだ。
本大会ではデビュー戦となる。抱負としては「ボストンと同じ調子になれば」と語った。「まず30kmで調子が良かったらそこから35km、そしてゴールに向けてメンタルをフォーカスする」。
今大会の最大のライバルを問うと、アルバート・コリルとエチオピアのシュラ・キタタ(Shura Kitata)の2選手を即答した。「とは言えこのレースに向けトレーニングを積んできたから(勝つ)自信はある。自分のベストを出し切り、最高の結果を出したい」と語った。
ゴティトム・ゲブレシラシエ
オレゴン世界選手権の勝者
7月のオレゴン世界選手権マラソン(女子)の勝者、エチオピアのゴティトム・ゲブレシラシエ(Gotytom Gebreslase)選手(タイムは2時間18分11秒)。昨年のベルリンマラソンでも1位の成績を残している。
3位だった今年3月の東京マラソン(2時間18分18秒)についても「非常に良いレースだった」と振り返る。
本大会で勝つための戦略を尋ねると、余裕の笑みを見せながら、こう一言放った。「勝つだけ。ただそれだけよ」。大会で結果を出すためにトレーニングを積み、今ここにいる。そして迎える本番。「余計な戦略はなし」と自身の奥底からの自信がみなぎる。筆者の斜め後ろにいた記者が「勝つだけ。好きだわ、その答え」とうなずいた。
そのほかの強豪選手
2017年のシカゴ大会の勝者(21年は2位)のガレン・ラップ(Galen Rupp)選手は本大会ではデビュー戦となる。36歳の今「10年、15年前にやれていた厳しい練習をこなせない現実がある反面、年齢と共に心臓機能はより鍛えられている」「練習を積めば、例え40歳であろうと世界記録更新は可能」と前向きな姿勢を見せた。「タイムより順位重視」と語り、優勝を目指す。
かつての米女子記録保持者のケイラ・ダマト(Keira D'Amato)選手も本大会ではデビュー戦。「今年は調子がいい。スタート時は気分が高揚しスピードが上がりがちだが、過去のレースの敗因を糧に、周囲を窺いながらペースを上げるべきか否か冷静に判断したい」と語った。
東京五輪米代表選考会で1位でゴールしたアリフィン・トゥリアムク(Aliphine Tuliamuk)選手は、翌21年1月(五輪の半年前)に出産。新型コロナ規制が敷かれる中、授乳が必要な乳児を母親が帯同できるようルール変更を求めてIOCに働きかけ、それが叶った。五輪レースでは腰の故障で途中棄権し結果を残せなかったが、本大会で再起を賭ける。
今年のソウル大会(タイムは2時間04分51秒)で米大陸の記録保持者となった、ダニエル・ド・ナシメント(Daniel Do Nascimento)選手、今年10月のシカゴ大会(車椅子、女子)の勝者、スザンナ・スキャローニ(Susannah Scaroni)選手らの活躍も見逃せない。
5000mで東京五輪をはじめさまざまな大会でメダルを獲得しているケニアのヘレン・オビリ(Hellen Obiri)選手は、今大会で初マラソンに臨む。
市内各所でイベントも
市内各所では、ちびっ子マラソンやLGBTQランナーなどさまざまな関連イベントが開催され、本番への機運が高まっている。
4日にはセントラルパークのゴール付近で、オープニングセレモニーが開かれた。各国ランナーや応援団によるパレードがあり、日が暮れた後は花火が夜空を舞い、祭り気分を盛り上げた。
本番当日、沿道では一般市民からの声援に加え、DJやパフォーマーが出場者の気分を盛り上げる。音楽に躍動された一般ランナーの中には仮装姿でノリノリな人やリズムに合わせて踊りながら走る人の姿も見かけるほど。
2019年には出場した5万4118人のランナーのうち、5万3639人が完走。どの国際マラソンよりも完走者が多い。その理由の1つとして「声援が勇気づけに繋がっていたら嬉しい」と語るのは、沿道からの応援を始めて10年以上になるニューヨーク太鼓愛好会の代表、遠山京子さん。毎年声援を送る場所は、サウスブロンクスからと決めている。「コース後半に差し掛かり、地域柄沿道の人も少ないので、そんな場所から太鼓の音色でランナーを勇気づけられたら」と語る。
選手、応援団、受け皿となるニューヨークの街、すべての準備は整った。あとは本番を迎えるだけだ。
(Interview, text and photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止