ブログの曲がり角──盗用ブログがあふれる時代
コミュニケーション志向ブログの衰退
Twitterやフェイスブックをはじめとするソーシャルメディアが話題となって、もう何年も経ちます。ここ数年はインスタグラムやLineなども広く浸透していますが、その一方で、以前ほど一般ユーザーのブログ利用が目立たなくなってきています。
ブログが日本で普及し始めたのは2003年ごろから。それまでのホームページと異なり、コメントやトラックバックなどの機能を付加することで、ユーザー同士のコミュニケーションをより活性化させました。こうしたブログ運営主には、大きく分けてふたつの指向性がありました。ひとつが発信志向で、もうひとつがコミュニケーション志向です。
発信志向のブログとは、独自の分析や蘊蓄など、知識や情報を中心に発信しているものです。もちろん発信した先には受信するひとが必ずいるのでコミュニケーション志向とも言えますが、そこでは不特定多数の読者が前提とされているところが特徴です。つまり、ブログ主を知らないひとが読んでも楽しめる記事が目的とされています。
一方、コミュニケーション志向のブログとは、“特定の相手”へのメッセージやそれにともなうトラックバックの応酬を中心に構成されているもの。ここで言う「特定の相手」とは、同じブロガー同士のコミュニケーションもあれば、現実空間の友達へのメッセージボードとして使っているサイト(そこではアクセス数が少ないことが前提とされている)も指します。
しかしこのふたつのうち、コミュニケーション志向のブログはいまはかなり目立たなくなってきました。とくに、現実空間での友人に向けたブログなどはほとんど見なくなりました。若いひとには、「そんなものがあったのか!」と思うひとも少なくないかもしれませんが、ソーシャルメディアが流行る前は少なからず存在したのです。
揺れるアメブロとFC2
コミュニケーション志向のブログが減った理由は、それほど複雑ではありません。ブログのコミュニケーション機能の代替となるサービスが、次々と生まれたからです。ひとつがmixiやフェイスブックなどのSNS。もうひとつがTwitter。そしてLine。さらに写真に特化したSNSのインスタグラムです。
ネットでコミュニケーションを求めるひとにとって、ブログとはなんでもできるがゆえに中途半端な仕様です。そこで、コミュニケーションの機能を個別に特化させたサービスが生まれ、強い発信志向(発信力)を持たないユーザーはそちらに流れたのです。
SNSは友達同士の関係を強化するのに役立ち、文章を書くのが苦手なひとには字数制限のあるTwitterや写真のみのインスタグラムは楽ちん、個別に連絡をとるだけならLineで十分ということになります。こうしてコミュニケーション志向のブログは、SNSの要素を持つアメーバブログやはてなブログなどに一部残存する以外は、かなり減りました。ブログが抱えていた機能はこうして分散されたのです。
一方、発信志向のブログも多くの淘汰に晒されました。現在にいたるまで各種専門家や芸能人が多くブログに参入することにより、身元を隠した一般ブロガーは相対的に目立たなくなってしまいました。もちろんそのなかから書籍を出版したり、あるいはこのYahoo!ニュース個人にスカウトされるような優秀なブロガーもいましたが、そのほとんどはプロによって隅に追いやられてしまったという印象です。
とは言え、ブログがなくなったわけでもありません。現在も、日本には20以上のブログサービスが存在します。電通総研によると、各ブログへのアクセス人数(2013年度)は右の表のように推定されています。
トップから順に、アメーバブログ、FC2ブログと続くこの並びに、それほど違和感はありません。たしかにこれらのブログはよく見かけるからです。
また、アメーバとFC2は、ブログ以外のサービスでもユーザー数を確保しているのが特徴です。アメーバブログは、アメンバーと呼ぶ会員機能をもっておりSNS的な要素も強いサービスです。さらにゲームや大喜利などのサービスが併設されています。FC2も、ブログと同じほど動画サービスが目立っています。
しかし、このふたつのブログサービスを運営する会社は、昨今ネガティブにも注目されています。まずアメーバブログを運営しているサイバーエージェントが、ネイティブ広告と呼ばれるステルスマーケティングで騒がれたのは、つい最近のことです。
さらに、サイバーエージェント社のバイラルメディア『Spotlight』が、個人ブログの写真を盗用したことが騒動となったのもついひと月ほど前のことです。
・鈴木こあら「パクリメディア Spotlightのライターが盗用した先のブロガーを脅している!」(『鈴木です。』)
・「サイバーエージェントのバイラルメディア『Spotlight』に写真盗用記事 著作者の抗議にライター『傷ついた』と“逆ギレ”」(『ITmedia』)
一方、FC2の方は言うと、4月に実質的な運営会社とされた会社の社長と副社長が逮捕されました。昨年、FC2動画においてわいさせつな動画配信をしていた男性が逮捕・起訴されており、それを幇助していたという容疑です。しかし、このふたりが本当にFC2の経営者なのかどうかはいまのところ定かではなく、結局勾留は認められずに先日釈放となりました。今後は任意で捜査が続けられるようですが、起訴されるかどうかは微妙です。なお、その一方でFC2動画からはどんどんわいせつな動画が削除されているという話を耳にします。
かように、日本のトップ1、2のブログサービスがいま揺れています。そして実は、こうしたブログサービスの問題ある運営には、個人的にも悩まされてきました――。
「暗号」による削除対応
「シークレットコード:BgWEy」
読者の方にはなんのことかわからないかと思いますが、これは私のプロフィールにある「BgWEy」のことです。実はこれ、サイバーエージェント社・アメーバカスタマーサービスと私との間で交わされた暗号でした。ことの顛末は以下のようなものです──。
4月3日、私はこの『Yahoo!ニュース個人』で「東方神起・ユンホ入隊から見るK-POPと兵役」という記事を発表しました。それはYahoo!トピックス(トップページ)に掲載されたこともあり、非常に大きな反響を呼びました。しかし、それゆえに記事の盗用も大変多かったのです。そのほとんどは著作権法の引用規定に収まらない、全文転載でした。
なかでも目立ったブログサービスは、サイバーエージェント社が運営するアメーバブログです。その数は、23ブログ24記事に及びました。次に多かったのは、Yahoo!ブログの7つ。他には、FC2ブログ3つに、Facebookなどがひとつずつです。アメーバブログは群を抜いて多かったのです(Yahoo!ブログはYahoo!ニュースの読者が多いことが関係しているのでしょう)。
そこで、それぞれのブログ主にメッセージやコメント欄で、削除を求めました。時間はかかりましたが、最初の21ブログ中18ブログは削除に応じました。しかし、残りの3つはそれに応じなかったり、コメントやメッセージを受け付けない設定にしていました。仕方ないので、サイバーエージェント側に削除を求めました。
そのときに交わされたコードが「BgWEy」でした。これは、削除を求めた私が、この『Yahoo!ニュース個人』の執筆者と同一人物であることを証明する暗号だったのです。この方法は、私からメールで提案したものでした。私が記事とプロフィール欄に暗号を入れることで、削除申立人が本人であることを確認しようとする手段です。
この提案に対し、サイバーエージェント社のアメーバカスタマーサービスも、すんなりと応じてくれました。その結果として、残り3つのブログ記事も「規約違反」ということで削除されました。さらに、それ以降に生じた盗用も私のメールアドレスから伝えるだけで、サイバーエージェントはすぐに削除してくれています。この記事だけでなく、他の記事においても同様にです。
これはひとつの前例となるもので、今後はアメーバブログに記事を盗用された方ならだれでも使うことができる手続きとなるでしょう。
それにしても、なぜ私はこのような手続きを採る必要があったのでしょうか。そして、アメーバ以外のブログサービスは、ふだんはどのような手続きで著作権法違反に対処しているのでしょうか。
高いハードルのアメブロ削除依頼
そもそもアメーバブログでは、こうしたシークレットコードを使った削除依頼を公式には受け付けていません。もちろん今回認めた結果、この手続きは実質的に公式化したわけですが、基本的には定食屋の裏メニューみたいな感じです。
そもそもアメーバブログの著作権法抵触による削除ガイドラインは、以下のように公式ページに記載されています。
ご覧のとおり、その手続きは非常に面倒なものです。なかでも大きなハードルとなるのは印鑑証明です。そもそも印鑑登録をしていないひとも多いかと思いますが、これは申立人(この場合は私)が本人であることを確認するために必要だとサイバーエージェントは説明しました(※)。加えて身分証明書のコピーといっしょに書留でサイバーエージェント社に郵送する必要があります。
私はサイバーエージェント社に対し、この手続きにふたつの不備がある、と伝えました。
ひとつが、印鑑登録で本人確認などはできないということ。なぜなら、元記事の執筆者が本名だとは限らないからです。私はたまたま本名ですが、ペンネームを使っているひとは珍しくありません。もうひとつが、それらの費用を誰が負担するか明記されていないことです。
こうしたアメーバブログの削除のハードルの高さは、これまでもかなり問題視されてきました。なかにはブログを立ち上げて、サイバーエージェントの姿勢を問う方もいたほどです。
実際、その削除ガイドラインとは、プロバイダ責任制限法を遵守することで、著作権法違反を見逃すという、法律を逆手に採った手法にも取れます。もっと言えば、あえて削除ガイドラインを厳しくすることで、カスタマーサービスの手間を惜しんでいるようにも見えます。サイバーエージェント社のコンプライアンス(法令遵守)の結果として、あからさまな盗用記事が放置され続け、同時にアメーバブログに盗用ブログが集まることとなっているからです。
アメブロに盗用ブログがあふれる理由
そこで気になるのは、他のブログの著作権法違反の記事への対処です。前述したように、今回はYahoo!ブログやFC2、Facebookなどでも盗用が見られました。また、過去には忍者ブログやはてなブログにも削除依頼を出したことがあります。こうしたさまざまなブログサービスへの削除依頼手続きは、思った以上に各社異なります。
今回の例で言えば、FC2とFacebookは即座に削除されました。FC2は申し立てから3時間で削除され、Facebookは、記事の削除だけでなくその投稿をしたユーザーのアカウントも停止したようです(これはそのユーザーから謝罪メールが来たことにより判明しました)。この両社がこれほどまでに迅速な対応を取るのは、アメリカの企業であることも関係しているのでしょう。窓口をラスベガスに置くFC2は、デジタルミレニアム著作権法を遵守することを明記しています。なお、もちろんこの際は本人確認を必要としませんでした。
一方、日本の企業であるはてなや忍者ブログは、盗用したブログ主に自主的に削除をするように求めました。Yahoo!ブログは専用フォームからの通報で数日を要しますが削除となります。なんにせよ、アメーバブログと異なるのは、本人確認を必要としなかったことです。
こうした各社の手続きを見ていると、アメーバブログのみが極端に削除のハードルが高いことが見えてきます。同時にそれが、アメーバブログに盗用記事が野放しになりやすい状況を意味することは言うまでもありません。
盗用意識の低いブログ主
一方、アメーバブログで記事を盗用するユーザーは、どのような姿勢でブログを運営しているのでしょうか?
今回、メッセージ(アメーバブログの機能)やメールで7人のユーザーが私に接触してきましたが、そこからは非常に素朴な態度が見て取れました。メールをしてきた全員が、盗用という意識がほぼ皆無だったのです。もちろん、なかには最初から盗用記事で成立しているアフェリエイト目的のブログもありますが、多くはそもそも盗用という感覚がないようでした。実際、彼らが記事を盗用する際にしばしば添えているのは、「記事をお借りします」という一文です。盗んでいる意識はそもそも乏しいのです。
また、東方神起にかぎらず、アメーバブログには芸能系のブログが多く集まる傾向があります。そもそもアメーバブログも、芸能人自身のブログを集めることでユーザー数を増やしてきた経緯があります。ですから、東方神起にかぎらず芸能人のファンブログが多いわけです。
こうしたファンブログでは、全文転載した盗用記事をファン同士のコミュニケーションのネタとして使う傾向があります。そのコミュニケーションはフェイスブックやTwitter的だと言えますが、一方で記事を保存しておきたいという欲求もかいま見えます。いわば備忘録でもあるわけです。
前述したように、アメーバブログはアメンバーと呼ばれるSNS的な機能をもつサービスです。芸能人ブログを除けば、その多くが発信志向ではなくコミュニケーション志向です。しかし、そこにはフェイスブックやTwitterのように、リンクを貼れば自動的にサムネイルが作られるような仕様はありません。全文転載の盗用が目立つもっとも大きな要因は、おそらくここにあります。つまり、ユーザーがSNS的に使っているのに(コミュニケーション志向)、仕様は従来のブログのまま(発信志向向け)なのです。
そういう状況に輪をかけて、とても高い削除のハードルが存在するわけですから、当然違法ブログの温床となります。
さて、こうしたやり取りがあった後も、アメーバブログには何度も記事を盗用されました。5月8日には「SMエンタは“韓国のジャニーズ"になれるか」という記事を書きましたが、こちらも8つのブログで盗用をされ、削除してもらいました。メールひとつで削除してもらえるので、私自身は楽ですし、今後はこの記事の発表によって他のユーザーも個人認証をブログ経由で行えばいいので楽になるわけですが、そもそも盗用が生じないような工夫をもっと考えていただきたいと思います。
サイバーエージェントが、パクリブログの温床と化しているアメーバブログにどのように対処するのか、今後も注視していきたいと思います。
【著作権法についての付記】
なお、記事盗用の自覚がないブログユーザーには、いま一度著作権法の引用規定を確認してもらうといいかもしれません。全文転載はただの盗用ですが、一部を引用することは可能です。
引用においてのポイントは、出典元を明記することと、本文と引用文の主従関係が明確かどうかということです。また、マンガの画像も引用することは可能です。
また、著作権法はその文言を厳守すること以上に、相手の権利を侵害しているかどうかを考えることが肝要です。たとえば、本やCDのジャケットを転載することは、本来は著作権に抵触します。しかし、実際はそれらの主要なコンテンツ(本なら中身、CDなら音楽)を侵害せず、逆にその宣伝に繋がります。つまり、フェアユースなのです。よって、テレビや雑誌、新聞などにおいては、慣行的に権利者の承諾なく書影やCDジャケットが転載されています。
このように、そこで考えなければならないことは、権利者が嫌がるようなことをしないという意識が必要なのです。
※……2014年5月10日にAmebaカスタマーサービスから届いたメールより。
当社では、無断転載等の権利を侵害されている方より記事等の削除依頼をいただいた場合、ご連絡をいただいた方が権利者様であるかを確認した上で削除対応をとらせていただいております。
その確認方法として、原則としてはプロバイダ責任制限法に基づく書面でのご申請をお願いしております。
※削除の依頼やご本人様(法人様)の確認書類等により最終的な判断をするため。
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