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消極的な同士なら質が高い方が勝利……とならなかった理由(マドリッドダービー分析)

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
アルバロの同点ゴール。両チームの得点はともに高い打点、フリー、セットプレーから(写真:ロイター/アフロ)

レアル・マドリー対アトレティコ・マドリーは1-1に終わった。同じ戦い方ならクオリティが高い方が有利――なのだが、そうならなかった理由は?

レアル・マドリーが勝てなかった理由ははっきりしている。それはサッカーだからだ。

ボクシングのように判定勝ちがあればレアル・マドリーが勝っていた。バスケットボールのように大量点が入る競技ならチャンスの差がスコアの差に反映されていたはずだ。

だが、これはサッカー。ほとんど点が入らない。枠内シュート1本のチームが20本のチームに勝つことができる競技なのだ。

■敵陣に招待され、優勢に安住した結果

両チームのゲームプランは「非常に消極的」ということで一致していた。

ボールを持ちに行かない、ボールを奪いに行かない。それよりも下がってスペースを埋めることを選択する。攻撃はともにカウンター狙い――。

レアル・マドリーのボール支配率は62%にもなったが、これはボールを持ちに行った結果ではなく譲られた結果。“どっちかが持たないといけないので、持ったらそんな数字になった”という程度の意味しかない。

10人、敵地。アトレティコ・マドリーにとっては結果オーライ
10人、敵地。アトレティコ・マドリーにとっては結果オーライ写真:ロイター/アフロ

レアル・マドリーは野心に欠けた。

点を取るのなら、敵陣で敵ボールを奪ってのショートカウンターに勝るものはない。だが、最終ラインを押し上げて前からボールを奪いに行くことをしなかった。相手のボール出しへのプレス、ロスト後のプレスはいずれも緩かった。

むろん、ボールを持っていれば最終的にはラインはハーフライン付近にまで上がり、時にはそれを越えてGK以外の全員が敵陣にいる状態にまでなった。だが、これはアトレティコ・マドリーがやはりプレスを掛けず、ラインを下げた結果であって、レアル・マドリーが相手のラインを壊した結果ではない。

よって、アトレティコ・マドリーのラインは[4-4-2]または[4-5-1]で維持され、網の目が詰まるようにコンパクトになった状態で11人で守っていた。網に破れ目やギャップはなかった。

■今のビニシウスは世界一。依存は必然

レアル・マドリーにはビニシウスという瞬間風速で世界ナンバー1の選手がいる。

彼をライン際に張らせてボールを渡せば、1対1なら100%抜く、1対2でも今なら70%くらい抜けている。相手は2人掛かりでシュートコースだけは切ってくる。

だが、センタリングは阻止できない。対角侵入から縦へコースを変えられれば、2人目のDFは付いて行けない(付いて行かないでセンタリングに備えた方が得でもある)。

一方、アトレティコ・マドリーには絶対的な選手はいない。よって、彼らはより守備的に、より後退を重視せざるを得ない。最前線のグリーズマンですら自陣の後ろ半分にいるから、カウンターが相手ゴールに届かない。

試合は陣地的に、ボール的にレアル・マドリーが優勢に進める時間帯が増えた。彼らはその優勢が得点になってくれることを信じて待った。コレアが退場して相手が10人になり、勝利は確信にまで高まったことだろう。

だが、そうならなかった。

セットプレーという数的な有利不利が関係ないワンプレーで逆に先制され、追い着くのがやっとだった。

前へ出て来るリバプールには2-5で大勝
前へ出て来るリバプールには2-5で大勝写真:ロイター/アフロ

レアル・マドリーにとってはリバプールのように前に出て来るチームの方がやり易い。

自陣に誘い入れてからボールロストを待ち、ロスト後のファーストプレスをかわせば、ビニシウスが疾走するスペースが目の前に広がっている――。21日のCLではビニシウスを中心としたカウンターがさく裂する形で、2-5とリバプールに敵地で大勝していた。

■大人のチームはCL狙いへ転換か?

野心不足は気持ちがCLに向いているからかもしれない。

首位バルセロナとは7ポイント差、今日(26日)これからバルセロナが勝てば、10ポイント差にまで広がる。絶望的な差だ。一方、ディフェンディングチャンピオンであるCLでは、計算上残り5試合に勝てば優勝する(リバプールを退けたとして)。

世界一のビニシウスありきの、カウンターチームになることが、レアル・マドリーの勝利への最短距離になっている。開幕当初はプレスを強化しラインも上がってボールとプレーを支配する姿に変身したかに見えた。

だが、CLというトーナメント制では引いて守ってカウンターの方が安全に勝てる。これはアンチェロッティ監督の指示、というよりも成功体験に則ったチームの結論なのだろう。

監督が積極的に介入するアトレティコ・マドリー。比べるとレアル・マドリーは選手の自動操縦のようにみえる
監督が積極的に介入するアトレティコ・マドリー。比べるとレアル・マドリーは選手の自動操縦のようにみえる写真:ロイター/アフロ

■スペインのガラパゴス化を象徴する笛

アトレティコ・マドリーには気の毒な退場劇だった。

リュドガーにつかまれ振りほどこうとした肘が当たってのコレアの一発レッド。倒れたリュドガーはすぐに起き上がってピンピンしていた。ボールがないところの、プレーが止まっている状態での肘打ちとはいえ、あの程度の打撃で退場は、ない。ああいうナーバスな笛を吹いている限り、コンタクトに寛大な欧州の笛との差は開く一方だろう。

とはいえ、10人になったことでシメオネ監督が捨て身になり、攻撃的な交代をしたことで先制し最終的に勝ち点1を得たのだから、アトレティコ・マドリーにとっては結果オーライ、とも言える。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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