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渋谷区で路上飲酒禁止条例が成立

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

懸案となっていた渋谷区の路上飲酒禁止条例が成立いたしました。以下、東京新聞による報道。

ハロウィーン・年越し時期 渋谷の路上で飲酒禁止 条例成立

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201906/CK2019062002000133.html

上記記事内でもコメントしていますが、私自身は本条例には非常に批判的なスタンスを取っています。以下、要点をまとめます。

1. 例のハロウィン騒動は「酒」が原因なのか?

本条例制定論議のきっかけとなったのは、昨年渋谷でハロウィンシーズンに起こった大騒動であるわけですが、大前提としてあの騒動は飲酒によって引き起こされた問題なのでしょうか? 昨年の渋谷ハロウィンでは軽トラックの横転や自動販売機の破損などかなりセンセーショナルな「画」が報じられたのは事実ではありますが、この様な様々な問題は同質的な集団がひと所にあつまるという群集心理によって引き起こされるものであり、ハロウィンのみならず特定のイベントや集会などでも、それらの統制が取れなくなった時にしばしば見られるものです。「酒」が主たる原因ではないものの対策として「飲酒を禁止する」というルール充てるという行為は、無駄なルール作り以外のナニモノでもないと言えるでしょう。

2. 「路上」飲酒を禁ずることに意味があるのか?

上記のような私の主張に対しては「酒が主たる原因ではないとしても、酒がそれを助長することもあるだろう」という反論が出てくることは予想に難くないわけですが、今回の「路上での」飲酒だけを禁ずる条例がどれほど意味があるのかを考えて頂きたいです。

今回の条例制定のキッカケとなった渋谷のハロウィンイベントは路上で自然発生的に起こったイベントではありますが、例えば本条例がその他に路上飲酒の禁止を想定している大規模なスポーツイベントの開催時などは、むしろ殆どの観客は近隣のレストランやスポーツバーなどで飲酒をしながらスポーツ観戦をした上で、試合終了と共に街頭に飛び出してきます。この様な群衆に「路上飲酒」を禁じたところで、路上に飛び出して来た時には既に酒を呑んでいますから、なんら意味をなさない。その他のイベント時においても同様に、近隣の店で酒を呑めば良いだけの話であり、本条例の禁止する「路上飲酒の禁止」は問題の防止に対してなんら意味をなさないわけです。何の為にそんな条例を制定する必要があるのか?としか言いようがありません。

3. 肝心のスポーツイベント時の運用に関して、必要な論議が為されていない

今回の条例制定論議のキッカケとなったのはたまたまハロウィンイベントでありましたが、渋谷のスクランブル交差点で大騒ぎをする風習が誕生したのは、2002年の日韓サッカーW杯以降のこと。それ以降、大型の国際スポーツイベントの実施があるごとに、渋谷のスクランブル交差点で大騒ぎが起こるようになりました。今回制定された渋谷区条例では、この様なスポーツイベント開催時の条例適用も想定し、ハロウィン期間、年末年始の期間に併せて「区長が特に必要と認める期間」にも本条例が適用できるものとされています。

勿論、この種の大型スポーツイベントは固定された日取りで開催されるものではないですから、区長判断で柔軟にそれが運用できる状況が必要ではあるわけですが、一方でこれが「どの様なイベントの開催時において適用されるのか?」に関しては、十分な論議が為されているとは言えません。例えば、今年は日本でラグビーW杯が開催される予定となっていますが、このイベント開催時には渋谷に本条例が適用されるのでしょうか?来年の東京オリンピックはパラリンピックまで含めるとおよそ2カ月にわたって東京を中心にイベントの開催が続くワケですが、その間、2カ月に亘ってずっと渋谷の駅前は路上飲酒が禁止となるのでしょうか? 国際的なスポーツイベントの開催を目の前に控えての条例制定にあたっては、当然ながらそれが「どの様に適用されるのか」をより現実的に論議した上でその制定が為されていることが必要なワケですが、これまでの条例論議では今後は全て区長の責任で判断が行われる「白紙委任」状態となっているわけです。

4. 何より批判すべきは渋谷区の姿勢

そして、何より批判すべきは、渋谷ハロウィン問題が噴出して以降の渋谷区の姿勢です。渋谷区は昨年のハロウィンでの大騒動以降、問題となった群衆は「勝手に集まってきているもの」であり、問題の所在が渋谷区にないとの姿勢を貫き続けています。2016年から始まった当該エリアの歩行者天国化も、問題の発生以降「事故防止の為に車両の進入を規制しているだけのものであり、あくまで消極的な施策であった」などという説明で、歩行者天国化を区として積極的に進めたものではないという説明を打っておるようです。

【参考】「ハロウィン禁止しろ」渋谷区に苦情300件、区幹部は「勝手に集まる」と困惑

http://news.livedoor.com/article/detail/15558786/

一方で実態は全く違います。2015年から渋谷区長に就任し、現在二期目の長谷部健区長は、区長就任当初から渋谷のスクランブル交差点の活用を強く政策として訴えて来た区長です。例えば2015年に東京で開催されたトークイベントにおいて長谷部区長は以下の様にコメントしています。

長谷部:それでいうと歩行者天国が1つきっかけになるかなと思ってて。もともと表参道も、代々木公園もいろんなカルチャーが生まれましたよね。もちろんそこも復活させたいけど、渋谷駅がこれから大きく開発されていく時に、スクランブル交差点っていうのは渋谷にとって非常に大きな資産だと思ってるんです。

梅澤:世界一の来場者でしょ。

長谷部:1日で横断歩道渡る(人数)の世界一と言われていて。あそこって、実は宮益坂から明治通りに下りてずっと来て、道玄坂を上がって246出るまでは、旧大山街道っていう街道だったんですよ。

そこをもう1回整備し直そうかなと思ってまして。歩行者天国ができる前提で、例えば柵のところにパラソルが立てられるようにしたりとか、ちょっとしたステージをいっぱい作るとか、行政はそういう仕掛けまでして、そこで自由にみんなが歌ったり発表したり。

また2018年に行われたコカ・コーラ社のwebサイト上で行われた誌上対談においても長谷部区長は以下のようなコメントをしています。

コカ・コーラ社の“ホームタウン”渋谷区長に聞きました。 「渋谷カウントダウン」で本当に伝えたいこと

https://www.cocacola.co.jp/stories/countdown_shibuya_interview

■日本の文化を海外に発信する「渋谷カウントダウン」

──第2回目となる「YOU MAKE SHIBUYA COUNTDOWN 2017-2018」(渋谷カウントダウン実行委員会主催)が無事に終了しました。このイベントには渋谷区に本社を置く日本コカ・コーラも特別協賛という形で参加しているわけですが、まずは、今回のカウントダウンを振り返ってどのような感想をお持ちでしょうか。

長谷部 今回は、前回の約6万7,000人をはるかに上回る約10万人もの方々にお越しいただきました。大晦日の22時30分を過ぎて渋谷駅周辺で歩行者への道路開放が始まり、続々と人が集まり始めていく様子をハラハラドキドキしながら眺めていたのですが、おかげさまで大きな事故やトラブルもなく、ホッとしているところです。

──今回は渋谷駅前のスクランブル交差点に人が集中しない工夫をされたそうですね。

長谷部 前回は、カウントダウンまでは順調だったのですが、カウントダウン終了後、スクランブル交差点から駅へ向かう人の流れとセンター街に向かう人の流れが膨らんで、ヒヤリとするような場面もありました。そうした反省もあって、今回はメインステージをSHIBUYA109前と渋谷モディ前の2ヵ所に設けて人の分散を図るとともに、カウントダウンの後、明治神宮に初詣をしていただくことも考え、青の洞窟(渋谷公園通りから代々木公園に連なる約800mのケヤキ並木のイルミネーション)を終夜やっていただくことによって、渋谷公園通りの方向に人の流れをつくる工夫もしました。

本稿を執筆している筆者は、様々な夜の経済活動を研究の対象としてきたナイトタイムエコノミーの専門家です。渋谷区の長谷部区長が上記の様に渋谷駅前スクランブル交差点の歩行者天国化を積極的に推進し、自らの政策の成功例として様々なメディアやイベントでそれを宣伝していた場面をこの他にも沢山知っています。そして、渋谷におけるハロウィンイベントも、その様な渋谷区による積極的な推進によって大きくなってきたものであり、貴方達の政策から生まれた現象です。それが2019年に社会問題化した途端にケツ捲るなんていうのは、無責任極まりないスタンスであるとしか申し上げようがありません。

2017年に発売された、我が国で初めてナイトタイムエコノミー振興の施策をまとめた拙著「夜遊びの経済学」を執筆したとき、私自身はナイトタイムエコノミー振興の意義や効用を語ると共に、そこから起こる負の側面とそれを最小化する手法、そしてそれを推進する側に立つ者の取るべき「姿勢」を特に念入りに描きました。

ナイトタイムエコノミーの振興は、街にとってプラスの効用も生みますが、そこにマイナスの側面も必ず生じます。ナイトタイムエコノミーの推進は、その両者を天秤にかけた上で「それでもナイトタイムエコノミーの振興は街にとって意味があるのだ」という姿勢でその推進を行ってゆく事が必要なのであって、問題が起こった時に「何かのせい」にして逃げを打つべきものではない。もしそういう覚悟がないのなら最初からナイトタイムエコノミーの推進なんてしない方が良い。僕はその様に思っています。

渋谷区は、今回の条例によって一連の問題を「酒のせい」にした上で、今年も引き続きハロウィンや年末カウントダウンイベントを実施することになるのでしょうが、そこでまた問題が起こった時には今度は一体それを「何のせい」にするのでしょう?渋谷区がそういう姿勢なら、もうナイトタイムエコノミー振興なんて辞めたら?としか個人的には思いません。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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