Injury Alert(傷害速報)欄の意義と課題 その2
Injury AlertからJIS化へ
傷害予防のアプローチとして3つのE(Enforcement:法制化、Environment:製品・環境改善、Education:教育)が挙げられている。製品や環境の改善はもっともアプローチしやすい。教育は、その効果を評価することが難しく、評価するには何年もの時間がかかる。法制化については、いろいろなステークホルダーの関与が必要であり、成功させることはたいへん難しいが、今回、法制化につながった一例を紹介したい。
2012年6月号の日児誌に「No.31 フード付きパーカーによる溢頸」の事例が掲載された。このような事例は以前から多発していた。2007年3月には、東京都の商品等の安全問題に関する協議会から「子ども用衣類の安全確保について」という報告書が出ており、2008年6月には業界団体が自主基準を出したにもかかわらず同じ傷害が発生し続けていた。そこで、日児誌に事例が掲載された直後に、経済産業省(経産省)のいくつかの部署、東京都の部署、消費者団体にこの傷害速報のコピーを送った。
これを見た消費者団体から業界団体に申し入れがあり、7月半ばに「子ども服JIS(日本工業規格)化に向けての意見交換会」が開かれた。7月19日には、この事例が新聞記事に引用され、秋からは経産省が委員会を設置し、業界団体、消費者団体、学識経験者など関係者が集まって議論された。2013年3月19日の委員会で子ども服のひもに関するJIS素案が決まり、2013年秋にはJIS制定(子ども用衣料(ひもの安全基準))となり、2015年12月からは、7歳未満の子ども服はひものついたデザインや製造、供給が禁止された。
この委員会の委員長から「きちんとした情報を取って、それを公的な雑誌に載せたことが大きなきっかけになったことは確かです。こういう情報が社会を動かすことがあるというあたりを学会でお話しいただけるとありがたい」というお礼のメールが送られてきた。
投稿から掲載までの実際
実際の投稿例(類似例)を見てみよう。
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事例:1歳0カ月の女児。
発生時の詳しい様子と経緯:母親が炊事をしているときに、子どもに背を向け目を離した際に、テーブルの上に置いてあったお湯の入った電気ケトルを子どもが握った。そのまま持ち上げようとして重みでバランスを崩して体にかぶり受傷。
治療経過と予後:母親がすぐに見つけ、服を脱がせwalk-inでER受診。すぐに初療し、25%程度の熱傷疑い。包交後、全身管理目的でPICU入室。2日間入室し、呼吸循環は安定し一般病棟転棟。
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これが学会事務局に送られてきた情報であるが、状況がよくわからなかった。「子どもの発達段階は、伝い歩き?それとも独歩が可能?テーブルの高さは?テーブルのどこにケトルが置いてあったのか?本人は椅子の座面に立っていた?熱傷の受傷部位は?電気ケトルの通常の使い方は?」などを知る必要があった。そこで、主治医に問い合わせ、最終的には次のような状況であった。
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母親は子どもとともにリビングにいて机を拭いていたが、気づかないうちに子どもが一人で台所に移動し、台所に設置されていた炊飯器などを置く50cmの高さの棚に載せてあった電気ケトルに手を伸ばしてひっくり返した模様。受傷時、母親はリビングにいた。父親は偶然台所にいたが、棚に背を向けるようにして立っていたため、子どもが泣き出すまで気づかなかった。
電気ケトルは日常的に棚に設置されており、電気コードは棚の奥から電源に接続される構造であった。電気ケトルの取手が手前に向いていたため、すぐに手をかけることができる状態であった。また電気ケトルの蓋は、転倒するとすぐにお湯がこぼれる構造になっていた。受傷後すぐ母親が自宅で患児の服を脱がせ、自力で救急受診した。
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この情報であれば、やけどが発生するまでの状況をアニメーションとして作成することができる。そして、台所の炊飯器などを置く棚の高さが問題であることが明確になる。1歳児であれば身長は70〜75cmで、50cmの高さに置かれたものには簡単に触ることができる。本事例に対する予防策としては、
1 電気ケトルに湯漏れ防止機能をつけること
2 乳幼児のいる家庭では、炊飯器などを置く低い棚に熱を発生する機器は置かない、あるいは低い棚は使用しないこと
が具体的な予防策となる。
傷害を予防するためには、変えられるものの情報が不可欠である。その他の情報として、電気ケトルのメーカー・型式・製造年、入っていたお湯の量、台所に入らないような柵の設置状況、初療の処置(水をかけた?何分間かけた?)、医療費などの情報もあるとよい。
掲載時の留意点
傷害速報は学会誌で公表されるため、事例の保護者から公表に関して同意を得る必要がある。特異な事例で、匿名化しても容易に個人が特定できる場合には、保護者の同意を文書で記録しておいてもらう必要がある。医師・看護師は、保護者の自宅に電話を入れて、傷害速報の趣旨や公表方法について説明し、保護者から許可を得なければならない。時間がかかり、ひょっとすると「そんなことはして欲しくない」と保護者が言うかもしれない、と、やや不安に思いながら電話をしなければならない。しかし、保護者からは「これまで、事故の責任はすべて、見ていなかった自分にあると自責の念が強かったが、先生から製品の問題の話があって、ちょっと気が楽になりました」と言われることもあり、時には保護者支援の活動にもなる。事故を予防しようとする信念があるか否か、また保護者を説得、あるいは納得してもらえるか否か、医師・看護師の力が問われているのである。
学会事務局に投稿する場合、医師の氏名、所属、電話番号、E-mailアドレスを明記してもらっているが、日児誌に医療機関名、主治医名を載せると事例の特定が容易になると考え、傷害速報には表記しないこととしている。また、企業やマスメディアが主治医や保護者に直接連絡することがないようにも配慮している。
投稿時は、商品名、型式、製造年、製造業者、製品のサイズなどをできるだけ具体的に記してもらい、傷害を起こした製品や現場の写真の提供もお願いしているが、日児誌に載せる場合には、商品名ではなく一般名とし、写真で商品が特定できる部分はカバーをしてわからないようにしている。
乳幼児の事故は、人が見ていない場合も多く、虐待の可能性がある場合は、傷害速報に採用しないこととしている。
傷害速報とバリア(障壁)
傷害を予防するには、いろいろなバリアがある。一般には、傷害を健康問題と考えていないこと、傷害は起こらないという思い込み(まさかうちの子に限って、私が見ているから大丈夫など)、また傷害は予測できないという先入観がある。そして、子どもの事故は保護者の不注意と決めつける場合が多く、企業は「誤使用」と責任逃れに終始し、行政は「うちの担当ではない」と弁明し、マスメディアは興味本位に取り上げる。そして、すぐにできる傷害予防を気安く求める社会の風潮がある。保護者は、事故は子どもを見ていなかった自分の責任と思い、自責の念にかられ、企業や行政に訴えることはない。
1 医療関係者に関連したバリア
医療機関は治療をするのが仕事であり、事故の発生状況や製品に関して詳しく話を聞くことはない。これらの情報がないために、企業や行政には予防する必要性が伝わらない。「昔から、そんな事例はよくあることだ」と言う医師がいるが、きちんとした報告になっていなければ、その事例はなかったことと同じである。言い放っているだけでは予防にはつながらない。
時に、日児誌に症例報告として掲載されても、企業や行政が小児科医の学会誌を見ることはない。傷害予防における医療機関のもっとも重要な役割は、傷害に関連した情報の収集とその記録であるが、医師は「忙しくてそんなことは聞いていられない」と理由づけをする。
2 情報収集のバリア
救急医療機関に勤めている小児科医に「先生のところなら、Injury Alertに投稿できる例は週に一例はあるはずだ。事例を提供してほしい」とお願いすると、その医師は「いやぁ、Injury Alertにぴったりの例がないんだなぁ」と答えた。これまで報告されている傷害速報を読むと、確かに発生状況がよくわかる。それは、投稿者が初めから記載して送ってきたものではなく、「その時、母親はどこにいたのか?」、「それが置いてあった場所の高さは?」、「子どもの身長は?」など、主治医に何度も問い合わせて作成した原稿なのだ。現場や製品の計測値の他に、写真の提供も依頼して作成している。すなわち、ピッタリしているのは最初からではなく、医師、あるいは看護師が「なぜこんな傷害が起こったのか」を追求し、いろいろな資料を集め、保護者から詳しく聞いてできあがった報告なのである。ピッタリの事例は、本気で「予防」するために自分で作り出すものなのである。そこまで手間をかけなければ予防につながる情報とはならない。口先では「事故は予防が大切」と言ってはいるが、実は「家族にまたお願いするなど、そんな面倒くさいことはできない」と思い、口実として「個人情報なので提供できない」と言って情報提供を拒否する医師もいる。
投稿した医師に、私とのやり取りを経験させることにより、予防を考えるためにはどういう情報が必要なのかを小児科医に理解させることができる。すなわち、投稿した医師に対して傷害予防の実践的教育を行っていると私は考えている。これまで約150件の事例を扱ったので、小児科学会会員21,000人の0.7%に教育を行ったことになる。この経験をした小児科医が次に事故の事例を診た時、二人の小児科医に傷害予防の考え方を伝えてくれれば2%になる。Injury Alertの欄は、小児科医に対する傷害予防教育のページとして位置付けることができると私は考えている。
傷害で死亡した子どもの情報については、受け持ち医や心理関係者は、保護者への気遣いから「なるべくそっとしておいてあげたい。思い出させないほうがいい」と考えており、傷害速報への情報提供は断られる。情報がないために、また同じ事故が起こって死亡例が発生することになる。SIDS(乳児突然死症候群)では、グリーフ・ケアの一つとして剖検まで行って原因を確かめておいたほうがよいとされており、事故死でも同じであると思われる。障害児が事故に遭った場合には、保護者は事故の責任を強く感じ、情報提供を拒否することが多い。緊急処置が終わった後、看護師が発生時の詳しい情報を聴取して記録するのがもっとも望ましい情報収集方法と私は考えている。
3 傷害速報の作成過程のバリア
傷害速報の原案ができあがると、委員会内で検討することになる。ここではいろいろな意見が出る。たとえば、ウイルス除去薬の誤飲例では、「その製剤はウイルスに有効なのか」、抱っこひもからの転落例では、「最近の前抱き縦抱っこという抱き方はいいのか、本当に見ていてヒヤヒヤする」などと指摘される。傷害速報は、製剤がウイルスに効くか効かないかは関係なく、ウイルス除去薬という製剤が販売されており、それを子どもが誤飲したという事実を述べているのであり、最近の抱っこひもによる抱き方がよいのか悪いのかは関係なく、そういう製品が販売され、保護者が使用していて子どもが転落して傷害を負ったという事実を述べているのである。製品や環境が「良いか、悪いか」については傷害速報は関知せず、事実を事実として述べる欄なのである。仕方がないので日児誌に載せる時は「ウイルス除去薬と称されている製品」と記載した。傷害予防に関しては素人である委員が査読作業を行うので、いろいろな意見が出る。報告案を供覧すると「報告を読むと、いつも子どもがかわいそうで仕方がない」、「早い回復をお祈りします」、「勉強になりました」などが意見として出される。この欄は感想を述べる欄ではなく、予防について考える欄なのである。
委員会の次には理事会、そして編集委員会でも審議され、いろいろな意見が出る。いつも問題になるのは、「コメント欄に保護者への注意喚起を記載するべき」という意見である。子どもの傷害は、子どもの生活環境に新しい製品が出回ると必ず新しい傷害が発生し、その傷害は1件だけということはなく必ず複数件発生する。臨床現場にいれば、「注意喚起」をしても有効ではないことはわかっているはずだが、必ずこの意見が出る。
委員や理事からは発生状況についての細かい質問も出るが、乳幼児の事故は現場を見ていない場合が多く、傷害速報担当が主治医に問い合わせてもわからず、主治医から保護者に聞いてもらってもよくわからず、推測しかできない場面も多い。
時には、投稿された報告を読み「なぜ早く処置をしなかったのか? 傷害速報として学会誌に出し、それが裁判で取り上げられて問題になる可能性がある。学会誌には載せられない」と掲載が却下されたこともある。投稿された原稿は、学会側から依頼したものではなく、自発的に学会に投稿されたものであり、保護者の同意を得た上での情報提供なので裁判のことまで考える必要はないはずであり、そもそも裁判で検討されるのは診療録であって、傷害速報の一字一句が責任に直結するとは思われない。傷害速報の記述から、治療法について専門家と称する人から批判の意見が出ることもあるが、傷害速報は診断法や治療法に関して検討する場ではない。
編集委員会では、製品が特定できないように写真の隅々までチェックが入ってわからないように修正され、患部がむき出しの写真に対しては「むごたらしい写真で載せられない」と掲載が却下される。いろいろな意見が出るたびに掲載が遅れ、傷害速報ではなく傷害遅報となることもある。
4 傷害速報掲載後の問題
企業は、自社の製品名が出ることを極度に警戒する。コメント欄に商品名を出すと企業から訂正を求められ、傷害発生のメカニズムのコメントについて、弁護士事務所を通して学会に照会書が送られてくることもある。
5 マスメディアとの関係
人々が傷害の情報をどこから得ているかを調べてみると、テレビや新聞からが7〜8割を占めている。すなわち、広報するにはマスメディアの果たす役割がたいへん大きい。時には、マスメディアが日本小児科学会のホームページの「傷害速報」欄を見て取材を依頼してくる。マスメディアが取り上げるときは、必ず被害に遭った子どもの保護者へのインタビューを要求する。マスメディアへの協力を依頼するため、子どもを診た医師にメールや電話をして、保護者に「取材に協力してください」とお願いしてもらうことになる。
医師の多くはマスメディアを嫌っており、「個人情報なので、これ以上は伝えられない」、「マスメディアは、自分に都合のいいところだけしか放送せず、信用できない」と言う。何とでも理由はつけられるが、保護者に電話をしていぶかられる、保護者から非難されることを恐れる、あるいは面倒なことに関わりたくないというのが本音であろう。この場合、看護師を通して保護者にお願いするとうまくいく場合が多い。しかし、医療関係者からの依頼には好意的であっても、マスメディアが取材に行くと断る保護者もいる。顔を出さない、声を変えるなど、個人や場所が特定できないようにして放送されても、放映された直後から、「自分の不注意を棚に上げて、製品が悪いとは何事だ!」と放送局に非難のメールや電話が入る。それを知った保護者は、「製品が悪いと放送では指摘しても、やはり自分の不注意だったのでは・・・」とさらに落ち込む。マスメディアで取り上げてもらう場合にも数多くのバリアが存在する。
マスメディアは社会を動かす重要なツールの一つであり、傷害予防を推進するには、傷害予防の考え方や取り組みをマスメディアの人にていねいに説明し、継続して取り組んでもらうよう教育する必要がある。
今後の課題
これまで日児誌では、50回以上も連載が続く欄はなかった。毎年設置される東京都の「商品等安全対策協議会」の事例報告では、いつも日児誌の傷害速報の例が引用されており、他の情報源(消費者庁、消防庁など)と比べ、情報の質の高さは際立っている。消費者庁や国民生活センターも傷害速報を注視しており、情報源の一つとして位置づけられている。また、各地の講演会や資料として引用され、テレビ・新聞・育児雑誌などのマスメディアで紹介され、傷害速報の事例に関連するアンケートなども行われている。
このように、「Injury Alert(傷害速報)」の情報の質に関してはほぼ満足できる状況であるが、情報の活用に関してはいくつか検討する必要がある。
傷害速報の認知度に関しては、医師歴が3年以上の小児科医(254名)を対象に行われたアンケートによれば、Injury Alertを知っている者は55%であったと報告されており、いまだ認知度は低い。
学会誌は会員だけへの情報提供であるが、学会ホームページは社会への情報提供であり、その利活用を検討する必要がある。今後は、新しい種類の事故の場合はなるべく早く学会誌に載せ、事例の収載数をさらに増やす必要がある。そのためには救急医療との接点を広げる必要がある。現在、ホームページ上に収載されているデータについては、アクセスしやすく、検索しやすく、利活用しやすくする工夫が必要である。傷害の種類については、小児科医が診療している事例が中心のため、誤飲や窒息、やけどなどに偏っており、交通事故の報告はほとんどない。今後は、脳外科、整形外科、眼科などでも学会誌にそれぞれの傷害速報欄を設置し、日本小児科学会ホームページの傷害速報欄からリンクを通してそれらの傷害データが見られるようにするとよい。さらに、実際に予防策までつながった事例を増やし、ホームページからのダウンロード数も注視していく必要がある。
投稿することによって会員の傷害予防への意識は高まるはずであり、傷害速報に収載された場合は専門医の単位の点数を付与するなど、会員の傷害予防へのインセンティブを促すことも必要である。
消費者支援功労者表彰 内閣総理大臣表彰
消費者庁は、消費者利益の擁護・増進のために各方面で活躍している人々を表彰する制度として「消費者支援功労者表彰」を実施しているが、平成30年4月に平成30年度の内閣総理大臣表彰の団体部門として日本小児科学会が選ばれ、一昨日5月28日に首相官邸にて表彰式が執り行われた。主な活動実績の一つとして、「『Injury Alert(傷害速報)』の取組は、子供の事故防止のための周知啓発に大きく貢献」と紹介されている。行政にも評価してもらえたことはうれしいことだ。
傷害速報欄を作って10年、時間が経つとおもしろいことも経験する。ときどき、消費者庁の人が私のところに相談にやってくることがある。役所の事務担当は2年ごとに変わることが多い。中には、「日本小児科学会には傷害速報という欄があって、きちんと事例を紹介しているんですよ」と私に教えてくれる人がいる。この活動を続けてきた本人とは知らずに一所懸命に説明されると、何と答えてよいか思わず苦笑してしまう。それくらい一般化したということを喜ぶべきなのであろう。
おわりに
育児支援が叫ばれているが、「こんな事故もある」、「あれもこれも注意して」など、保護者に多くのことを要求するのは育児支援ではなく、育児負担の強要である。「目を離しても、注意しなくてもいい製品や環境を作ること」を優先するのが傷害予防の原則である。
「Injury Alert(傷害速報)」欄は、ほぼ毎号、1〜2例の事例を日児誌に載せ、いろいろな人の意見を取り入れながら進化してきた。たった1例の報告でも社会に働きかけることができ、「傷害予防」の力になることがわかった。情報は活用されなければ存在しなかったことと同じであり、「利用されてナンボ」である。情報が活用されるためには、適切に加工しなければならない。消防庁からは数百例の事例が報告されているが、それより傷害速報の1例の方が有用である場合がある。
数日前の夕方、日本小児科学会事務局から4例の傷害速報の類似例の投稿があったとメールが来た。これまで、類似例は数か月に1例くらいの投稿であった。小児科医の傷害予防に対する意識が少しは高まってきたといえそうだ。2018年5月まで76例の事例を日児誌に掲載しているが、そろそろ似た事例が出始め、これからは類似例のほうが多くなるのかもしれない。ということは、小児の傷害が起こるパターンとして、出るものはおおよそ出てしまったともいえる。傷害速報欄ができて10年経ち、傷害速報も次のステージに入ってきたということか。
類似例が多くなれば、傷害の分類がほぼ完成されたということになる。いずれは類似例だけになってしまうのかもしれないが、同じ事故が同じようにあちこちで起こり続けていることが類似例の掲載によって証明されるので、類似例の記録も重要な活動である。現在の倍、傷害速報としての報告例が150例くらいになると、それ以後の投稿事例のほとんどは類似例として処理されるようになるのかもしれないが、それはそれで検討すればおもしろいと思う。
傷害予防に関しては、ほぼすべての人にそれぞれの役割がある。われわれ医療関係者の目の前には、日々、予防すべき対象がある。それを予防に結びつけられるかどうか、それが今、問われているのである。