地域で知恵を出し合い路線バスの課題を解決
経営課題を抱える地域の中小企業は、構造的な要因が背景にあると、様々な試みをしてもなかなか改善できず、新しい可能性を追求する姿勢になりにくい。そうした場合でも、各地の「ビズ」は、知恵やアイデアを使って、具体的に売り上げがあがる可能性を示し、納得がいくまで説明をして課題を解決する支援を一貫して行っている。
東京湾アクアラインの千葉県側の着岸地で、大型商業施設が進出している木更津市金田地区。この地域をさらに良くしようと、三井アウトレットパーク木更津など民間事業者が中心になり、2021年に木更津金田周辺大型施設連絡協議会が発足し、同年9月から10回に渡り会議を開いた。地域内の相乗効果を求めるため広く会議への参加を募る中、22年3月から木更津市産業・創業支援センター「らづ-Biz」(らづビズ)も協議会に加わった。らづビズは18年2月に木更津市が開設し、木更津商工会議所が運営にあたっている。
会議では、地域を走るバスが各大型商業施設を経由しないなど不便なので、ルートの変更や増便を求める議論があった。三井アウトレットパーク木更津を訪れる人だけでも平日で1万3000人、週末には3万人にのぼるが、その足は自家用車やタクシーに頼らざるをえない。これが渋滞につながり各施設の労働者の通勤などにも支障を来している。さらに22年に同地区に本社を移転した商業施設は10年以内に2000人が働く拠点になる可能性があり、渋滞の解決は喫緊の課題だった。
運転手に自衛隊退職者
協議会の参加企業であり、1917年(大正6年)から地域の人々の移動を支えてきた小湊鉄道のバス運行ルートも議論の対象になった。同社のバスは他の地域と同様、コロナ禍のあおりで利用者が大幅に減少した。これがなかなか回復せず、運転手不足という課題も抱えていた。ルートの変更となると既存利用者の利便性が低下することも懸念された。
そこで協議会では徹底的にアイデアを出し合った。走行距離や運転手の勤務時間を変えずに、利用者の増加が見込めるルートを模索し、地域の大型商業施設や東京湾アクアラインのインターチェンジ横にあるバスターミナルを経由する案を作り上げた。
また、らづビズでは別途支援にあたっていた陸上自衛隊木更津駐屯地の退職者に注目した。自衛隊員の定年は57歳で大型免許取得者が一定数いる。一方でバス運転手は75歳まで働けるからだ。これを小湊鉄道に提案し、両者をつないだ。
小湊鉄道は23年7月、半数の便を新ルートで運行するダイヤ改正を行った。その結果、観光客や地元の買い物客、施設で働く人達などが積極的に乗るようになり、バス利用者は増加した。同年8月には自衛隊の退職者向けウェブサイトに小湊鉄道の採用情報が掲載され、運転手不足解消に向けた取り組みも前進している。
地域のバス路線は移動を支える重要なインフラだ。しかし全国各地で人口減少と担い手不足によって廃止や見直しに追い込まれ、地域活性化の障害になっている。地域ぐるみでアイデアや知恵を出し合いチャレンジすれば、課題を解決することは不可能ではない。木更津の例はそれを証明していると言えるだろう。
【日経グローカル(日本経済新聞社刊)478号 2024年2月19日 P21 企業支援の新潮流 小出宗昭連載第11回より】