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放置される「危険な遊具」〜 その現状と課題について考える 〜

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
※写真は本文とは関係ありません。(写真:アフロ)

 2019年12月14日のNHKニュースで、遊具の危険性についての調査結果が報道された。ニュースの表題は「公園遊具『命の危険のおそれ』判定も1万基撤去されず」と、ややセンセーショナルなものとなっていた。

 ニュースの概要は以下のとおりである。

 ・国や自治体が管理する都市公園の遊具の点検が昨年度から義務付けられたので、NHKが95の自治体にアンケート調査をしたところ、安全点検をしていたのは70%の自治体であった。

 ・これらの自治体に設置されている9万基の遊具のうち、1万5300基(17%)が「命の危険や重い障害につながるおそれがある」と判定されていた。

 ・このうち1万基(66%)はそのまま使われ続けていた。使用を継続していた理由として「利用者の利便性を考慮した」が最も多く、「予算措置が困難」、「どのように対応するか決まっていない」、「使用禁止にする義務がない」という回答であった。

このニュースから言えることは

 誰もが、遊具による事故をなくしたい、減らしたいと思っているはずだが、このニュースからは、

 1 今日にも、日本のどこかで、遊具によって重大事故が起こる

 2 危険性がある遊具であることがわかっていても、対策は行われていない

という実態がわかる。

どうしたらいいのだろうか?

 自治体が述べている「対策を行わない理由」について考えてみよう。

 「使用者の利便性」とは、子どもたちの遊びの道具を奪ってはならない、注意して遊べば大丈夫ではないかという思いからであろうが、重大事故が起こって子どもが傷害を負うことと、利便性を天秤にかければ、利便性を優先する理由はないと思う。

 「予算がない」こと、これは事実であろう。自治体の予算は限られ、優先順位が高いものが他にたくさんある。「対応が決まっていない」と言っているが、先延ばししていると、今日、事故が起こるかもしれない。「禁止する義務がない」と法律をかざしても、傷害の発生を正当化できるわけではない。これら「遊具の使用を継続している理由」で時間稼ぎをしているあいだに事故が起こる。一旦、遊具による重大事故が起これば、どういう事態になるかを考えてみてほしい。

 重症、死亡事故が起これば、救急車が呼ばれ、救急隊員が子どもを医療機関に搬送し、医師や看護師によって治療が行われる。自治体で遊具を管轄している部署の人や警察官が現場に駆けつける。保護者も駆けつける。メディアも駆けつけ、現場の遊具を撮影し、遊具の責任者にインタビューする。近所の人にもコメントしてもらう。管理者は「このような事故が起こるとは想定していませんでした。二度と起こらないよう原因を確かめて対処します。申し訳ありませんでした」と深く頭を下げる。調べてみると、同じ遊具による事故はこれまでにも、あちこちで起こっていたことが判明する。報道されるときは、現場の映像に加えて専門家が「よく知られている事故だ。前もって安全点検が必要だ」とコメントを述べる。2日も経つとニュースからは消え、その後は現場での対応がメインになる。警察では現場検証を行って調書を作成し、責任者の責任が問えるかを検討する。自治体では、保護者への謝罪と対応、市長からの謝罪、しばらくすると遊具を撤去する。時には刑事裁判になり、その後に民事裁判となって、最終的には自治体から高額な賠償金が支払われる。ここまで経過するのに数年の時間を要する。

 この件には、保護者、救急隊員、医師、看護師、警察官、自治体職員、遊具メーカーの人、国交省の人、遊具の業界団体の人、メディアの人、遊具の解体業者、運送業者、遊具事故の専門家、検事、弁護士、裁判官など実にいろいろな人が関与し、それらの人の人件費はかなりの金額になる。また、これらの人が関わって費やした時間を積算してみると膨大な時間となる。すなわち、人的にも時間的にも金銭的にも多大な社会負担となっているのである。ここで一番認識してほしいことは、その遊具による事故が起こらなければ、かかるコストは0円であり、誰一人関わる必要もないし、誰も時間を割く必要がなかったということだ。人手も時間もお金も1円もかけずに済むことを放置しておけば、数千万円単位のお金と膨大な人手、そして時間をかけることになるということを肝に銘じてほしい。未然に、遊具の安全にお金をかけておくことがいかに重要か、社会負担を減らすことになるかをわかっていただきたい。

 

今後に向けて

 遊具に関連した事故は、どのような事故が起こりやすいか、すでにわかっている。重症度が高い事故が起こりやすい遊具、状況もほとんどわかっている。

 

 すべての遊具にお金をかけて修理しろと言っているのではない。限られた予算内でやるべきことは、

・ 死亡事故が起こっている遊具

・ 入院加療が必要な事故が起こっている遊具

など、重症度が高い遊具や状況を把握すること、そしてそれらについて優先的に対策をとることである。また、義務付けられている遊具の安全点検を、毎年確実に実行し、その点検結果を各自治体のホームページで公開する必要もある。

 今回NHKが行ったような調査は、本来は遊具を管轄している国交省が定期的に行うべきであるが、今回は意識が高いNHK記者の方によって行われた。メディアは新しい出来事や情報をいち早く取り上げることに主眼を置いているが、このような日常的な社会課題を取り上げ、問題点を浮き彫りにしてくださったことに敬意を表したい。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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