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拡大する違法ネット賭博と我が国のリーチサイト規制論

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

いや、こんなことを堂々とプレスリリースする会社が居ること自体にビックリしたわけですよ。以下、プレスリリースの投稿サイトであるプレスリリースゼロからの転載。

オンラインカジノの日本での急成長

カジノビリオンズドットコム・日本のプレスリリース

http://pressrelease-zero.jp/archives/149655

近年日本でオンラインカジノを利用する人が増えています。数年前ではオンラインカジノの利用者はほとんどいませんでしたが、近年では日本語に対応しているオンラインカジノサイトが増え、日本人ユーザーが急増しています。

本記事では、オンラインカジノが日本でどのように急成長してきたのかを紹介します。そして、オンラインカジノ市場の今後についても考えます。

国境をまたいで行われるオンライン賭博の違法性に関しては過去様々な論説がありましたが、現在既に定まった法解釈においては、日本領域内にいる人間が海外の賭博提供サイトにアクセスし賭博を行うことは違法です。これは2013年11月に私と、友人の渡邊雅之弁護士が議員を通じて提出した(して貰った)質問主意書への政府回答によって明確にされたことです。以下、当時のエントリへのリンク。

【参照】ファイナルアンサー: オンライン賭博は違法である

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8134166.html

上記質問主意書に示された政府回答に基づいて2016年には実際に国内から海外のオンライン賭博サイトを利用した利用客と、その行為を補助した資金決済業者が摘発をうけるという事案も発生しました。しかし、その後も日本国内から行わる違法なオンライン賭博は無くならず、むしろ日本側の対策をあざ笑うかのように冒頭でご紹介したプレスリリースでは「日本人ユーザーが急増」などと書かれてしまう始末です。

【参照】国内口座使い客に賭博か オンラインカジノ全国で初摘発 会社役員ら逮捕 千葉県警

https://www.chibanippo.co.jp/news/national/304724https://www.chibanippo.co.jp/news/national/304724

そもそも、オンライン賭博が違法な日本において冒頭のようなプレスリリースが堂々と流布されてしまうこと自体が問題なんですよ。上記プレスリリースの発信元はカジノビリオンズドットコムというサイトだそうです。正直、その存在自体が腹立たしいのでリンクは張りませんが、要は海外のオンライン賭博サイトを日本語で紹介してそこからアフィリエイト収入を得ることで成立しているリーチサイト(誘導サイト)であります。

我が国では、明らかに日本国内の居住者を対象として提供されるこの様なギャンブル系リーチサイトというのが雨後の筍の様に乱立しており、あたかもその行為が違法ではないかのように海外のオンライン賭博サイトの使い方や換金の仕方などを詳細に解説しながら、利用者を違法行為に対して誘導して行く行為が延々と続けられている状況。もはやモラルハザード以外のナニモノでもありませんし、この様な環境下で違法なネット賭博が抑制されるわけもありません。

この様なオンライン上での違法コンテンツに対するリーチサイトの規制に関して、我が国でも論議は始まっていますが、実は我が国のリーチサイト規制論は何故かアニメや漫画の海賊版サイトへの規制のみが語られている状況。海賊版サイトなんてのはオンライン上の違法コンテンツとしては、ほんの一部であり、寧ろ害悪度で言えば一つ一つの著作権侵害は微小なものであり、また違法なものとそうではないものの区分けが非常に微妙な論議であるにも関わらず、です。以下、FNNからの転載。

“スクショ”はOK? 「ダウンロード違法化」で転換…著作権侵害の新たな線引きを文化庁に聞いた

https://www.fnn.jp/posts/00049170HDK/201911272020_FNNjpeditorsroom_HDK

海賊版は本当はダメなはずなんですが、法律が十分ではないため被害がどんどん拡大している状況ですので、まず「リーチサイト」という窓口になっているサイトを違法にする。

そして、そこからダウンロードしているユーザーの行為も一定の要件のもとで違法にする、この2つをやろうとしています。

上記FNNの報道で文化庁は「海賊版は本当はダメなはずなんですが、法律が十分ではないため被害がどんどん拡大している状況」などと言っていますが、「本当はダメなはずなんですが、法律が十分ではないため被害がどんどん拡大している」のは海賊版だけではありません。寧ろ、諸外国におけるネット上の有害コンテンツへの対策というのは違法賭博を筆頭に、違法ポルノ、違法薬物等の売買、違法な銃器等の売買など広範に亘ります。

というか、2017年にJPNICによって行われた世界のインターネット関連組織や専門家に対して行われたアンケート調査に基づくと、寧ろネット上での有害サイトに対する規制はが諸外国では海賊版対策(著作権侵害)よりもカジノ・ギャンブルに対する対策の方が先行しているのが実態。このアンケート調査結果は、政府の知財本部のタスクフォースなどでもしっかりと報告されているにも関わらず、政府は何故かそれらを完全に無視して「海賊版対策」だけの一本槍で未だに突き進み続けているのです。

それもこれも、結局は声が大きいマスコミ各社が、一方で自分達が行っているマンガやアニメビジネスを毀損しているとして、自社でも出来る著作権侵害に対する法的対処を怠りながら、海賊版問題を実態からかなりかけ離れた形で社会問題として「煽っている」が故。本当はどう考えても違法賭博や違法ポルノの方が社会に与えている弊害が大きいにも関わらず、です。

画像

(出所:グローバルなインターネット関連組織を対象とした、各国・地域における Web サイトブロッキングに関するアンケート調査実施の情報共有)

政府は2020年の通常国会にも、リーチサイト規制などを含む著作権法の改正案を提出するなどと言っていますが、改めて「有害コンテンツ」の問題を著作権侵害という小さな枠の中だけで延々と論議を行うのを辞めて頂いた上で、インターネット上の総合的な有害コンテンツ問題としての論議をお願いしたい。「本当はダメなはずなんですが、法律が十分ではないため被害がどんどん拡大している」のは海賊版だけではなく、冒頭でご紹介したようなリーチサイトの規制が出来るのであれば日本国内の違法なオンラン賭博行為はより抑制することが出来る、ということを改めて強く申し上げておきたいと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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