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“スケート界の天陽くん” 新星・松井大和が急上昇中

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
自己ベスト連発中の松井大和(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

■12月、全日本選手権スプリント部門初優勝

 上昇ムードに乗る日本男子スピードスケート界に、新たな短距離のホープが誕生した。今季W杯初参戦で自己ベストを連発している松井大和(日大)だ。

 昨年10月の全日本距離別選手権で上位に入ってW杯出場権を手にすると、デビュー戦のW杯ミンスク大会(11月)で35秒14を出し、7位と健闘。W杯長野大会(12月)にはBクラスで出場した初日に34秒75の自己ベストを出した。国内では、12月の全日本選手権スプリント部門を初制覇した。

 勢いに乗って出た2月7、8日のW杯カルガリー大会では、高速リンク初経験ながら500mと1000mの2レースでいずれも自己ベストを大幅に更新している。

■自己ベスト連発中

 特に光ったのは初日の500mだ。アウトスタートで滑り、まずはこれまであまり得意でなかったスタートダッシュに成功。100mを自己ベストの9秒58(それまでは9秒65)で入り、スピードを殺さずにカーブをすり抜けると、その後は持ち味である後半の強さを存分に出した。タイムはW杯長野大会で出したベストを0秒51縮める34秒24で、自己最高位の5位になった。

 「入りの100mが良かったのと、同走の選手が速かったので、ついていくことができたのが良かった」

 笑みがこぼれた松井だが、同時に課題も見つかった。高速リンクでのレースはコーナーでかかる重力が大きいため、体の動きを制御する難しさがあるのだ。

「まだ高速リンクのスピード感覚に慣れていない。コーナーでは体が思いきり振られてる感じがして、攻めきることができていない」

 当面は100mを9秒4で入るのが課題だが、改善すべきと感じている点はほかにも多々ある。

「元々スタートが速くないので、上がり1周のラップでどこまで勝負できるかが決まる。ひと蹴りの一歩一歩の伸びがもっと出てくればいいと思っている」

 500mの快走に続き、最終日の1000mでもそれまでのベストを0秒87縮める1分8秒20を出した。500mほどの良い出来ではなかったというが、「今はレースの度に新しい課題が見つかって面白い」と楽しそうに言った。

■母校は「天陽くん」ゆかりの鹿追中

 キリッとした顔立ちは、昨年のNHK朝ドラ「なつぞら」で広瀬すずが演じた「なつ」の幼なじみ「天陽くん」(吉沢亮)にも重なるが、共通項は見た目だけではない。

 松井の出身地の鹿追町と言えば、「天陽くん」の実在のモデルとされている画家の神田日勝氏が、1945年に東京から疎開し、そのまま住むことになった町。神田氏は松井にとって鹿追中の先輩にあたる。その影響を受けたのか、松井の趣味は絵を描くこと。子どもの頃からノートに鉛筆で馬や花の絵を描いていたそうだ。

 しかし、のめりこんだのはスケートだった。中学生の頃、10年バンクーバー五輪男子500mで長島圭一郎が銀メダル、加藤条治が銅メダルを獲る姿をテレビで見て、五輪を意識し始めた。鹿追高校時代の3年間は、かつて池田高校在任中に長島圭一郎(バンクーバー五輪銀メダリスト)や及川佑を指導した野村昌男監督が教えるクラブチームの「チーム芽室」で練習に励む毎日。

「野村先生からは、自分の武器は低さだということを教えてもらい、体を低くすることを意識して滑っていました」

参考【スピードスケート】町光二郎、20歳。駆け抜けたスケート人生

 日大進学後は体重移動の技術が上がり、低さに安定感が出た。実力をつけて昨春からナショナルチーム入り。レベルの高い練習を繰り返し、地力をつけた。

 カルガリーでは、スタンドに応援バナーがあった。鹿追高校1年生のときに、約2週間ホームステイしたアルバータ州ストーニープレインのホストファミリーが応援に来てくれたのだ。家から車で3、4時間かけて来たというロイ・ミルスさん、リンダ・ミルスさん夫妻は「ヤマトはホームステイ中も毎日うちで熱心に練習していた」と言い、W杯出場に目を細めた。

W杯カルガリー大会では高校時代にホームステイしたときのホストファミリーであるロイさん、リンダさん夫妻が応援幕をつくってくれた。リンダさんは以前、鹿追中で英語講師をしたことがある(撮影:矢内由美子)
W杯カルガリー大会では高校時代にホームステイしたときのホストファミリーであるロイさん、リンダさん夫妻が応援幕をつくってくれた。リンダさんは以前、鹿追中で英語講師をしたことがある(撮影:矢内由美子)

■「技術で上に行くのがスケートの魅力」

 日本時間14日に開幕する世界距離別選手権(米国ユタ州ソルトレークシティー)では、1000mとチームスプリント(非五輪種目)に出場する予定。2週連続の高速リンクでのレースであり、今季一番のタイトルが懸かる試合ということで、ライバルたちの滑りからも得られるものは多いだろう。

「スケートは技術が占める部分が大きいのが魅力。フィジカルよりも技術で上に行けるのが面白い。目指しているのはオリンピックでメダルを獲ることです」

 スケート界の天陽くんに注目だ。

さわやかな笑顔の松井大和(撮影:矢内由美子)
さわやかな笑顔の松井大和(撮影:矢内由美子)

◆松井大和(まついやまと)  1997年11月24日、北海道河東郡鹿追町生まれの22歳。3歳からスケートを始める。鹿追中から鹿追高に進み、高3でインターハイ500m3位。日大経済学部に進み、1年のときにジュニアW杯チームスプリントメンバーに選ばれて2位。今春、日大を卒業し、岩手県でスピードスケートのチームを持つ株式会社シリウスに入社予定。身長176センチ、体重73キロ。家族は両親と姉。絵画の他にギターも得意。鹿追中学時代は夏は野球部でセカンドやショートを守っていた。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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