【浦和からパリ五輪へ】DF大畑歩夢は激戦の左SBで生き残りを誓う #浦和レッズ
6月1日にあったJ1リーグ第17節の浦和レッズ対ヴィッセル神戸。パリ五輪を目指すU-23日本代表の一員として米国遠征に向かう前の一戦で、浦和DF大畑歩夢は1-1で迎えた後半34分から左サイドバックの位置で途中出場した。
実質約15分間ほどのプレータイムでマッチアップしたのは神戸の元日本代表FW武藤嘉紀。この試合の前半、浦和は武藤をフリーにしてチャンスをつくられるシーンがあり、大畑にとって武藤をしっかりと抑えることは重要なタスクだった。
結果的にはその役目は果たせた。持ち前である1対1の強さで武藤に仕事をさせなかった。
ただ、攻撃面では勝ち点1を3にするための働きはできなかった。後半アディショナルタイムには中島翔哉の折り返しを自らダイレクトで打ったが枠を捉えなかった。試合は1-1のまま終了。大畑の表情には不完全燃焼の色が浮かんでいた。
■バングーナガンデ 佳史扶への対抗意識「互いにいい関係でやっていきたい」
それでもミックスゾーンではすぐに気持ちを切り替えて米国遠征への意欲を口にした。今回の遠征はパリ五輪の代表18人が決まる前の最後の対外試合で、昨年10月にも対戦したU-23米国代表と2試合を行う。
米国もパリ五輪出場を決めているうえに、28年夏には地元ロサンゼルス五輪があり、ここ数年の強化体勢の充実は目覚ましい。今回は日本と同様にパリ五輪の代表入りを目指して全選手が高いエネルギーをぶつけてくるはずだ。
そんな中、今回のU-23日本代表26人には左右合わせて5人のサイドバックが選ばれている。そのうちの1人は、U23アジアカップ兼パリ五輪予選に招集されていなかった左サイドバックのバングーナガンデ佳史扶だ。
バングーナガンデ はFC東京の主力で、日本代表にも選出されたことがある。U23アジアカップでパリ五輪出場権とアジアタイトル獲得に貢献し、一気に序列を上げた感のある大畑とは激しいポジション争いを繰り広げることになるだろう。
大畑は「2試合あるので1試合は絶対チャンスがあると思う。そこでアピールできるかが最終選考にかかわってくると思うので、目に見える結果を残したい」と意気込んだうえで、バングーナガンデにも言及。「 (負けられないという思いは)もちろんあるし、彼もあると思う。互いにいい関係でやっていけたらと思う」と対抗意識を隠さず“真っ向勝負”を誓った。
■パリ五輪への強い意欲を持ち続けてきた
大畑の強みのひとつは地上戦守備における“際の強さ”にある。これは育成組織時代から21年まで所属したサガン鳥栖時代にも発揮していた特長だ。21年2月に沖縄・金武町で行われた浦和とのトレーニングマッチでは鬼のようなキレキレの守備を披露。21年8月14日のJ1第24節では、この試合が浦和デビュー戦となったDF酒井宏樹とマッチアップし、序盤はコンタクトプレーで当たり負けする場面があったが、それによって負けん気に火が付いた後は酒井をしっかり封じてサイドで起点をつくらせなかった。
細かく立ち位置を変えながらビルドアップに関与するクレバーさもアピールにつながり、22年に浦和に移籍。加入1年目はリカルド・ロドリゲス監督の下、4月のACLで左眼窩底と頬骨を骨折して離脱した時期もあったがJ1の22試合に出場して19試合先発と、成長の下地を作った。ところが、マチェイ・スコルジャ監督が指揮を執った昨年は16試合出場で先発はわずか4試合と出番が激減。「1年目は強度を出せていたと思うけど、2年目はコンディションが落ちて出せなくなっていた」と苦しんでいた。
そういった状況でもパリ五輪を目指す大岩ジャパンにはほぼコンスタントに呼ばれており、大畑自身もパリ五輪への意欲を強く持ち続けてきた。
■骨折を押して闘い抜いたU23アジアカップ。決勝のウズベキスタン戦ではテーピングを剥がし取り…
そして迎えたパリ五輪イヤーのU23アジアカップ(カタール・ドーハ)。大畑は4月11日に現地で行ったU-23イラク代表とのトレーニングマッチで右手中指を骨折する。試合は完全非公開で行われたため骨折について明かされる機会はなく、その後は右手中指と人差し指をテーピングで分厚く巻いて試合や練習を行っていた。
大会後に当時の状況を聞くと「守備ではなるべく右手を使わないようにしていた」というが、4月19日のグループリーグ第2戦UAE戦に大会初先発すると、守備では普段と変わらぬ球際の強さを発揮し、攻撃面でも高い位置で躍動。自らのシュートでゴールネットを揺らしたシーンはVARによって取り消されたが、川﨑颯太のヘディングシュートによる得点をアシストし、2-0の勝利に貢献した。
左サイドでの際立った守備は、地元カタールとの大一番となった準々決勝、勝てばパリ五輪出場権獲得となるイラクとの準決勝でも見せた。イラク戦では体を張った守備で相手ボールを奪ってから、中央付近の藤田譲瑠チマに飛ばしパス。藤田からボールを受けた荒木遼太郎が2点目を決めたシーンは、大畑の粘りが光っていた。
こうして試合を重ねる毎に存在感を高めていき、5月3日のウズベキスタンとの決勝を迎えた。
■テーピングを剥がし、ギアアップして戦った決勝のウズベキスタン戦
決勝戦では立ち上がりからフルスロットルで攻め込んできたウズベキスタンに押し込まれる展開となった。すると大畑は、前半10分に自ら右手指のテーピングをほぼ剥がし取り、ギアアップのスイッチを入れる。
日本は防戦一方だった前半をなんとか無失点で耐えると、後半アディショナルタイムに途中出場の山田楓喜が見事な決勝点を決めて1-0。終了間際に相手に与えたPKをGK小久保玲央ブライアンが止めて劇的な優勝を飾った。
大畑は優勝を決めた直後のミックスゾーンで「きょうは点数をつけられないですが、疲れた中でも自分の力を発揮できたとは思う。今、出せるものは出せた」と胸を張っていた。
さらに帰国後には「ウズベキスタンとの決勝では試合が始まってすぐに、これまでの相手とは強度も体も違うと感じた。右手も使わないといけないと(守るのは)無理だと思い、途中でテーピングを外してプレーした。優勝できたのは本当に良かった」と笑顔を見せた。
右手の中指はまだかなり腫れていたが、充実感が前面に出ていた。
■「レベルが違った」と振り返る米国と再戦
今回の遠征で2試合行なうU-23米国代表とは昨年10月にも対戦し、1-4で大敗している。この時の左サイドバックの先発はバングーナガンデ。大畑は1-2のビハインドで折り返した後半からピッチに入ったが日本は巻き返すことができずさらに2失点した。
1日の神戸戦後に大畑に米国戦に向けての話を聞くと、「去年の試合では自分は後半から入ったのですが、レベルが違っていたというか、スピードも速いし、フィジカルも強いし、結果も1-4で差を感じた」と率直に差を認めた。
けれども、今の日本には3週間弱の間に中2日、中3日で6試合を行い、数々の難局を乗り越えながら優勝を果たしたU23アジアカップの経験と自信がある。
「個人としての成長も見せたいですし、チームとしても予選(U23アジアカップ)を闘って一体感はもっと強くなっていると思う。対戦が楽しみです」
目に見える結果を追い求めて戦う米国戦がいよいよ始まる。
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