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【体操】際立つ“選考会での勝負強さ”…杉原愛子が目指す3度目の五輪 #パリ五輪

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
3度目の五輪出場を目指す杉原愛子(TRyAS)(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

体操のパリ五輪代表最終選考会を兼ねたNHK杯が16日に開幕する。4月の全日本個人総合選手権の得点が持ち点となり、女子はNHK杯の上位4人がパリ五輪出場権を獲得、5枠ある代表の残り1枠をチーム貢献度で選ぶ。2016年リオデジャネイロ五輪と2021年東京五輪の代表で、3度目の五輪出場を狙う杉原愛子(TRyAS)は現在、4位と0・034点差で5位。NHK杯での逆転を目指している。

■選考会での勝負強さが際立つ24歳

女子初日の競技を翌日に控えた15日。会場となる群馬・高崎アリーナには、ほどよい緊張感の中に笑顔をのぞかせる杉原がいた。

5位となった4月の全日本個人総合選手権と同じ会場、同じ器具で行った公式練習。「4月と同じだったのできょうの方が全日本の時より器具に慣れるのも早かった。早く明日の試合をしたいなと思っています」と明るい口調で言った。

体操を楽しんでいる充実感がにじみ出る
体操を楽しんでいる充実感がにじみ出る写真:長田洋平/アフロスポーツ

杉原が日本代表としてデビューしたのは大阪の高校1年生だった2015年。15歳ながら個人総合で競うNHK杯で初優勝を飾って注目を浴び、同年10月に開幕する世界選手権の代表入りを果たした。同年7月にはアジア選手権で団体と個人総合の2冠にも輝いた。翌2016年にはチーム最年少の16歳でリオ五輪に出場し、メダルまであと一歩の団体4位。2021年東京五輪は団体5位だったが、3位との点差はわずか0.816点だった。

初代表となった2015年から東京五輪までの7年間に行われた世界選手権と五輪に出場し続けたのは杉原だけ。この間にはケガに苦しんだことも少なくないが、代表選考会ではつねに勝負強さを発揮していた。パリ五輪の代表選考会である今回も、4月の全日本個人総合選手権で5位につけているあたりはさすがだ。

2015年のNHK杯で15歳にして初優勝を飾った杉原愛子。男子で7連覇を達成した内村航平と表彰式で記念撮影
2015年のNHK杯で15歳にして初優勝を飾った杉原愛子。男子で7連覇を達成した内村航平と表彰式で記念撮影写真:長田洋平/アフロスポーツ

■「ピチピチの10代には負けへん」

杉原は東京五輪の翌年だった2022年6月に一度は競技生活に「ひと区切り」をつけるとして一線から遠ざかっていた。そして、母校の武庫川女子大学での指導や審判としての活動、テレビのレポーターなど幅広く活動してきた。昨年8月には「体操をメジャースポーツにしたい」という思いから、「株式会社TRyAS(トライアス)」を設立し、23歳にして社長に就任。女子選手が安心して演技をできるようにと、スパッツ付きの新型ユニフォーム「アイタード」のプロデュースもした。

しかし、幅広い活動をしながらも、体操競技への情熱が潰えることはなかった。昨年6月の全日本種目別選手権で“現役復帰”すると、ゆかで見事優勝。同11月にはパリ五輪代表入りを目指すことを表明した。そして、今年4月の全日本個人総合選手権では予選3位、決勝5位。「ピチピチの10代には負けへん、と思いながら頑張りました」と笑顔を浮かべていた。

2016年リオデジャネイロ五輪に出場。演技を終えてガッツポーズ。当時は16歳
2016年リオデジャネイロ五輪に出場。演技を終えてガッツポーズ。当時は16歳写真:アフロスポーツ

■「0.1を大切にする練習をしてきた」

そうして迎える今回のNHK杯。全日本個人総合選手権からここまでの期間は、逆転が必要な状況であることを踏まえて技の難度を上げることも検討したというが、最終的には構成を変えないと決めた。

「難度を上げず、今の構成でも上位4位(以内)に入れる構成を持っているので、だからこそ0.1を大切にした練習に取り組みました。全日本よりさらに着地にこだわり、Dスコアの取りこぼしがないように、一個一個(の技)を確認しながら0.1を大切にする練習を行ってきました」(杉原)

1カ月は「長いようで短かった」とも言ったように、追い込んだ練習を重ねたため先週は体調を崩して発熱したというが、それだけ十分に練習を積むことができたという手応えがある。

「今は右肩上がりだし、体調を崩したこともいい感じに休めたのかな、と思っています。今は試合が楽しみで、自信満々。今週をハッピーな週にしたい」

パリ五輪代表入りを狙う“ライバル”たちの多くは10代の若手だが、杉原自身もフレッシュな雰囲気を持っている。それは、彼女自身が「逆に私もエネルギッシュな若さを吸収できて刺激を受けている」と感じているからだろう。

「体操界の女子の中だったら(年齢は)上の方かもしれないですが、世間一般で見たら若い方。私も負けずに頑張って、若い選手に負けないくらい元気な演技を皆さんにお届けできるように、そして体操の魅力も楽しさもお伝えできるように頑張りたいと思います」と、生き生きとした表情でNHK杯の抱負を述べた。

2021年夏、東京五輪で演技をする杉原愛子。当時は21歳
2021年夏、東京五輪で演技をする杉原愛子。当時は21歳写真:エンリコ/アフロスポーツ

■ただ一人の五輪団体経験者としてチームに経験を還元したい

代表入りを果たせば24歳にして3度目の五輪出場だ。今回のNHK杯に出場している女子選手の中で五輪経験者は杉原に加え、種目別個人枠で東京五輪に出場して平均台6位入賞を果たし、今回は貢献度でパリ五輪出場を狙っている芦川うらら(日体大)もいるが、五輪団体戦の経験者は杉原だけ。パリ五輪切符をつかめば必然的にパリでも唯一の五輪団体経験者となる。

「日本代表選手の中にオリンピックを経験している人がいるかいないかで、チームの雰囲気や(大会への)臨み方も変わってくると思う。私は元々ムードメーカーで盛り上げるのは得意。経験の少ない選手に自分の経験を伝えていけるように、2日間ともしっかり大きなミスをすることなく代表になりたいと思います」

そう語ったように、代表入りしてプラスアルファのものを日本にもたらしたいという思いもある。

多忙な生活が続いていたがNHK杯前の最後の1週間は社長としての業務なども含めて体操以外はすべてシャットアウトし、最終選考会に向けての最後の仕上げを行ってきた。

「たくさんの人が関わって、自分のために協力してくれて、そのおかげで今の私がある。感謝の気持ちを絶対に忘れずに、日本代表になれるように頑張りたいです」

決意を込めて言った。

自らプロデュースしたスパッツ部分付きデザインの「アイタード」を着て平均台の演技をする杉原
自らプロデュースしたスパッツ部分付きデザインの「アイタード」を着て平均台の演技をする杉原写真:西村尚己/アフロスポーツ

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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