シリア・イラクで頻発する米軍基地を狙った砲撃、ドローン攻撃:効果なき米国の爆撃
米軍の戦闘機が6月28日にシリアとイラク領内にある「イランの支援を受ける民兵」(Iran-backed militias)の拠点や施設に対して爆撃を実施して以降、両国で駐留米軍を狙ったと思われる攻撃が頻発している。
「イランの支援を受ける民兵」とは、「イランの民兵」、あるいは「シーア派民兵」といった蔑称で呼ばれる武装勢力の総称で、イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、同部隊が支援するレバノンのヒズブッラー、イラク人民動員隊、アフガニスタン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などを指す。
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イラクで相次ぐ攻撃
イラクでは7月5日、米軍部隊が駐留するアンバール県のアイン・アラブ航空基地に無人航空機(ドローン)2機が飛来、米軍の防空システムがこれを撃破した。
また同日、イラクの首都バグダードにある米国大使館にドローンが接近したが、同じく撃破された。
7月6日には、米軍部隊が駐留するイラク北部のアルビール国際空港が爆弾を積んだドローンの攻撃を受けた。
イラク・クルディスタン地域に主都でもあるアルビール市にある米国領事館はサイレンを鳴らし警戒を呼びかけたが、米国防総省の発表によると、人的・物的被害はなかったという。
さらに7月7日にもアイン・アサド基地にロケット弾複数発が打ち込まれ、イラクのスーマリーヤ・チャンネルによると、イラク軍兵士複数が負傷した。
6月28日の米軍の攻撃に対して、イラク人民動員隊は「こうした攻撃に対する報復権、そしてイラク領内での犯罪者を処罰する権利を留保する」とする報道声明を出し、報復を示唆した。これら一連の攻撃もイラク人民動員隊の関与が疑われているが、真偽は定かではない。
シリアで高まる緊張状態
イラク以上に緊張状態が高まっているのがシリアだ。同国では、米軍が違法に駐留を続けるユーフラテス川東岸地域で砲撃、ドローン攻撃、交戦が相次いでいる。
米軍が爆撃を実施した6月28日、ダイル・ザウル県にあるシリア国内最大のウマル油田に設置されている米軍(および有志連合)の基地が何者かの砲撃を受けた。これに関して、シリア民主軍の広報センターは次のような声明を出した。
シリア民主軍は、クルド民族主義勢力の民主統一党(PYD)が主導する民兵組織の人民防衛隊(YPG)を主体とし、有志連合の「協力部隊」に位置づけられている。PYDはシリアで分権制に基づく民主主義を実現するとして、北・東シリア自治局を名乗る自治政体を発足させ、ユーフラテス川以東地域を実効支配している。シリア民主軍はこの北・東シリア自治局の武装部隊に位置づけられるが、米軍を「我らが部隊」と呼ぶさまは、シリア民主軍、北・東シリア自治局が米国の物理的暴力なくしては成り立たないことを暗に示している。
ウマル油田の米軍基地への攻撃に対して、シリア民主軍はユーフラテス川東岸に展開する部隊が、シリア政府の支配下にある同川西岸のバクラス村にあるシリア軍の拠点複数カ所に向けて砲撃を行った。また、7月1日にはウマル油田の米軍基地から、ユーフラテス川西岸のマヤーディーン市近郊の砂漠地帯にある「イランの民兵」の拠点に対して砲撃が行われた。
7月4日にも、ウマル油田に設置されている米軍基地が何者かの砲撃を受け、米軍は基地一帯を封鎖した。これに関して、シリア民主軍のファルハード・シャーミー広報センター長は次のような声明を発表した。
英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、砲撃を行ったのは、マヤーディーン市近郊に展開する「イランの民兵」だという。
反体制系サイトのアイン・フラートによると、これに対して、ウマル油田の基地も7月4日深夜から5日未明にかけて、マヤーディーン市一帯の「イランの民兵」拠点に対してミサイル攻撃を行った。
そして7月7日、シリア領内の米軍基地の攻撃に対してもドローンが投入された。ウマル油田に設置されている基地が所属不明のドローンの攻撃を受けたのである。
国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、この攻撃で複数の煙柱が立ち上がった。また、反体制系のユーフラテス・ポストは、攻撃に対して、米軍基地が携帯式の対空ミサイルで応戦したと伝えた。
シリア民主軍のシャーミー広報センター局長も次のような声明を出した。
シリア人権監視団によると、攻撃は「イランの民兵」によるものと見られるという。
一連の攻撃に対して、ジョー・バイデン政権が3度目の爆撃を敢行するか否かは定かでない。だが、限定的な爆撃では、シリア、イラク領内の米軍に対する抵抗を封じ込めることができないことは、過去2回の爆撃が証明している。