なぜスペイン勢は“欧州の舞台”で勝てなくなったのか?レアルとバルサ...求められた競争と分かれた明暗
果たして、スペイン勢は弱体化したのかーー。それが、問題だ。
今季のチャンピオンズリーグで、グループ突破を決めたのはレアル・マドリーだけだった。ベスト16の段階で、スペインのチームは一つだけ。弱くなった、と指摘されても仕方がない結果だ。
■プレミアの圧倒的な資金力
リーガエスパニョーラとプレミアリーグを比較した場合、プレミアリーグの資金力は圧倒的である。
2022−23シーズン、プレミアリーグ全体の補強費は30億8000万ユーロ(約4310億円)だった。ラ・リーガ(5億6000万ユーロ/約784億円)の数字とは、比べるべくもない。
プレミアの資金力、その背景にあるのは外資の存在だ。そして、テレビ放映権である。
プレミアは近年、国内の放映権で50億ユーロ(約7000億円)を得ていた。国外の放映権を含めれば、その額は105億ユーロ(約1兆4400億円)に上る。
また、2022年から2025年までの新契約においては、116億ユーロ(約1兆6240億円)のテレビ放映権収入が見込まれている。
一方、昨年末に発表された2021−22シーズンのラ・リーガのテレビ放映権で、その総額は15億8500万ユーロ(約2590億円)だった。これも、プレミアとは比べるべくもない数字である。
加えて、プレミアでは、テレビ放映権が基本的には20クラブに均等に分配される。
昨シーズンのテレビ放映権収入において、優勝したマンチェスター・シティ(1億7600万ユーロ)とブライトン(1億4460万ユーロ)やクリスタル・パレス(1億3850万ユーロ)との間に大きな差額はなかった。
ラ・リーガでは、昨シーズン、レアル・マドリー(1億6080万ユーロ)、バルセロナ(1億6010万ユーロ)とエルチェ(4590万ユーロ)やカディス(4700万ユーロ)との差は明らかだった。
■ラ・リーガのサラリーキャップ
もうひとつ、注目したいポイントがある。ラ・リーガのサラリーキャップ制度だ。
スペインでは、2013年にサラリーキャップ制が導入されている。その年、ハビエル・テバス氏がラ・リーガ会長に就任。そこから、「改革」がはじまった。
テバス会長またラ・リーガの目的は、1部と2部のクラブの債務削減にあった。各クラブに健全経営を促すのが最大の目的で、なおかつ、それによってスペイン国内の平等性と競争力を保つことが推進された。
テバス会長の就任前、スペインとラ・リーガは惨憺たる状況に置かれていた。ラ・リーガ所属のクラブの負債総額は、およそ40億ユーロ(約5600億円)だった。当時、1部・2部・3部で、300人を超えるプレーヤーが給与の未払いを訴えていたと言われている。
悪く語られがちなスペインのサラリーキャップ制だが、ここまで、その機能性によって助けられた部分はある。
ただ、現代サッカーの傾向は、変化を要求しているのかもしれない。
プレミアリーグでは、ラ・リーガのようなサラリーキャップ制は存在しない。UEFAのFFP(ファイナンシャル・フェア・プレー)においては、パリ・サンジェルマンがキリアン・エムバペ、リオネル・メッシ、ネイマールら多くのスタープレーヤーに高年俸を払いながら抱えていることからも分かるように、選手の給与に関する制限はラ・リーガのものよりだいぶ緩い。
元々、スペイン国内の競争性を維持するため、導入されたのがサラリーキャップ制だ。
しかし、国外に目を向けると、それが足枷になりスペイン勢が欧州の競争で負けるという皮肉な結末がもたらされている。
歯に衣着せぬ物言いで、度々批判されるテバス会長だが、彼の功績を忘れてはならない。一方で、何かしらの変化が必要となっているのも確かだ。そうでなければ、プレミアあるいはヨーロッパ(UEFA)でルール変更がなされない限り、イングランド一強時代に風穴を空けるのは不可能に近い。