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エムバペがパリSG退団を決断した理由。メッシとC・ロナウドの時代の先に...待ち受ける試練と栄光。

森田泰史スポーツライター
退団を決意したエムバペ(写真:ロイター/アフロ)

彼の周囲を取り巻く環境は、決して落ち着かない。

キリアン・エムバペの話だ。エムバペは先日、今季限りでのパリ・サンジェルマンからの退団を発表。パリSGとの契約延長を行わず、移籍の意思を固めている。

■メッシとロナウドの時代の先

フットボールの世界では、長く、リオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドがトップの座を争っていた。

彼らが欧州から去り、「次の世代」が頭角を現している。アーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)、フィル・フォーデン(シティ)、ヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)、ジュード・ベリンガム(マドリー)、 ジャマル・ムシアラ(バイエルン・ミュンヘン)…。バロンドールを巡るレースは、すでに始まっているのだ。

エムバペは2018年のロシア・ワールドカップで、フランス代表の優勝に大きく貢献した。当時、18歳。彗星の如く現れたスピードスターは、キャリアの早い段階でジュール・リメ杯を獲得している。

だが、以降、ビッグタイトルからは遠ざかっている。チャンピオンズリーグ制覇が至上命題とされていたパリ・サンジェルマンでは、最後まで、その悲願を達成できなかった。

エムバペは、気づけば、25歳を迎えていた。「普通の時間軸」であれば、一人のヤングプレーヤーだ。しかし、彼のように若くして地位と名声を得たアスリートからすれば、その年齢は決して低いものではない。

■エムバペの獲得は賢くないのか

「エムバペと契約するというのは、それほど賢くはない」

これはサー・ジム・ラトクリフ氏の言葉だ。今季、マンチェスター ・ユナイテッドの共同オーナーに就任したラトクリフだが、エムバペの獲得に関しては、前向きな姿勢を示してはいなかったようだ。

しかし、逆に、問いたい。『エムバペを獲得しないというのは、賢いのだろうか』と。無論、それはラトクリフを批判するものではない。主眼を置くべきは、あくまで、エムバペだ。

競り合うベリンガムとエムバペ
競り合うベリンガムとエムバペ写真:ロイター/アフロ

エムバペは2022年夏にパリ・サンジェルマンと契約延長を行った。年俸3500万ユーロ(約56億円)、契約ボーナス1億8000万ユーロ(約288億円/3回払い)、これにロイヤリティボーナスが加わるという破格の契約だった。

近年、欧州のフットボールシーンでは、「国家クラブ」が台頭している。

パリ・サンジェルマンにはカタールが、マンチェスター・シティにはアラブ首長国連邦がバックに付いている。資金面で彼らに追随できるのはチェルシー(アブラモビッチ前オーナー/ベーリー現オーナー)くらいである。

成長著しいヴィニシウス
成長著しいヴィニシウス写真:ムツ・カワモリ/アフロ

ここで、ひとつ、文脈を読み解きたい。

2000年代、金満クラブの象徴だったのは、レアル・マドリーである。フロレンティーノ・ペレス会長は第一次政権で、ルイス・フィーゴ、ジネディーヌ・ジダン、ロナウド、マイケル・オーウェン、デイビッド・ベッカムを次々に獲得。「銀河系軍団」が形成された。

2006年に辞職に追い込まれたペレスだが、2009年に会長ポストに返り咲くと、再び似たようなアプローチを採る。クリスティアーノ・ロナウド、カカー、カリム・ベンゼマ、ガレス・ベイルらが続々と加入して、新たなマドリーがつくられた。

だが国家クラブの台頭を感じ取ったペレスは、少しずつ、方向転換を行う。若手推進プロジェクトを掲げ、ヤングプレーヤーの積極補強に動いたのだ。ヴィニシウス、ベリンガム、ロドリゴ・ゴエス、エドゥアルド・カマヴィンガ、フェデリコ・バルベルデ、オウレリアン・チュアメニ、彼らは10代あるいは20歳前後でマドリッドに辿り着いている。

文脈とは、そのマドリーに、エムバペが移籍することが濃厚であるという流れだ。国家クラブを離れ、マドリーブランドーーマドリーでプレーするのが14歳の頃からの彼の夢だったーーを選んだのである。

■栄光を手にするために

エムバペのマドリー移籍が実現した場合、彼への期待値は高くなるだろう。実際問題として、マドリーには、素晴らしい選手たちが揃っている。ヴィニシウス、ロドリゴ、ベリンガム、エムバペをどのように嵌めるのかというのは大きな課題だ。「スタープレーヤーを並べたら勝てる訳ではない」ということは、歴史が証明している。他ならぬマドリー、ペレスが、第一時政権の銀河系軍団でクロード・マケレレを放出して失敗している。

バルセロナなどは、エムバペの加入でマドリーのロッカールームが破壊されることを暗に願っているだろう。シャビ・エルナンデス監督の続投が決まり、ラミン・ヤマル、フェルミン・ロペス、パウ・クバルシといった若手が大きく成長しているバルセロナにとって、ライバルクラブの失速は歓迎すべきところだ。

ラ・マシアに賭けるのがバルセロナのDNAであるならば、マドリーのそれは苛烈な競争から這い上がる選手の出現を意味する。

リーガエスパニョーラを制して、チャンピオンズリーグの優勝に王手をかけているチームに、エムバペが加入する。これはある種、カオスな状況を生み出すが、その中で勝ち上がった者だけが、ラ・グロリア(栄光)を手にする権利を得るだろう。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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