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なぜエムバペはパリSG退団を決めたのか?レアル移籍は秒読み段階…水面下の思惑とヤングスターの覚悟。

森田泰史スポーツライター
この夏に移籍するエムバペ(写真:ロイター/アフロ)

新たな挑戦が、必要だったのかも知れない。

キリアン・エムバペが、パリ・サンジェルマン退団を発表した。5月10日、ソーシャルメディア上で、およそ4分間のビデオメッセージを投稿。今季限りでクラブを去る決断を明かしている。

退団を表明したエムバペ
退団を表明したエムバペ写真:ロイター/アフロ

「ものすごく感情が揺れ動いている。パリ・サンジェルマンというフランス最大のクラブ、ヨーロッパ有数のクラブで、そのユニフォームを守るというチャンスを長い間与えられていた」

「とても難しい。自分の国、リーグ・アンを離れるという決断を発表するのが、これだけ難しいとは思っていなかった。でも、7年が経過して、違うチャレンジが必要だと感じた」

エムバペはそのように語っている。

■契約とパリのプロジェクト

エムバペは2022年夏に、パリSGと契約延長を行った。その際、「2年+1年延長オプション」という条件でサインしていた。

パリSGとしては、2025年夏まで、エムバペを繋ぎ止めたはずだった。だがエムバペは自身のキャリアを検(あらた)めていた。今季半ば、延長オプションを行使しない旨をクラブに通達して、移籍の手筈を整えていた。

契約延長を行った際のエムバペ
契約延長を行った際のエムバペ写真:ロイター/アフロ

パリSGは2017年夏にモナコからエムバペを獲得。1年レンタル後、移籍金1億8000万ユーロ(約288億円)で完全移籍が成立した。

エムバペと同時期に加入したのが、ネイマールだ。パリSGは契約解除金2億2200万ユーロ(約354億円)をバルセロナに支払い、ネイマールを確保。ブラジルとフランスのヤング・スターが、エッフェル塔が聳え立つ地に降り立った。

2011年にカタール投資庁の子会社であるQSI(カタール・スポーツ・インベストメンツ)に買収されて以降、パリSGは積極的に補強を敢行してきた。ヨーロッパのサッカークラブを通じて、イメージブランディングを行う。それが彼らの戦略だった。そのためには、欧州で頂点に立つ必要がある。ビッグイヤーの獲得だ。

2021年夏には、リオネル・メッシがフリートラスファーで加入した。「MNM」が形成され、チャンピオンズリーグ制覇の目標を射程距離に捉えた。だがタイトル獲得には至らず、エムバペとパリのプロジェクトは、道半ばで途絶えている。

■マドリーの関心と水面下の動き

正式に退団を表明したエムバペだが、気になるのは移籍先だ。その筆頭候補はレアル・マドリーだといわれている。

マドリーは、過去、幾度かエムバペの獲得に近づいていた。2017年夏、2021年夏、2022年夏。少なくとも、3回はチャンスがあった。だが、いずれも最終的にはエムバペがフランスに残るという決断を下していた。

2021年夏には、移籍金2億ユーロ(約320億円)のオファーを出した。しかし、それはパリSGに断られた。2022年夏には、フリートランスファーで迎え入れる準備を整えていたが、直前でエムバペが翻意。フロレンティーノ・ペレス会長に携帯でメッセージを送り、パリ残留が決まった。

「エムバペは変わってしまった。フランス代表で、チームメートと一緒にスポンサー活動を行いたくないと言い始めた時に、彼が変わり始めていると思った。私は違和感を感じていた」とは2022年夏の獲得失敗時のペレス会長のコメントだ。

「フットボールは、チームスポーツだ。みな、同じ条件でプレーしなければいけない。パリ・サンジェルマンからは、チームのリーダーとしてだけではなく、クラブの中心として動けるようなオファーがあったのだろう。それは私が求めていたエムバペではない」

マドリーの攻撃を牽引するヴィニシウスとベリンガム
マドリーの攻撃を牽引するヴィニシウスとベリンガム写真:ロイター/アフロ

マドリーはエムバペの獲得に失敗。加えて、昨季終了時、カリム・ベンゼマが退団した。だがカルロ・アンチェロッティ監督は新戦力のジュード・ベリンガムをトップ下で覚醒させ、マドリーはベンゼマの代役として獲得したホセル・マトの2得点でチャンピオンズリーグ決勝への切符を勝ち取っている。

今季、すでにリーガエスパニョーラの優勝を決めているマドリーは、チャンピオンズリーグを制してドブレーテ(2冠)を達成する可能性がある。エムバペの獲得に関しても、『絶対に必要』から『来るなら歓迎』に変化した。

■必要な結果と信頼

とはいえ、エムバペ、である。

エムバペはパリSGで公式戦306試合に出場して255得点108アシストをマーク(2024年5月11日時点)。エディンソン・カバーニ(200得点)に大きく差をつけて、クラブ史上最多得点者になっている。

無論、エムバペをどのように嵌めるか、という問題はある。個人的には、システムを【4−3−3】に戻して、ヴィニシウス・ジュニオール(左WG)、エムバペ(CF)、ロドリゴ・ゴエス(右WG) という3トップを並べ、ベリンガムをインテリオールに落とすだろうと予想している。いずれにせよ、興味は尽きない。

レアル・マドリー戦のエムバペ
レアル・マドリー戦のエムバペ写真:なかしまだいすけ/アフロ

過去、何度かオファーを蹴ってきたことで、エムバペはマドリディスタから冷たい視線を送られるかも知れない。だがそれも結果を出せば、時間の経過と共に緩和されていくはずだ。

エムバペはパリで受け取っていた年俸(3500万ユーロ/約56億円)を諦め、マドリーの年俸(1500万ユーロ/約24億円)を受け入れ、移籍の意思を固めたと言われている。そこまでの覚悟があるのだから、マドリディスタの信頼を取り戻すため、ベストを尽くすだろう。

エムバペの移籍発表の”Xデー“は6月3日から9日の間になると見られている。審判の時は、迫っている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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