視聴率調査が変わることで、テレビのおばさん化は是正されるか?
『新・週刊フジテレビ批評』で語られた新しい視聴率調査
10月8日(土)に私は『新・週刊フジテレビ批評』という朝5時の番組にコメンテイターとして出演した。ビデオリサーチ社の石松俊之氏に、同社が今月からはじめている新しい視聴率調査について聞くためだ。
番組の内容はフジテレビのFODというサービスで後日視聴できるはずだ。ここでは、その概要に触れつつ、視聴率調査の変化が何をもたらすのか、考えて書いてみたい。
視聴率調査はエリアごとに行われており、よく目にする数字は関東圏での数字だ。これまでは関東では600世帯を対象に調査が行われてきた。
話がそれるが、600世帯と聞いて驚く人は多い。もちろん誤差はあり、ビデオリサーチ社はWEBサイトでも誤差が出ることは表明している。例えば視聴率10%だと2.4%前後の誤差が出るという。つまり10%は12.4%かもしれないし7.6%かもしれないのだ。それでも1%に一喜一憂するのが数字の怖さだろう。
今回の変化は以下の2つがポイントだ。
1:対象を600世帯から900世帯に増やす
2:タイムシフト視聴率も併せて調査し「総合視聴率」も出す
実はこの数年間、600世帯とは別の300世帯を対象に実験的にタイムシフト視聴も計測していた。今後は元の600に300を足した900世帯を対象に、これまで通りのリアルタイム視聴に加えてタイムシフト視聴も計測していく、というのが今回の大きな変化だ。
世帯構造の変化と録画視聴の増大が背景
世帯数を増やすのは、日本の世帯構造が急激に変化していることが背景だ。この15年で世帯を構成する人数が激減しているのだ。1人世帯、2人世帯が増え、3人以上の世帯はその分減ってしまった。「お茶の間の崩壊」とよく言うが、そもそも家族の人数が減っているのだ。となると、600世帯の中身の人数も減っていることになる。900世帯に増やして調査対象となる「人数」を増やしたことがまず変化の一点目だ。
一方、録画視聴もぐんぐん増えている。番組の中で紹介されたビデオリサーチ社のデータのよれば、2015年では平均38分間、録画再生で見ているという。
リアルタイム視聴の373分に対してタイムシフト視聴の38分は小さいようだが、朝のニュースや昼の情報番組など、つけておいて見るともなく見る時間はかなり多い。録画が不得手なお年寄りも多いだろうし、夜のゴールデン・プライムがほとんどだとすると、毎日すべての世帯の平均が38分というのはかなりの数字だ。能動的に見る番組のかなりの部分が録画視聴と受けとめていいだろう。
テレビと人びとの関係を考えるともうほっといてはおけないほど増えたタイムシフト視聴を計測することは、”必要”な状況だった。ようやく具体化するのが今月なのだ。
ビデオリサーチ社としては、リアルタイム視聴の数字はこれまで通り「視聴率」と呼び、放送後7日間までのタイムシフト視聴の数字も別途算出したうえで、両方を足して重複を引いた数値を「総合視聴率」と称して放送から9日前後で出していくそうだ。ここで「重複」というのは、リアルタイムで見た世帯でも別の家族がタイムシフトで視聴する場合などがある程度発生するので、その分は引く、ということだ。
となると、例えば視聴率は10%だったがタイムシフト視聴が5%あり、0.3%重複していたのでそれを引いて14.7%が「総合視聴率」、といった流れになるという。
「テレビのおばさん化」「テレビの若者離れ」は是正されるか?
番組でも紹介されたが、世帯構造とともに視聴者の世代構造もいま、大きく変化している。
この15年で、50歳以上(いわゆるF3M3)が34.0%から45.6%に増えている。一方、19歳以下と20〜34歳(F1M1)を合わせて「若者層」とすると、その合計は44.3%から30.6%に急減している。これによって「テレビのおばさん化」が生じている、と私は主張してきた。というのは、いまや半分近くを占める50歳以上の中でも、在宅率の高い女性、つまりF3層の視聴がどうしても視聴率に強く影響してしまう。逆に若者層がテレビを見ても影響は小さい。
視聴率競争に血道を上げる各テレビ局が、来週こそライバルからトップを奪おうと真剣になればなるほど、F3に内容を向けがちだ。その結果、とくにゴールデンタイムの番組は旅行・温泉・グルメのみならず最近は、健康・お掃除などのネタで埋め尽くされている。非常によく調べぬかれた「生活の知恵」のオンパレード。M3に入ったおじさんの私としては、正直白けてしまう。
ましてや若者がたまにテレビをつけても、母親がメモを取るような番組ばかりでは、「これは自分のメディアではない」と感じてしまうだろう。若者がテレビ離れを起こしているというより、テレビのほうが若者から離れているのだ。
こうした「テレビのおばさん化」に、視聴率調査の変化はどう作用するのか。もちろん、タイムシフト視聴のデータを取るからといって、スポンサー企業がいきなりその分上乗せするわけではないだろう。そこはそこで、おそらくこれからシリアスな交渉が業界内で進むにちがいない。
だがそれとは別に、「タイムシフト視聴」を反映させたデータが出ることは少なからず変化をもたらすと私は予想している。例えばいま、月9は紆余曲折の末、若者たちの恋愛を描く路線を続けている。テレビ離れの潮流からすると意外なほど若者たちは見ている。ただし、タイムシフト視聴の比率はかなり高いようだ。これについては前に書いたこちらの記事を参照してほしい。ビデオリサーチ社とは別の調査会社が出したデータに触れている。
「もはや、リアルタイム視聴率だけでドラマを評価する時代ではない。~録画再生率で見た夏ドラマ~」
視聴率はそこそこだったけど、タイムシフト視聴でけっこう見られていて、「総合視聴率」はかなり高かった。そんなことがわかれば、スタッフや出演者には励みになるだろう。たくさんの人が見てくれている、若者たちが録画だけど毎週見てくれている。そう作り手たちに伝われば、誰だってうれしいに決まっている。局がどう評価するかより、視聴者が評価してくれることのほうが、ずっとずっと大事なのだ。
視聴率を扱うニュースには要注意
ネットでニュースが飛び交うようになってから、視聴率を伝える記事が多くなったと思う。私たちは前よりもずっと、視聴率の数字に接しているのだ。だが私はそれがネガティブに働いていることを危惧していた。何の評価も分析もなしに「○○○テレビの新ドラマの第一回は視聴率XX%!出だしから不調」そんな記事が拡散されたりする。そのことにどれだけ意味があるのか、ずっと疑問に感じていた。
先ほど見てもらったように、リアルタイムの視聴率は、「おばさん化」が作用した数字だ。でも数字だけ出回るとそれが、日本人全体にとっての人気度だと受けとめてしまう。月9はもう若者に見られていない。本当にそうなのか。若者のテレビ離れは確かに起こっている。だが、個々のドラマが若者に見られているのかいないのかは視聴率だけを見てもはっきりしないのだ。
私は、これから視聴率を伝える際、受けとめる際には十分注意してほしいと思う。伝える側は、少なくともそれがリアルタイム視聴であることを明記すべきだ。それから、「総合視聴率」も注目したほうがいいだろう。リアルタイム視聴との差異もネタにすると面白いと思う。受けとめる側は、自分の好きなドラマの視聴率が低くてもがっかりすることはない。総合視聴率が出るまで待ってみるといい。そこには、あなた同様、そのドラマを気に入っている人たちの数が、数字になっているはずだ。
視聴率を気にすることもないのだが、自分の好きなドラマが数字が高いとやはりうれしいものだ。これからは、最初に出てくる視聴率にがっかりする必要はない。そのことを認識してもらうといいと思う。
視聴データについてはまだまだいろんな話題があるので、追い追い書いていきたい。