もはや、リアルタイム視聴率だけでドラマを評価する時代ではない。〜録画再生率で見た夏ドラマ〜
視聴率をネタにした記事を気にする必要はある?
7月も最終週になりテレビ局の夏のドラマがほぼ出揃った。毎クールのはじめには、各ドラマの初回の視聴率が記事になっている。またNHK朝ドラの視聴率もよく記事になる。
→早くも夏枯れ?夏ドラマは各局寂しい出足に…初回トップ12・4%(スポニチアネックス)
こうした傾向について、筆者は4月にこういう記事を書いた。
→テレビ番組の視聴率をニュースで扱うのは不毛だ~Twitterの声が作り手の糧になる~
視聴率を視聴者が気にする必要はないのではないか、という内容だった。いちばん大きいのは、視聴率は日本の世代構造に忠実にサンプリングしてあるので、どうしても高齢者の視聴が数字に強く反映されてしまうことだ。いまの日本の人口比率を、視聴率の対象となる4歳以上で円グラフ化したらこうなる。
50才以上のF3、M3の区分がほぼ半分になっている。つまり、高齢者が支持する番組のほうが視聴率は上がるのだ。朝ドラの視聴率が高いのは、高年齢層のとくに女性の視聴者が多いからだし、月9で若者の恋愛を描いたドラマが昔より視聴率がとれないのも当然なのだ。
視聴率には録画再生の数値は含まれない
世代の問題とは別に、とくにドラマの視聴率で大きいのが、録画再生だ。いまや大容量のHDレコーダーが安価に手に入る時代。操作もグッとカンタンになり、気になる番組をどんどん録画リストに放り込める。テレビが好きな人ほど、レコーダーを駆使して録画でじっくり見るようだ。リアルタイムで慌てて見なくても、深夜や土日にじっくり見ることができ、中身を堪能できる。中には、放送時に家にいても録画のほうがじっくり視聴できるのでと、あえてリアルタイムで見ない人もいるようだ。
そしていまの視聴率の数字には、録画再生のデータは入っていない。日本の視聴率を計測するビデオリサーチ社ではすでにこの録画再生のデータも、リアルタイムの視聴率とは”別に”しっかり計測している。だが通常の視聴率とサンプルが違うので、合計はできないとしている。
それがようやく、2016年10月つまり今年の秋から、リアルタイムとタイムシフト両方のサンプルを束ねて同じ対象からデータを取ることになっている。そうなれば、リアルタイム12%、タイムシフト9%、合計で21%が視聴した、と発表される可能性もある。
だがそうカンタンではないのが、ビデオリサーチ社の視聴率はテレビCMの取引に使われる数値であることだ。タイムシフトのデータの分もスポンサー企業が広告費を上乗せしてくれるかはわからない。少なくとも、タイムシフト視聴ではCMの何割かはスキップされるので、合計した数値分広告費を払うのは割が合わないことになってしまう。これについてはおそらく、10月までに何らかのルールが議論されるのだろう。
だがそんなことは、業界内で話しあえばいいことで、視聴者にとっては何の関係もない。あるとすれば、自分のお気に入りのドラマがタイムシフトまで合わせるとどれくらいの人が見ているかだろう。多くの人が見ていると知ればやはりうれしいし、自分の見てないドラマを見ている人が実は多いのなら興味も沸くというものだ。そういうデータを知ることはできないものか。
”視聴ログ”から、録画再生も含めたデータは出すことができる
最近、こうした議論の中で出てくるのが”視聴ログ”だ。家庭のテレビがネットに繋がっていて許諾が得られていれば、視聴データが取得できる。それを集計すれば何時何分からテレビで、もしくはレコーダーでどれくらいの数の人が、何を見ていたかがかなりの精度でデータ化できるのだ。このデータを解析すれば、リアルタイムもタイムシフトも、視聴率と似た数値を出すことができる。
視聴ログのデータ化にいち早く取り組んでいるのがCCC、レンタルビデオTSUTAYAの運営企業だ。家電メーカーから取得した視聴ログを独自に分析し、これまでの”視聴率”とは違う視聴実体を見出している。またCCCが展開するTカードと合わせて分析することで、メディア接触から購買までを一貫させた分析にも取り組んでいる。
その事業を担当するCCCマーケティング社からこの夏クールのドラマの初回のデータを提供してもらったので、皆さんにも見てもらおう。
あらかじめ言っておくと、このデータはビデオリサーチ社の”視聴率”とはまったく異なるので、比べて見ることにはそもそも意味がない。どっちが合っているとか間違っているとかいうものではなく、データの母集団がまったく違うのだ。またビデオリサーチ社のデータは先述の通り、日本の世代構造をできるだけ忠実に反映したものであるのに対し、CCCマーケティング社のものは特定のメーカーのテレビ機器を持つ家庭が母集団だ。日本の世代別人口は反映していない。ネットに繋がったテレビ機器であることも踏まえると、おのずから高齢層が少なくなるので数値にもそれなりの差異がでる。その点には留意されたい。
1位は”視聴率”と同じ。2位以下は大きく入れ替わる結果に
CCCマーケティング社の視聴データを表にしたものがこれだ。
「LIVE」がリアルタイム視聴の視聴率、「REC」が録画したものを7日後までに再生した視聴率、「TOTAL」はそれを合計した数値、つまり放送時から7日後までのそのドラマの視聴率の合計だ。表はTOTALが多い順に並べてある。
「家売るオンナ」はLIVEでも強いが録画再生も多く、総合で1位だった。最初に紹介したスポニチアネックスの記事にある、公式な視聴率でもこのドラマが1位だったので、とにかく「家売るオンナ」がいかに強いか、ということだろう。
だが2位以下は”公式視聴率”とずいぶんちがってくる。
今期の月9「好きな人がいること」は”公式視聴率”では7位だったのでまったく違う結果だ。そしてこのドラマはLIVEでは「家売るオンナ」より高く1位だ。このデータでは月9が大健闘している。
3位の「そして、誰もいなくなった」も”公式”では5位なのでこっちのほうが高い。
「仰げば尊し」「刑事7人」が”公式”よりずいぶん順位が下がっているのも興味深い。調査の母集団の違いが大きく出ているのかもしれない。
「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」「せいせいするほど、愛してる」「神の舌を持つ男」を黄色で表示しているのは、RECがLIVEの倍以上だからだ。とくに「神の舌を持つ男」は堤幸彦監督作品で、熱いファンが多そうだ。そういう視聴者ほど、あとでじっくり見る傾向の現れなのではないか。
ちなみに全体にLIVEの数字が”公式の視聴率”よりかなり下であることに気づくだろう。視聴ログをもとにすると”ネットに繋がっている機器”のデータになるので世帯に一台の機器になってくる。ビデオリサーチ社のデータは世帯に複数台テレビがあるとどれかで見ていればカウントされる。そこに大きな違いが出てくる。
テレビの視聴計測は様々に進化していくだろう
ここで紹介したデータはあくまで、CCCマーケティングがテレビの視聴ログから導き出したもので、”公式視聴率”よりこっちのほうが正しい!と言いたいわけではない。ビデオリサーチ社の視聴率はテレビのCM取引に必要なものであり、そこにCCCデータを持ち出してもビジネスが混乱するだけだろう。
ただいわゆるビッグデータの考え方が出てきてデジタル化が進むことで、テレビの視聴計測がいま多様に進化をはじめている。CCCマーケティングだけでなく、多様な手法で視聴実態を把握しようという動きはすでにあちこちで具体化しつつあるのだ。ひとつのデータが”絶対”ではない。そのことを知ったうえで”視聴率”の数字を見つめてもらうといいと思う。
CCCマーケティングからはまたデータ提供をしてもらい、いろんな角度でとりあげていきたいが、彼ら自身も「ソレイケ テレビ探偵団」というページで情報発信しているので、そちらも併せて注目して欲しい。