米・フードバンクに食料求め車1万台の列、日本でも不足しつつある食料備蓄、必要な対策は?
米国ではフードバンクの需要が40%増、一方、外食産業向け農産物は行き場を失い廃棄の現状
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大により、米国では、この4週間で2,200万人が失業保険を申請した(2020年4月16日付、CNN)。食料を求め、国内のフードバンクに車が列をなす光景が見られている。4月14日付のCNNによれば、米国に200以上あるフードバンクをとりまとめるFeeding America(フィーディングアメリカ)は「米国内のフードバンクの需要が40%増加している」と話している。
フィーディングアメリカとAmerican Farm Bureau Federation(アメリカ農務局連盟)は、こうした状況を踏まえ、米国農務省(USDA)に対し、4月14日に書簡を提出した。 その中で、米国下院農業委員会のコリン・ピーターソン委員長は、ソニー・パーデュー農務長官に対し、食料のない人々や農産物を廃棄している農家や畜産農家を助けるため、より多くの農産物など一次生産品を購入するよう、米国政権に促した(2020年4月14日付、AgWeb)。
というのも、フードバンクでは食料不足が生じる一方、農家や牧場主が、新鮮な牛乳や肉、卵、果物や野菜などを廃棄せざるを得ないという矛盾が生じているからだ(4月11日付、The New York Times)。一部のフードバンクでは、需要が普段の2倍に増加している。と同時に、消費者は、トン単位の農作物が投げ捨てられている映像を目にしている。スーパーなど小売向けの野菜は需要が増える一方、外食産業向けの農産物や乳製品が行き場を失い、廃棄せざるを得ない(2020年4月17日付、Enterprise Newspaper)。スーパーでの食料需要の増加により、フードバンクに回ってくる食品は減少しており、高まる需要に応えることができないでいる。
テキサス州のフードバンクには1万台の車
2020年4月17日(金)、テキサス州のサンアントニオフードバンクには、食料を求める1万台の車が並んだ。
ツイッターでは、17日の緊急配布のために90トン(20万ポンド)もの食料を積む様子が投稿されている。
サンアントニオフードバンクのCEO、エリック・クーパー(Eric Cooper)氏は、NPR(米国のナショナルパブリックラジオ)の取材に対し、
と語った。クーパー氏によると、最近、フードバンクを訪れる人のうち、半数は初めての人たちだという。その一人、42歳の銀行員、エリカ・カンポス(Erica Campos)さんはNPRの取材に対し、
と答えた。彼女は離婚した夫から送られてくる月1,200USドル(約129,000円)の養育費に頼っていたが、その前夫が新型コロナの影響でホテルのコンシェルジュの仕事を失ったため、収入が途絶えてしまったという。
サンアントニオフードバンクでは、マスクをしたボランティアスタッフが、加工食品だけでなく、野菜などの生鮮食品を、ドライブスルー形式で配っている。公式ツイッターでは、食料を受け取った女性が「ありがとう」のメッセージボードを掲げている写真も投稿されている。
カリフォルニア州では18日、80カ所で食料配布
同じような傾向は、米国の他の州でも見られる。カリフォルニア州では4月18日、80カ所で、フードバンクによる食料配布が行われた。
感染を防ぐため、ドライブスルー形式で食料を渡すところも増えている。
セントラル・カリフォルニア・フードバンクは、公式サイトで、ニーズの高まりに伴い、寄付を募っている。
ペンシルベニア州では3月時点でフードバンクへ余剰食品の引き取りを求める量が普段の10倍に
3月末には、米国でも、まだ今ほどの失業率ではなかった。ただ、ロックダウンで飲食店の店内営業が休止されたため、事業者のところで余剰食品が発生し、それをフードバンクに引き取って欲しいという食品の量は、普段の10倍に膨らんでいた。4月16日時点では3月とは様相が変わり、食料を求める人たちが増えてきている。飲食店とともにフードバンク活動に臨む様子が投稿されている。
2019年1月にも米国で公務員がフードバンクに列をなす事態が起こっていた
ちょうど一年ほど前、2019年1月、米国ではトランプ大統領が「国境の壁」をめぐり、予算案への署名を拒否したため、米政府機関が1ヶ月以上、一部閉鎖された。そのため、普段はフードバンクに寄付する立場の公務員ですら、食料を求めてフードバンクに並ぶ事態となった。
今回のCOVID-19では、当時にも増して、フードバンクに人が殺到し、渡すボランティアも食料も不足する事態となっている。
2017年秋、トランプ大統領は食料支援の予算を削減していた
今からさかのぼること2年半前の2017年11月、米国メディアは、トランプ大統領が、フードスタンプ(食料支援)の予算を削減したと報道した。
皮肉なことに、その後、通常ならフードバンクに並ぶ必要のない人までが食料を求める事態が複数回、繰り返されている。
2020年4月17日、トランプ大統領は、新型コロナで打撃を受けた農家を支援するため、US190億ドルの緊急支援策を発表した。うち160億ドルは農家の直接給付に、30億ドルは食肉・乳製品・野菜などの買い上げに充当する(4月19日付朝日新聞)。
イギリスのフードバンクでも普段の2倍量に
米国だけでなく、イギリスでもフードバンクの需要は増えている。フードバンク、Fare Share(フェアシェア)で扱う食品の量は、普段(350トン)の2倍(711トン)になっている(2020年4月10日付、The Guardian)。
このような事態を受け、イギリス政府は、食品ロスを減らし、福祉へと活用するため、300万ポンドを拠出することを決定した(4月8日付、Energy Live News)。
日本でもフードバンクの食料を必要とする人が増加
日本でも、フードバンクの食料を必要とする人が増加しており、食料が不足しているところもある。岐阜県のフードバンクぎふでは備蓄食料が不足している(4月12日付、岐阜新聞・Yahoo!ニュース)。熊本県では子ども食堂を休止したが、リクエストが多いため、持ち帰り用の食料を配布しているところもある(4月10日付、Yahoo!ニュース)。
東京の感染者数が注目されているが、実は人口10万人あたりの感染者数で調べてみると、石川県は東京に次いで全国で2番目に感染者数が多い(2020年4月18日時点)。
4月17日の北國新聞は、石川県輪島市で食品の在庫が薄くなっており、支援食料を求めていることを報じた。
美味しさの目安に過ぎない賞味期限を「品質が切れる日付」と誤解する例も
日本でできることの一つに、フードバンクで扱う食品のうち、長期保存できる食品の賞味期限の基準を緩和することがある。日本のフードバンクは、受け入れる際、「賞味期限が1ヶ月以上残っていること」を条件にしているところが多い。法律ではなく、いわば自主基準だ。
だが、世界を見渡してみると、米国や欧州のフードバンクでは、乾麺やシリアルなど、長期保存ができる食品に関しては、賞味期限が多少過ぎても受け入れているところが多い。なぜなら賞味期限は品質が切れる日付ではなく、美味しさの目安に過ぎないからだ。
ここで大事なのは、賞味期限がもともと年単位で長い食品に関して、そのような特別なルールを決めていることだ。つまり、水分量が少なく、日持ちがしやすい食品のみ、そのような柔軟な対応をしている。すべての食品に適用しているのではない。また、賞味期限がどこまで過ぎたものをOKとするかについても、各団体でルールを決めて運用していることが、農林水産省の海外フードバンク調査報告書に掲載されている。
日本のフードバンクが扱うのは、主に賞味期限の長い加工食品だ。日常にも増して、今のような非常時こそ、多くの食品が必要とされる。政府(消費者庁)も、「賞味期限が切れた食品がすぐに食べられなくなる訳ではない」とする啓発ツールを作っている。
参考:
2020年3月19日 食品の期限表示について知ろう(消費者庁)
ただでさえ食料自給率37%と低い日本。世界を見渡すと、限定的ではあるが、国によっては食料輸出に規制をかけるケースも出ているという。食品ロスを減らし、食べ物を必要とする人たちに少しでも食料が行き渡らせるためには、食品の安全性に配慮しながら、賞味期限の扱いに対し、柔軟な対応が求められるのではないだろうか。そして、賞味期限の概念を正しく理解し、食資源を捨てず、大切に使いきることは、フードバンクだけでなく、私たち消費者にも求められている。
参考記事
Dumped Milk, Smashed Eggs, Plowed Vegetables: Food Waste of the Pandemic
22 million Americans have filed for unemployment benefits in the last four weeks
米政府職員フードバンク食料配給に殺到 80万人が1ヶ月無給となった 食品ロスや食料支援は他人事でない
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Letter to USDA: help food banks, reduce food waste
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