トランプ大統領が貧困層に向けた食料支援の予算を削減

「繁栄の中の貧困」(写真:ロイター/アフロ)

ニューヨーク・デイリー・ニュースは、連邦政府が「フードスタンプ」の予算を削減したため、多くのニューヨーク市民が食料に困っている状態にある、と報じている( "NYC families hunger for $770M in lost food stamp benefits since 2013 cuts"New York Daily News、2017年11月20日5:00am報道)。

DAILYSUNも、この記事の内容を、日本語で報じている。

「フードスタンプ」とは

「フードスタンプ」とは、生活困窮者が食品を買う費用を支援するためのプログラムだ。以前は紙のクーポンのような形だったが、現在は磁気テープがついたポイントカードのような形に変わっている。その「フードスタンプ」を、食料に困っている人が、近隣のスーパーマーケットなどに持っていくと、飲食品と引き換えてくれる(ただし、アルコールやたばこなどの嗜好品は除く)。国の予算から支給され、店にとっても売上の一部となる。

1960年代に米国で設立したこの仕組みは、食品供給の改善に役立つとして、おおいに賞賛されてきた(『食の社会学』NTT出版より)。食料を受け取る人は、フードバンクなど、特定の施設だけではなく、一般の小売店で受け取る(購入する)ことができるので、自分だけが他の人と違う、といった疎外感を感じないで済む(前述書籍『食の社会学』NTT出版 より)。

フードスタンプを含め、総合的にはSNAP(スナップ:補助的支援栄養プログラム:Supplemental Nutrition Assistance Program)と呼ばれる米国のこの食料支援制度は、食料支援に関わる人たちの間ではよく知られている。

記事にはフードバンク団体「the Food Bank for New York City」の調査結果が書かれている。フードスタンプ向けの予算は2013年から削減されており、現段階で7億7000万ドル(およそ860億円)が削減された。これにより、2億2300万食分の予算がカットされたことになるという。

ニューヨーク市民のうち、実に5人に1人がフードスタンプに頼っており、平均で月に$260(26,000円)の食費援助を受けている形になるそうだ。

SNAP(USDA:米国農務省の公式サイトより)
SNAP(USDA:米国農務省の公式サイトより)

フードスタンプには課題も

もちろん、夢のような制度ではないので、課題もある。たとえば転売される問題。あるいは、低所得者層の人がスーパーで自ら選ぶ食料品は、栄養価の高い食品ではなく、嗜好飲料などが多く、栄養価が充足されないという問題、など。米国のフードバンクは、いわゆるジャンクフードを除外し、生鮮食品や、栄養価の高い食料品をできるだけ提供するよう、栄養ガイドラインを制定するなど努力を重ねている。

トランプ大統領はさらに2000億ドル(22兆円以上)のフードスタンプ予算を削る方針

トランプ大統領が提案している予算案では、このフードスタンプ向け予算を、今後10年で、さらに2000億ドル(およそ22兆5000万円)削減する方針だそうだ(元記事="President Trump's proposed budget would cut food stams by nearly $200 billion over the next decade.")。

昨年の米国大統領選では、投票前にトランプ支持層だと言われていた低所得者層だが、投票後には富裕者層だったと報じられている。直近で、ギャラップ社が行なった調査では、2017年11月20日現在、トランプ大統領の支持率は36%、不支持率は57%にのぼっており、不支持層が過半数を超えている。

参考記事:

米大統領選:誰がトランプを支持したのか

フードスタンプはないが、フードバンクは存在する日本の現状

日本には、フードスタンプ制度はないが、米国発祥の「フードバンク」はある。フードバンクとは、まだ充分に食べられるにもかかわらず、なんらかの理由で販売できなくなったものを企業などから無償で引き取り、食料を必要としている施設や人へと配分する活動、もしくはその活動をおこなう組織のことを指す。

米国は、1967年に世界初のフードバンクが始まった、フードバンク発祥の国である。国内に210ほどのフードバンクがある(Feeding Americaによる)。かたや、日本は2000年ごろにフードバンクが始まっており、現時点で全国77団体ある(2017年11月10日、流通経済研究所発表による)。

米国は、日本より低福祉ということもあり、余剰食品を困窮者層へと配分する土台は、日本よりも厚い。たとえば余剰農産物などを国が買い上げてフードバンクに寄付できる制度や、寄付により税金が安くなる税制優遇措置、善意でおこなった行為で意図せざる事故が起きても責任を問わない免責制度(善きサマリア人の法=よきさまりあびとのほう)などだ。

だが、今回の報道を見ると、米国でも、この「フードセーフティネット」(=いざというときの支え、受け止めになる仕組み)が薄くなり、揺らいできているようにも見える。

日本ではどうか。

日本では、認定NPO法人への税制優遇措置はあるが、免責制度はない。「免責制度ができても日本でフードバンクへの寄付が増えるわけではない」という声も聴く。現状では、企業の負うリスクが高く、フードバンクへの寄付が激的に増えるとは言い難い。今後もその傾向は変わらないだろう。だが、フードバンク研究の第一人者であり、書籍『食品ロスの経済学』の著者である、愛知工業大学経営学部教授の小林富雄先生は、「フードバンクが盛んな国で、善きサマリア人の法のような免責制度のない国はない」と語る。小林教授によれば、台湾では台中市の条例が先行しており、免責を達成するためには、法律という制度に限られるわけではない、と言う。食品の寄贈者(ドナー)のリスクを低減させるために、ドナー向けの食品事故の保険商品の開発なども一つの方法である。このような保険は韓国に存在しているそうだが、ほとんど発動したことがないほど、食による事故は少ないそうだ。

「政府が最貧困層を援助すべきと考えますか?」(Pew Global Attitudes Projectの調査、表の上部を引用)
「政府が最貧困層を援助すべきと考えますか?」(Pew Global Attitudes Projectの調査、表の上部を引用)

日本は「最貧困者を国が助けるべき」と答える人の割合が諸外国より低い

米国のシンクタンクであるPew Global Attitudes Projectの調査(2007年10月発表)によると、「政府(国)は、最も貧困状態にある人を援助すべきである(State Should Take Care of the Very Poor)」という質問に対し、「完全に同意する(Completely agree)」と回答した人の割合が、調査対象47カ国中、最も低かったのが日本(15%)という結果になっている(上記棒グラフ参照)。「ほとんど同意(Mostly agree)」の割合を合わせても、日本が最低(59%)である。米国より低い。

貧困層の食料支援のチャンスを奪う、米国のこの事態を、日本ではどう見るだろうか。