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海自護衛艦いずも「中国ドローン撮影」、防衛省は何を根拠に本物の可能性が高いと判断したのか

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
海自最大の護衛艦いずもをドローンで撮影したとする映像(筆者が画面をキャプチャー)

中国や日本のSNS上に拡散された海上自衛隊横須賀基地(神奈川県横須賀市)に停泊中の護衛艦「いずも」をドローンから空撮したと称する動画と画像の真偽について、防衛省は5月9日、記者ブリーフィングを開き、「映像は実際に撮影された可能性が高い」とする最終調査結果を公表した。

防衛省は何を根拠に「本物の可能性が高い」と判断したのか。防衛省は以下の3点を含め、総合的に分析を行った調査結果だと説明した。

①護衛艦「いずも」とされる艦艇と実際の艦艇との比較
②艦番号等の不自然な箇所の有無の確認
③植生等の周辺環境の確認

ドローンにより「いずも」を空撮したとする映像についての防衛省資料
ドローンにより「いずも」を空撮したとする映像についての防衛省資料

●防衛省「艦番号、見える時と見えない時がある」

船尾甲板にいずもの艦番号の下二桁の83のうち、8だけが映っている不自然さについて記者団から質問が相次いだ。記者団と防衛省担当者の間では次のような主なやり取りがあった。

NHK記者:いずもの甲板後部には83という数字が可視、視認できる状態なのか。それを前提条件としていていいのか。
防衛省担当者:いずもが建造された当初には83という数字が甲板上に記されていた。しかし、令和元年度以降は新規に建造された艦艇や定期修理に入った艦艇については、防護の観点から甲板上に艦番号を記載していない。順次上から塗っている。そういう意味で、塗ったものが見えているという形です。
NHK記者:塗ったものが8も3も見える状態にはあるということか。
防衛省担当者:見える時と見えない時があるということです。
NHK記者:今回(動画と画像に)不自然な箇所はないとの結論だが、SNSでは3が見えない理由は何だと盛り上がってきた。見える状態にあるものが、今回動画上、8だけしか見えていなくて、3が見えていないというのはどのようなことが考えられるのか。例えば角度の問題なのか。光の反射の話なのか。解像度の問題なのか。どのようなことが考えられて、3が見えない状況があり、それでも不自然ではないという話になるのか。
防衛省担当者:もともと白い艦番号を上からグレーで塗装している。ある意味、透かした折り紙に近い話で、光の反射であるとか、見る角度といった様々な要因で一部しか見えない。遠くのものは見えて、近くのものは見えない。逆もしかり。そうしたものを1つ1つ丁寧に検証した結果、不自然さについては基本的にはないと判断した。

つまり、8だけが見えて3は見えていなくても不自然ではない、というのが防衛省の分析結果だ。

また、防衛省担当者は、上記③の「植生等の周辺環境の確認」については、木や波、建物の形状、陰といった周辺環境すべてを包含していると説明した。そして、それらの点を実際の物と比較したり、自然か不自然なのか丁寧に検証をしたりしたと述べた。

防衛省担当者は「もろもろの物を細かくチェックした。これが決め手になったとか、これだ!といった細部については、お示しするのは難しい」とも述べた。

複数の公開情報を照らし合わせて検証してゆくオシント(オープンソース・インテリジェンス)では、3連休中日だった2024年2月24日にドローンで空撮されたとの見方が有力になっている。しかし、防衛省は撮影日時の特定などについては「情報収集能力を明かすことになる」として回答しなかった。

●防衛省「分析結果を極めて深刻に受け止めている」

今回はドローンによる撮影のみで、いずもをはじめ、防衛省・自衛隊のアセットへの危害は判明していない。しかし、かりに万が一、敵の目的がドローンによる奇襲攻撃だったならば、「軽空母化改修」が施されてきた海自最大のいずもを失いかねない重大な事態に陥っていたかもしれない。

ドローンにより「いずも」を空撮したとする映像についての防衛省資料
ドローンにより「いずも」を空撮したとする映像についての防衛省資料

防衛省は「防衛関係施設に対してドローンにより危害が加えられた場合、我が国の防衛に重大な支障を生じかねないことから、防衛省・自衛隊としては、分析結果を極めて深刻に受け入れているところ」と説明した。

そして、「ドローン関連技術が急速に発展する現在、基地警備能力を不断に高めることが重要」と強調。「より能力の高いドローン対処器材の早期導入や、電波妨害による違法ドローンの強制着陸といった法令の範囲内で厳正かつ速やかな対処を徹底するなどの取り組みを通じ、基地警備に万全を期していく考え」であることを表明した。

ドローン対処器材やドローン探知能力など現在の基地の警備能力について、防衛省担当者は「手の内を明かすことになるので述べられない」と繰り返した。そして、防衛装備庁が2014年度から高出力マイクロ波(HPM)兵器、2018年度から高出力レーザーシステムの研究開発をそれぞれ実施している実績をアピールした。実際に川崎重工業と三菱重工業が既にドローンなどを撃破する車両搭載型の高出力レーザーシステムの研究試作を完成させた。

日本の防衛関連施設を脅かす不届きな輩に二度と、おかしな企てをさせないよう、ドローン撃墜能力の早期完備を含め、基地警備に万全を期し、抑止力をぐっと高めていただきたいものだ。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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