映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』。完全に女をコントロールしたいなら…私ならこうする(ネタバレ)
コントロール妄想を持つ懲りない男たち。彼らが女を支配するために採った方法は……。理不尽であることは当然だが、お話としても破綻していませんか?
※この評にはネタバレがあります。見てから読むことを強くおススメします。
■他者はコントロールできない、それが常識
いろいろ詰めが甘いお話だ。
男たちは女をコントロールしたいと思っている。「それは無理です」と私なら直ちに却下するところだ。
女でも男でも、手塩にかけて育てた子供ですら結局は親の自由にはならない。自分と違う者は自分と違う意志を持ち、自分の思う通りにはならない。
自分が思うようにできるのは自分だけ。自分以外はみんな他者なので、自分の好きなようにはならない。
それが常識である。
人生はこの常識を学ぶ機会にあふれている。
恋愛は思うようにならず、結婚は思うようにならない。友だち付き合いも、近所付き合いも、親子関係も、会社の同僚との付き合いも、「人間関係」と呼ばれるものはすべて、自分の思うようにならない。
ところが、諦めない一連の男たちがいる。
女性と付き合ったことが一度もなかったのだろうか?
いや、むしろ付き合ったからこそ、自分の自由にならない女たちに傷付いて苛立ちを覚え、逆にコントロール妄想を膨らませていく。
「もし意のままに動かせたらどんなに素敵だろう」と。
「俺たちだって女たちにコントロールされるのは嫌なのだから、女たちだって俺たちにコントロールされるのは嫌だろう」というところには想像が至らない。
自分に甘いから。
■女は怖いが執着心はある。だから…
『ドント・ウォーリー・ダーリン』にもそういう懲りない男たちが出てくる。
彼らは傲慢で、過激なので、話し合いの道を選ばない。女性に自分の要求を伝え、こっちも相手の要求を呑んで、なるべくお互いの意に沿うよう折り合いをつけていく……なんて、誰でもやっている妥協策には興味がない。
そもそも、男の上から目線なので、話し合いという平等な視点での解決策を潔しとしない。
ここで、「もう、女には近寄らない!」とならないのがやっかいなところだ。
女性へは執着がある。女性のことを諦めきれない。なので、あくまで女性をコントロールする術を見つける方向へ進んでいく。
女を諦められず、女をコントロールすることを諦められない――そういう男たちが集まってたくらみ事をする。
どうせ、幼稚な発想にしかなり得ない。自分が大将で、何でも自分の思い通りになる、というのは、赤ちゃんが最初に持つ世界観だから。
■チップを埋め込む、ロボットを作る…
「女の頭にチップを埋め込んで操縦する、ってのはどうだ」なんてアイディアも出るだろう。リモコンがあってレバー操作で動かせる。
確かにそういう映画もあった。
だが、チップくらいでは簡単に壊れそうだ。リモコンを壊されると目覚めてしまい、コントロールを失って大慌てする様が目に浮かぶ。
それよりも、ロボット化の方がはるかに安全だ。絶対服従の女型ロボットを作る。
「女のコントロール」ではすでになくなっているのだが、固いこと言いっこなしだ。
アニメ『ザ・シンプソンズ』にロボット女警察官が出て来るエピソードがあった。
インテリで優秀な彼女が手柄をあげ、いろいろ権利を主張し始めると、一人の警官がスイッチを切ってしまう。で、「本物の女にもスイッチが付いていればいいのに」と嘆き、周りの男たちはへへへへと笑い合う。
だが、もう少しだけ考えれば、もっと良い方法を思いつくはずだ。
私ならこう提案する。
「バーチャル・リアリティでいきませんか?」と。
■バーチャルでジョイちゃんを登場させる
チップは女性を傷付ける。誘拐で人格否定である。ロボットはコストと手間がかかる。
バーチャルなら架空の女性で、性格も外見もお望みのままだ。
映画『ブレードランナー2049』にジョイちゃんというのが出て来る。AI搭載のホログラムの女性で、こちらの好みを学習してどんどん理想の女性に近づいていく。
バーチャルの世界にジョイちゃんを登場させるのはどうか?
理想郷のような街の豪邸にジョイちゃんと一緒に住んでいる。
仕事をしなくてもいいし、金にあくせくすることもない。おいしいものを食べて、一緒にスポーツに汗を流し、あちこち美しいところへ旅行する。贅沢三昧。歳も取らないし病気もしない。浮気されることもない。
これで『ドント・ウォーリー・ダーリン』の男たちも大満足だと思うのだが、彼らはこの方法を採らなかった。
なぜ?
■『ドント……』の男たちのアイディアとは?
私も疑問だったが、しばらくしてこう考えた。
多分、メッセージ性が薄れるせいだ。
現代社会への風刺として、生身の女を登場させた方が生々しい。男と対決させるなら「バーチャルの女」ではなく「女」の方がいい。そうしないと女の解放という視点がぼやける……。
『ドント・ウォーリー・ダーリン』の男たちが、どんなアイディアを捻り出したのか?
果たして、それでお話として整合性が取れ、説得力があったのかは、みなさんに判断してもらいたい。
※作品写真とポートレート提供はサン・セバスティアン映画祭