ネット通販を支える物流 コロナ禍の物流不動産・物流センター・ラストマイルの動向
ネット通販市場が拡大している。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、2019年の国内BtoC-EC(消費者向け電子商取引)は19兆3,609億円で前年比7.7%の伸びだった。このうち物流が伴う物販系分野は10兆515億円で伸び率は8.1%である。
また、日本通信販売協会(JADMA)が会員企業124社を対象に集計した2021年4月度の通信販売売上高は、前年同月比で10.7%の増加になっている。なかでも衣料品22.3%増、食料品(健康食品を除く)21.1%増、家庭用品16.7%増、雑貨(文具・事務用品・化粧品を除く)14.0%増などが目立つ。これらの商品からも巣ごもり需要の伸びが窺える。
この急増するネット通販市場を支えているのが物流である。EC物流に必要な施設を供給している物流不動産、物流センター内でフルフィルメントサービスを提供しているEC物流事業者、購入者宅に商品を届けるラストマイルの最近の動向をみる。
首都圏や近畿・中京など大都市圏を中心に開発が進むマルチテナント型物流不動産、EC市場の伸びで竣工前の成約率も高く空室率は低い
コロナ禍で在宅勤務などが増え、都心型オフィス需要は縮小している。それに反して需要が拡大しているのがマルチテナント型物流不動産である。
「イーソーコ総合研究所の調査では、2021年から24年までに開発されるマルチテナント型先進物流不動産は、首都圏で168万坪、近畿と中京圏で47万坪に及びます。また、BTS型物流不動産(特定取引先専用のオーダーメイド型施設)も同時期に首都圏で12万坪となっています」(イーソーコ・大谷巌一会長)。このようにマルチテナント型物流不動産の供給量は増大しているが、新規物件が竣工しても、竣工前の成約率が高いので空室率の増加にはならないという。
総合不動産サービスおよび投資顧問会社のCBREの「ロジスティクスマーケティングビュー(2021年第1四半期)」によると、大型マルチテナント型物流施設の空室率は、首都圏1.1%(東京ベイエリア0.9%、外環道エリア1.6%、国道16号エリア0.0%、圏央道エリア3.1%)、近畿圏1.9%、中部圏8.6%、福岡圏0.0%などとなっている(同社HPより)。
ちなみに従来型倉庫と物流不動産の違いは、倉庫業は荷物の寄託契約で輸送や保管量に応じた料金を収受するが、物流不動産は賃料を賃貸面積に応じて収受する点だ。そこで物流不動産の賃料をみると、日本物流不動産評価機構(JALPA)の最新のデータでは、東京都内でも賃料が高い城南地区は6,300~10,300円/坪、城西地区が6,350~8,350円/坪である。また、愛知県名古屋地区が3,200~4,500円/坪、大阪府大阪市地区が3,500~8,000円/坪となっている。
このマルチテナント型物流不動産の需要を支えているのがEC市場だ。特にコロナ禍でEC市場が伸びているため、「EC事業者、3PL(サードパーティロジスティクス)事業者を含むEC物流事業者が拠点増設に積極的なので、新規物件の供給が増えていても竣工前の成約が70%以上になり、当面は空室率の上昇にはならない」(大谷会長)という。
ネット通販会社は取扱商品によって業績に格差が、百貨店の休業などで昨年から贈答品のネット販売が増加
では、物流センターでネット通販会社にフルフィルメントサービスを提供しているEC物流事業者の状況はどうか。
コロナ禍で在宅勤務などが増え、また外出自粛で巣ごもり需要が増えている。そのため、靴でもビジネスシューズの需要は減少し、ウォーキングシューズやランニングシューズが売れている。衣料品も外出機会が減ったために昨年の春・夏物は動きが鈍化した(高級アパレルは昨秋から徐々に回復基調)。雑貨は全体としてはほとんど変わらず、レトルト食品などは増えている。このように取扱商品でEC会社間の格差が生じた。
巣ごもり関連で伸びている商品をいくつかみると、「ダイエットサプリ関連の商品は、薄着になる夏場に備えて5月ごろから痩せ始めるために例年でも春先から売れ始める。昨年は外出自粛で人と接する機会が減ったが、反対に外出が減ったためダイエットがより必要になっているので売れた。また、巣ごもりで陽に当たる時間が短くなったので日焼け商品も売れた」(サンキューコーポレーション・水谷まゆみ取締役センター長)。
緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出された地域では、百貨店など小売店で営業時間短縮や休業などがあった。そのため「店頭で買えないので贈答品やお供え物などのネット通販が増えた。贈答品は昨年の母の日から増えてきた」(水谷センター長)という。この傾向は今年に入っても変わらず「今年の母の日もお菓子の出荷が増えた」(同)。販売が増加している贈答品には冷凍品のウナギや和菓子などもあるようだ。
取扱商品だけではなく販売チャネルによっても格差が出ている。EC会社の商品には、一般ユーザーにネットでは売らないで、小売店に卸して店頭販売しかしていないtoB向けの商品もある。だが、小売店の休業などで店頭販売用のtoB商品が落ち込み、急遽toCの一般向けに通販するようにしたケースもあるようだ。
このような中でネット通販に参入する会社は多い。「HPから引き合いがあり、非対面で商談し非対面で契約して新規取引が始まったEC会社もある」(サンキューコーポレーション・秋山悟社長)。
EC市場を追い風にエリア拡大を図る独立系のラストマイル事業者、複数取引先の積合配送で効率性向上が強み
ECに必要なラストマイルはどうか。大手ネット通販会社のラストマイルは、宅配便事業者、アマゾンのデリバリープロバイダとアマゾンフレックス、JP楽天ロジスティクス(日本郵便50.1%、楽天49.9%出資で7月に設立予定、楽天エクスプレスは終了)などが担っている。また、ヤフーはヤマト運輸と提携して独自の物流サービスを構築しようとしている。それに対して中小のネット通販会社は、仮想モールを運営している大手ネット通販会社の物流システムを利用するか、EC物流事業者に一括委託するか、あるいは宅配便事業者を利用している。
4年ほど前には宅配便のドライバー不足を連日のようにマスコミが取り上げた。だが、EC市場の拡大で当時よりはるかに宅配荷物が増えているのに、宅配ドライバー不足が話題にならない。これはコロナ禍で仕事を失った人たちの中に、届出をして貨物軽自動車運送の自営業者になる人がいるからだ。しかし、特定のEC会社だけの専属配送で収入を増やすのは容易ではない。そのような人たちは巡り巡って宅配便事業者の仕事を請けるようになるパターンがある。だが、さらに自営業を指向する人たちが新たに参入してくるという循環だ。このような人たちが急増するEC宅配を担っている。
同時に、特定のEC会社や宅配便事業者の傘下に属さない独立系の宅配事業者も台頭してきた。軽貨物の個人事業主でも労働時間規制の法令を順守しながら一定以上の収入を確保しなければいけない。そこで独立系の宅配事業者の中には、積合配送などで生産性の向上を図り、アライアンスによってサービスエリアの拡大を図っているグループもある。
その追い風になっているのがコロナ禍の巣ごもり需要だ。「宅配だけでなく梱包作業もやってもらいたい、といった引き合いが増えている。そこで全国的な配送サービス体制の構築を進めている」(ラストワンマイル協組・志村直純理事長)という。
このように独立系の配送事業者も台頭し、ECのラストマイルを担うプレイヤーは多様化している。だが「いつまでも追い風が吹き続けるとは限らない。サービスの差別化を図り、環境問題などSDGsも重要になってくる」(志村理事長)ことは間違いないだろう。