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なぜ大手飲食チェーンの新業態の進出が相次いでいるのか

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
大手の飲食店は新業態への挑戦を続けています(写真:アフロ)

このところ、大手の飲食店チェーンが新業態への進出を続けています。

【①事例】

・スシローは、おむすびの「むすび寿司」を展開しています。これは寿司ネタの調達力を活かして、おむすびの具も調達。仕入れ力により新業態を確立させました。

・牛丼で有名な松屋はなんとパスタ店「麦のトリコ」をオープンさせました。これはソース作りに注力してきた松屋が生み出した新業態です。セントラルキッチンの生産の高効率性を活かして勝負するものです。肉と小麦でリスクヘッジを図るものですね。

・また丸亀製麺は「丸亀うどーなつ」といったウドン粉を使ったドーナツを展開しています。

なお、大手の飲食店チェーン以外にも事例はあふれています。

・その他、ヤマダ電機は自動車ディーラーに参入しています。家具販売、リフォームにも進出しています。また家電量販店のヨドバシカメラは池袋に体験型の美容家電等の専門店をオープンしています。これも接客やマーケティングに卓越した同社のノウハウを活かす試みです。

これら、新業態への進出理由はなんでしょうか?

【②背景】

大きく三つがあげられます。

・コロナ禍:主力商品が落ち込むことがあり、主力商品が一つだけでは経営が不安定な状況になりました。

・原材料(食品)の高騰:野菜などが上昇を続けています。またエネルギーコストも上昇しています。

・人手不足:従業員やアルバイト、また協力会社の人材も集めにくい状況にあります。

この背景から、新業態への進出のねらいは次のとおりです。

【③新業態への進出のねらい】

・リスクヘッジを図る:さまざまな材料や商品分野を分散することにより、リスクの分散を図る目的がありました。肉だけではなく小麦、野菜、などと分散させます。また、顧客層をわけたり、異分野商品を販売することで、どれかが落ち込んでも、どれかは売上高を確保できると考えられます。

・コスト削減:新業態を作ることで調達ボリュームを増すことができるかもしれません。これはバイイングパワーの増加ともいえます。これにより交渉力を増しコストを低減できます。また、セントラルキッチンなどで効率的に生産することで調理コストを下げます。これは人手不足の解消にもつながります。

・品質向上:また、当然ですが、新業態が増えることで、業態ごとに切磋琢磨することで専門ノウハウを上昇できます。また、他業態で極めたノウハウを横展開も可能でしょう。それにより、グループ全体のブランド向上が期待できます。

・自社の飲食店での試行錯誤:居抜き、という単語があります。これは既存の飲食店の設備を引き継いで新たな飲食店をはじめることです。これは引き継いだ側からすると有利です。ただ同グループ内で多数の業態をもっていれば、グループ内での試行錯誤が可能です。

【④その他の補論】

ところで、イオンが冷凍食品に特化した@FROZENは面白いですね。これも強みを特化し新業態を作った事例ですね。また、ぐるなびがノウハウを結集した新業態「フードホール」も注目です。これはウェブで構築したノウハウをリアル店舗に結集した事例ですね。

なお、現在、プレスリリースの数で調べても、2001年ごろから大企業の新業態への進出が増加し続けています。大資本のほうが効率的という側面もあります。これからもどのような新業態への進出があるか注目したいところです。

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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