対FC2訴訟のドワンゴ勝訴判決の重要性について
知財業界から大きな注目を集めていた、ドワンゴによる対FC2判決の知財高裁の判決が出ました。地裁の判決を覆して、ドワンゴ勝訴となりました(参照記事)。
この判決、および、関連判決は、ドワンゴとFC2という私企業どうしの争いの話を越えて、ネット関連特許発明の一部が海外で実施されている場合の特許権の効力という、より広い問題に関する判決例という点で重要な意味を持ちます。
これ以前は、特許発明の一部海外実施については、様々な理論的議論がされていましたが、直接的に関連した実際の裁判例はほとんどありませんでした。今回の裁判および関連裁判例により、今後、同じような特許権侵害訴訟があった場合にどのような理論展開を行えばよいか、そして、サーバーを海外に移すだけで特許権侵害を回避されてしまうことを防げる特許出願を行うにはどうすればよいかなどがかなりクリアーになりました。なお、たとえば方法クレームの扱いなど、まだ明確な判決例がない部分はあります。
両社の一連の判決は2つの訴訟がからんでいるので状況を整理しておきます。
1.特許4734471号と特許4695583号(表示装置および表示プログラムのクレーム)に関するもの
●東京地裁2018年9月19日:fc2が提供する表示装置はドワンゴ特許の技術的範囲に属さないため(海外実施の話を議論するまでもなく)非侵害(ドワンゴ敗訴)(関連記事)
●知財高裁2022年7月:地裁の侵害論の結論を覆すと共に、諸事情を考慮して日本国内の実施とみなせるのであれば、一部海外実施でも日本の特許権は及ぶと判示(ドワンゴ勝訴)(関連記事1、関連記事2)
2.特許6526304号(コメント配信システムのクレーム)に関するもの
●東京地裁2022年3月14日:発明の構成要素がすべて日本国内になければ日本の特許権は及ばないと判示(ドワンゴ敗訴)(関連記事)
●知財高裁2023年5月26日(今回):諸事情を考慮して日本国内の実施とみなせるのであれば、一部海外実施でも日本の特許権は及ぶと判示(ドワンゴ勝訴)
まだ判決文にはアクセスできていないですが、伝えられてきている判決要旨を見る限り、前回(2022年7月)の知財高裁判決と同様に、行為の具体的態様、システムを構成する各要素のうち日本国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、システムの利用によって発明の効果が得られる場所、その利用が特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、日本の特許権が及ぶという柔軟な考え方が再び示されたようです。
判決文にアクセスできしだいさらに詳しく書く予定です。