対FC2特許侵害訴訟でドワンゴ敗訴
「FC2、コメント表示機能をめぐる特許訴訟でドワンゴに勝訴」というニュースがありました。FC2が提供する「ひまわり動画」などの動画にユーザーのコメントをリアルタイムで字幕表示するサービスがニコニコ動画関連特許を侵害しているということで、ドワンゴがサービスの停止と損害賠償1億円を求めて提訴していた訴訟です。この訴訟については過去に提訴のタイミングで書いています(過去記事「ドワンゴ対FC2の知財ガチンコ対決について」)。
今回の裁判の判決文はまだ裁判所サイトには載ってないのですが、別ルートでアクセスすることができましたので、簡単に解説したいと思います。
まず、過去記事で「ガチンコ対決」と書いたように両社は商標も含めて知財での争いを続けていますが、この裁判については特に喧嘩腰ということはなく普通の特許権侵害訴訟であるように見えます(現場の雰囲気はどうなのかまではわかりませんが)。
問題となった特許は、4734471号と4695583号です。(過去記事に書いた予想はドンピシャでした。)いずれも、動画再生にリアルタイムでコメントを表示するシステムに関する特許ですが、この方式そのものの特許というわけではなく、あくまでも実装上の細かい工夫に関する特許です。両特許の実効出願日は2006年12月11日であり、これ以前にも動画とコメントのオーバーラップ再生のアイデアはありましたので、基本的アイデアで特許を取ることは不可能でした。なお、発明者は川上量生氏と戀塚昭彦氏です。
本件裁判には以下のような争点があります(他の特許権侵害訴訟と同様です)。
1. FC2 のサービスはドワンゴの特許権の技術的範囲に属するか(侵害論)
2.FC2 のサービスはドワンゴの特許権の技術的範囲に文言上属さなくてもそれと均等なものであるか(均等論)
3.ドワンゴの特許は(特に新規性・進歩性の欠如により)無効にされるべきものか(無効論)
4.米国内のサーバで実行されているFC2のサービスにドワンゴの日本国内特許の効力が及ぶのか
5.特許権侵害があったとして損害賠償額はいくらになるか(損害論)
特に興味深いのは4でしょう。しかし、今回の地裁判決では、1と2に関してFC2はドワンゴの特許権を侵害しないとの判断がされてしまったために、その他の争点は裁判所の判断が出るまでもなくドワンゴの請求棄却という結論が出てしまいました。
侵害論について詳しく議論するスペースはないのですが、たとえば、特許4734471号の請求項1にある以下の構成要素
をFC2のサービスは満たしていないとされました。これは、元々の動画に入っていた字幕とユーザーが入れたコメントとで表示領域を分けることで両者を区別しやすくするというちょっとした工夫だったわけですが、FC2のサービスは動画表示域とコメント表示域が同一であることがソースコード等の開示により示され、この構成要素は満たさないとされました(均等論に関する議論はスペースの都合で省略します)。FC2の動画コメントサービスはニコニコ動画のデッドコピーというわけではなく独自の設計であったようです。
これは、ソフトウェア関連特許の侵害訴訟あるあるで、見た目は似ているので侵害してそうだと思っても、詳しく検討してみると請求項の構成要素の一部の相違が裁判官に厳しめに見られて非侵害とされてしまったというパターンです。
ドワンゴは控訴するとのことです(参照記事)。知財高裁でどのような議論がされるかはわかりませんが、ドワンゴ側としては仮に侵害論をクリアーしても、さらに上記の争点3と4もクリアーしなければいけないので結構大変かと思います。