ドワンゴが、対FC2特許権侵害訴訟で敗訴(4年ぶり2回目)
2018年に、株式会社ドワンゴが、ニコニコ動画におけるコメントの動画へのオーバーラップ表示に関する特許権に基づき動画配信業者FC2を提訴し、敗訴した件について書きました(過去記事)。
プレスリリースが出ていないので気が付きませんでしたが、実は、ドワンゴは2019年に別の特許権(6526304号)に基づき2回目の侵害訴訟を提起しており、その判決が先日の3月24日付けで出ていました。再び、ドワンゴの敗訴という結果です(控訴については不明です控訴されたとの情報が入ってきました)。
この一連の訴訟に関して興味深いポイントとして、FC2のサーバがすべて日本国外にあるという点があります。一部の処理が国外サーバで行われるシステムに日本の特許権が及ぶのかという、いわゆる「域外適用」の問題です。域外適用については判例があまり揃っておらず予測可能性が低いという問題がありました。その点で今回の判決には非常に興味深いものがあります。
2018年の1回目の訴訟の判決では、そもそも、FC2のシステムがドワンゴの特許(4734471号、4695583号)の技術的範囲に属していないため、域外適用について論じるまでもなく、特許権侵害は成立しないとされました。
今回の訴訟で使用された特許(6526304号)は1回目のものと似ており、実効出願日も同一(2006年12月11日)ですが、1回目の訴訟の特許が表示装置として権利化されているのに対して、2回目の訴訟の特許はコメント配信システムとして権利化されています(なお、分割ではなく別系統の特許ですすみません、4695583号の方のファミリーでした)。当然ですが1回目の訴訟で非侵害の要因となった余計な構成要件を省いてうまく権利化できています。筆頭発明者はすべて川上量生氏です。
今回の判決では、FC2のシステムはドワンゴの特許発明の技術的範囲には属しているが、クレームの構成要素の一部が日本国外で実施されているため、特許権侵害は成立しないというやや驚きの判断が行われました。細かい話になりますが、今回の特許ではシステム・クレームのみが権利化されており、ドワンゴは、FC2がコメントファイルと動画ファイルを米国内のサーバから日本国内のユーザー端末に送信することで当該システムを「生産」しているという理論構成で、侵害を主張したのですが、裁判所は、「上記の”生産”に当たるためには、特許発明の構成要件の全てを満たす物が、日本国内において新たに作り出されることが必要であると解すべきである」(太字栗原)とし、一部の処理が米国内のサーバで実行されていることを理由として、特許権侵害を認めませんでした。
これに対して、ドワンゴ側は「”生産”という実施行為が全体として見て日本国内で行われているのと同視し得るにもかかわらず、被告らが単にサーバを国外に設置することで日本の特許権侵害を免れられるという結論となるのは著しく妥当性を欠く」(太字栗原)等の主張をしたのですが、裁判所は、「明文の根拠なく、物の構成要素の大部分が日本国内において作り出されるといった基準をもって、物の発明の”実施”としての”生産”の範囲を画するのは相当とはいえない」としました。要するに特許法を改正しないとどうしようもないという話です。現在の特許制度の根本的枠組みとして属地主義(特許権の効力はその国の中で閉じる)がありますが、これは国境がないインターネットの世界とは基本的に相容れないので、何とかならないものかと思います。
細かい話になりますが、システム・クレームだけではなく、方法クレームあるいは端末の視点で見た装置クレームがあればどうなったのか気になります。なお、この特許の分割出願がまだ特許庁に審査係属中ですので方法クレームや端末クレームを新たに権利化することは制度的には可能です(そこまでやるかという話はありますが)。
この件は、専門的に突っ込むとかなりのスペースを要することになりますので、詳しい話はまた別の場所で書ければ(あるいはどなたか別の方に書いていただければ)と思います。