IOCだけが高笑い!札幌冬季五輪招致という「世紀の愚行」が日本の後進国転落を加速させる!
■ワークショップで招致ムードを盛り上げ
いまどき、IOC(国際オリンピック委員会)とスポーツ産業だけが恩恵を受け、開催地の市民が大損をするという五輪をやろうという“奇特な国”は数少ない。中国のような強権国家か、資源に恵まれた金満国家ぐらいしか、招致には手を挙げない。
冬季五輪の場合は、ウインタースポーツのリゾート地を持つ国が手を挙げる場合もあるが、それでも、よほどのお人好しの集まりでなければ、招致委員会をつくって招致活動に励まない。
ところが現在、札幌市と日本国は、本気で招致活動を行っている。札幌市では、1月から「市民ワークショップ」「市民シンポジウム」などと名付けられた五輪招致のための市民啓蒙活動が行われている。
その皮切りは、1月26日の「子どもワークショップ」。オミクロン株の感染拡大のため、オンラインで開催され、市内の小学4年生から6年生38人(当初予定は50人)が、秋元克広市長とゲストのカーリング女子の近江谷杏菜選手と質疑応答しながら、2030年の街づくりについて意見を出し合った。
2回目は1月29日に開催され、今度は中高生50人が参加。さらに、3回目が2月9日に、一般市民向けに行われた。こうしたワークショップの目的はただ一つ。招致ムードを盛り上げることだ。
■「市民の意向を最優先」して招致を決定?
最近の五輪の招致活動は、開催都市の市民の意識が重要視されている。いくら市や国が乗り気でも、市民が乗り気でなかった場合は、招致活動は流れている。
夏季五輪を含めて、最近では、カルガリー(カナダ)、ボストン(米)、ハンブルク(ドイツ)、ローマ(イタリア)、ブダペスト(ハンガリー)などが、住民投票や市民の反対の声を受け、五輪の招致活動から撤退している。
札幌の場合、過去に何度かメディアによる世論調査が行われたが、賛成と反対はほぼ拮抗していた。ところが、昨年の東京五輪後は反対が賛成を上回るようになり、札幌市としては「なんとか市民を説得したい」と、市民への啓蒙活動を始めたという。
札幌市は、3月に北海道民に是非を問うアンケート調査を行い、その結果を踏まえて招致を正式に決定すると表明している。「市民の意向を最優先し、市議会での議論なども踏まえて招致の最終的な判断を行う」と、秋元市長はこれまで市民に説明してきた。
しかし、それは表面上の話で、すでに招致はほぼ決定しているという話がある。それを匂わせたのが、今年の元旦の共同通信の報道だ。
■「年内内定」が本当なら啓蒙活動は“茶番”
共同通信の記事『2030年冬季五輪、年内にも内定 札幌本命、IOCと協議』の一部を、以下、引用してみたい。
《札幌市が招致を目指す2030年冬季五輪を巡り、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長らと日本側が今後の開催地選定の日程などについて21年12月に水面下で協議していたことが31日、分かった。複数の関係者によると、IOCによる候補地の一本化の時期は現時点で22年夏から冬ごろと見込まれている。札幌は開催実績や運営能力への評価が高く本命視されており、同年中に事実上、開催が内定する可能性もある。》
この報道を額面通り受け取るなら、現在、行われている市民啓蒙活動は、“茶番劇”になる。実際のところ、五輪招致に関するIOCの規定は改定され、いまではIOCの意向だけで開催地が決められることになっている。
■五輪憲章を改正して開催地を“1本釣り”
前記したように、いまどき五輪をやろうなどという“奇特な国”はほとんどない。これに危機感を抱いたIOCは、開催地決定は原則として7年前と定められていた五輪憲章の規定を削除してしまった。
つまり、開催したいと名乗りを上げてきた所があれば、IOC内の推薦で、いつでも内定を出せるようになったのである。
こうして決まったのが、2032年の夏季五輪、ブリスベン(オーストラリア)だった。まさに、ブリスベンはIOCに“1本釣り”されたと言っていい。
さらにIOCは、複数の国や地域、都市にまたがって開催できるように規定を改定した。一国、一都市では、莫大な予算を計上できないと考えたからだ。さすが、“ぼったくり男爵”がトップを務める組織である。
■ライバルが次々に降りて札幌だけが残る
現在、札幌のライバルとされる立候補地は、4カ所だけだ。バンクーバー(カナダ)、ソルトレイクシティ(アメリカ)、バルセロナ&ピレネー(スペイン、共同開催)、リヴィヴ(ウクライナ)の4カ所だが、札幌以外は、招致活動から降りる可能性が高いと見られている。
バンクーバー、ソルトレイクシティは、それぞれ2010年、2002年の開催地で、再度五輪をやる理由が希薄なうえ、市民の関心も薄い。しかもソルトレイクシティは、やるなら2030年より2034年にしたい意向という。
ウクライナのリヴィヴにいたっては、名乗りは上げたものの、現在、ロシアとの戦争一歩手前の状況で、招致活動どころの話ではない。
となると、バルセロナ&ピレネーとなるが、こちらはバルセロナ市民の反対運動が根強い。「ピレネー山脈で初のウインタースポーツ最大のイベントを!」と入れ込んでいるのはアンドラ公国だが、小国だけに、なにぶんにも予算がない。となると、札幌がブリスベンと同じように、“1本釣り”されかねない。
■ぼったくりにあうだけで開催後は増税
東京五輪で明らかになったように、五輪は開催都市の持ち出しとなる。IOCの“五輪貴族”のために、開催国と開催都市は惜しみなくカネを使われ、そのツケは開催後、増税となって返ってくる。
東京五輪の経費は、当初予算の7340億円の倍以上の1兆6440億円に膨れ上がった。この1兆6440億円でも足りず、実際には3兆円以上かかったと言われている。しかも、開催都市は「カネは出しても口は出せない」ため、IOCの意のままにぼったくられた。
1998年の長野冬季五輪では、関連経費を含め1兆5000億円以上の費用がつぎ込まれたとされるが、その後、会計簿が破棄されていたことがわかり、いまだにいくらかかったか判明していない。ただ、大幅な赤字だったことは間違いなく、長野市は694億円の市債を返すのに約20年かかった。
■市民に追加の税金投入はないと強調
札幌市は、昨年11月、当初見込んでいた予算(2019年の試算)の経費を最大900億円圧縮し、2800〜3000億円にするという新たな大会概要案を公表した。その内訳は、施設整備費が800億円、大会運営費が2000億~2200億円で、大会運営費はIOC負担金とスポンサー収入、入場経費等でまかない、税金は投入しないとした。
秋元市長も記者会見で、「予算が招致決定後に増えることは許されない」と強調した。
しかし、五輪開催は、市が公表した予算だけではまかなえきれない。公表された大会運営費の2000億~2200億円は、民間資金で運営される組織委員会の予算に過ぎないからだ。
大会概要案を見ると、スピードスケートは帯広市、アルペンスキーは後志管内倶知安町とニセコ町、ボブスレー、リュージュは長野市で行うとなっている。札幌市以外の施設も使用するわけだが、これらの費用も今回の予算に含まれるのだろうか?
■開催都市に義務付けられた「温暖化対策」
予算に関しては、さらに莫大なコストが見込まれる。それは、地球温暖化対策に対する経費だ。
北京を見ればわかるように、北京郊外の山々は太陽光パネルで埋め尽くされた。中国政府は、IOCの意向を受け、五輪開催のための電力をすべて再生可能エネルギーでまかなうことにしたからだ。
IOCは五輪開催の新たな意義をつくろうと、開催都市に環境対策を積極的に行うことを求めるようになった。そして、2030年以降の五輪の開催都市に対しては、温室効果ガスの削減量が排出量を上回る「クライメート・ポジティブ」な大会にすることを義務付けた。よって、札幌は「クライメート・ポジティブ」実施の第1号都市になる可能性がある。
昨年、菅義偉前政権は、2030年までの二酸化炭素排出量削減目標を2013年度比46%減とする新目標を決め、世界に向けて公約とした。しかし、これはあまりにハードルが高く、実現が不安視されているうえ、莫大な費用がかかる。
札幌市は、2020年2月に「ゼロカーボンシティ宣言」を行ない、昨年3月には、2030年に温室効果ガス排出量を半減する(2016年比で55%削減)という「札幌市気候変動対策行動計画」を策定した。
しかし、その予算をどうやって捻出するのだろうか?
■五輪開催などおこがましい財政状況
札幌市の財政力指数は0.733(令和元年度)で、政令指定都市20市のなかで17位と低迷している。また、経常収支比率は95.3%で、財政の弾力性、自由度が低い状況にある。
財政力指数とは、各自治体の財政力を示す指標で、基準となる収入額を支出額で割って出した数値。指数が1.0を上回っている都道府県は東京都のみで、札幌市は地方交付税交付金と市債発行がなければやっていけない状況にある。
これで五輪を招致するというのは、本来ありえないが、招致推進派の人々はそうは考えず、経費を削ってでも五輪を呼びたいようだ。
前述した大会概要案では、宮の森と大倉山の2カ所あるジャンプ競技場のうち宮の森を外し、ノルディックスキー複合の距離会場に予定していた円山総合運動場も外している。さらに、アイスホッケー会場の真駒内屋内競技場の建て替えも断念している。
しかし、ここまで削って“みすぼらしい大会”にすることをIOCは認めるだろうか? なにより、世界に対して「貧しい日本」を発信することになり、恥ずかしくないのだろうか?
■「経済効果」が望めるというマユツバ
五輪を開催すると、「経済効果」が望めると、いわば常識として語られている。政治家やエコノミストは、経済効果として、次の2つのことを主張する。
1つは、競技施設や宿泊施設の建設などの需要増が起こって経済が刺激されるということ。もう1つは、国内外から大勢の観戦客がやって来て、おカネが落ちるということ。いわゆるインバウンド効果だ。
しかし、この2つとも、昨年の東京五輪では成立しなかった。コロナ禍のせいもあるが、いまどき、五輪があるからとやって来る観光客は多くない。
2012年のロンドン五輪では、とくにインバウンド効果が期待されたが、例年以上のおカネは落ちなかった。海外からの観戦客は来たものの、それはもともとのビジネス客、観光客が置き換わっただけで、ホテル収入などはイーブンに終わっている。
■少子高齢化による人口減という確実な未来
招致推進派の人々が、どんな将来の夢を持とうとかまわないが、一つだけ確実な未来がある。それは、札幌もまた日本全国と同じく、少子高齢化による人口減が進み、急速に経済力を失っていくということだ。
2020年の国勢調査によると、北海道の人口は2015年の前回調査より2.8%減少して522万8885人。札幌市は1.2%増の197万5065人で、まだ人口減は起こっておらず、北海道内における一極集中が進んでいる。しかし、あと1、2年で、人口減に転じるのは確実視されている。
国立社会保障・人口問題研究所の人口推計などの統計を見ると、札幌市の人口は2030年では190万人台に止まるが、2040年には187万人、2050年173万人と減少していく。北海道全体では、2050年の人口は現在の3割減で、400万人を切る見込みだ。
2030年の札幌は、老人ばかりで子供が少ない、活気のない街になっている。五輪見物にやってきた観光客に、その光景はどのように映るだろうか。
■1972年とはまったく違う2030年
人口減は、経済衰退を招く。人口が減れば減るほど、経済は衰退し、税収も減る。それにともない、投資も減り、札幌のインフラも老朽化していく
北海道経済連合会の試算では、北海道のGDPは2015年の18.2兆円から2030年に16.2兆円となり、2兆円も減るとされている。
1972年の札幌五輪時、日本経済は絶好調だった。人口も増え、団塊世代が大活躍して高度成長を遂げていた。この経済成長を原動力に、札幌ではインフラ整備が進み、五輪の競技施設とともに大通り公園も整備され、地下鉄も開業した。
しかし、2030年の札幌は、インフラ整備の予算にも欠くような状況に陥っている可能性がある。
これで、どうやって五輪をやるというのだろうか?
五輪を開催すれば、札幌はますます貧しくなるだけ。日本の先進国転落を加速化させるだけだ。2030年の札幌は、1972年の札幌とはまったく違うことに、招致を推進する人々はいくらなんでも気づくべきだろう。