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空母1隻では攻撃なんかできっこない!トランプは単なる“ハッタリ”大統領だ!

山田順作家、ジャーナリスト
国連安保理参加国の大使らとランチ会談し、当たり前のことを言い立てる(写真:ロイター/アフロ)

最初に述べておかなければならないのは、私は軍事専門家ではないということ。ただ、以下は、複数の専門家から聞いたことに基づいている。

戦争が起こらない最大の理由は、トランプ大統領が単なる“ほら吹き”で、北朝鮮に対しての「脅し」は“ハッタリ”に過ぎないからだ。

今回、最大の「脅し」とされるのは、空母「カール・ビンソン打撃群」(Carl Vinson Strike Group)である。しかし、この打撃群は、当初、トランプがFOXニュースのインタビューで「アーマーダ(無敵艦隊=強力艦隊)を送った。すごく強いぞ。サブマリン(潜水艦)もある。すごく強いぞ」(“We are sending an armada- very powerful. We have submarines- very powerful.”)と言ったとおりに行動していなかった。トランプがこれを言ったのは、11日(米国時間)。ところが、18日時点ではジャワ島沖のインド洋にいて、その後、やっと北上したのである。22日、オーストラリアを訪問したペンス副大統領が、数日以内に日本海に到達する見通しだと明らかにするまでは、予定通りの訓練航海をしていたようだ。

しかも、この22日に、なんと艦載機の「F/A-18E スーパーホーネット」が着艦事故を起こしている。米海軍の発表によると、機体はクラッシュしたがパイロットは脱出して助かったという。艦載機の着艦事故というのは、かなり深刻な事故と言えるが、なぜか日本ではほとんど報道されず、その後、海上自衛隊の護衛艦「あしがら」と「さみだれ」が共同訓練のため、カール・ビンソン打撃群と合流したことのほうが派手に報道された。米軍の事故を、毎度、鬼の首を取ったように報道する「朝日新聞」は報道はしたが、自衛艦出撃のほうが大きな扱いだった。

その「朝日」の23日付けの記事によると、日本の護衛艦とカール・ビンソン打撃群は今年の3月に2回も共同訓練を実施している。最初は3月7日〜10日、2隻がバシー海峡で合流し、沖縄本島と宮古島の間を抜けて東シナ海に入っている。2回目が27~29日で、このときは5隻が合流して、やはり東シナ海で共同訓練をしている。

カール・ビンソンが母港サンデイエゴを出港したのは、今年の1月初め。中国の空母「遼寧」が東シナ海で訓練を行い、さらに南シナ海に進出したため、それを牽制するためだった。したがって、カール・ビンソンがこのように西太平洋海域にいるのは、初めからの行動で、じつは朝鮮半島には何度も近づいているのだ。ならば、なぜ、トランプがわざわざ「大艦隊を送った」と言ったのだろうか?

それも、たった1つの空母打撃群を「アーマーダ」と言ったのだ。どこから見ても“ハッタリ”であり、しかも「送った」というのは嘘だ。

空母打撃群というのは、1隻の航空母艦を中核に、5~10隻の水上戦闘艦(ミサイル駆逐艦、ミサイル巡洋艦)や潜水艦、1~2隻の補給艦から構成されている。この空母打撃群をいくつか集めて、「統合任務部隊」(機動部隊、Combined Task Force, CTF)が編成されるという。そうなって初めて、大規模な作戦行動ができるという。

とすれば、これをもって「アーマーダ」と言うべきだろう。

米海軍には、現在、10隻の大型原子力空母(ニミッツ級)があり、このうち2隻、「エイブラハム・リンカーン」(USS Abraham Lincoln, CVN-72)と「ジョージ・ワシントン」(USS George Washington, CVN-73)がオーバーホール中のため、以下の8つの空母打撃群が任務中と言う。

・第1空母打撃群「カール・ビンソン」 (USS Carl Vinson, CVN-70)

・第2空母打撃群「ジョージ・H・W・ブッシュ」(USS George H. W. Bush, CVN-77)

・第3空母打撃群「ジョン・C・ステニス」( USS John C. Stennis, CVN-74)

・第5空母打撃群「ロナルド・レーガン」(USS Ronald Reagan, CVN-76)

・第8空母打撃群「ハリー・S・トルーマン」(USS Harry S. Truman, CVN-75)

・第10空母打撃群「ドワイト・D・アイゼンハワー」(USS Dwight D. Eisenhower, CVN-69)

・第11空母打撃群「ニミッツ」( USS Nimitz, CVN-68)

・第12空母打撃群「セオドア・ルーズベルト」(USS Theodore Roosevelt, CVN-71)

これまでアメリカは、空母打撃群を使って空爆やミサイル攻撃をたびたび行ってきた。それらを振り返ると、いずれも空母1隻では行っていない。

1986年のリビア空爆では空母3隻、1991年の湾岸戦争では空母6隻、2001年のアフガン攻撃では空母4隻、2003年のイラク戦争では空母6隻を投入している。

たとえば、1986年のリビア空爆では、次の3隻が参加した。この3隻はいずれもすでに退役しているが、米海軍が誇る大型通常空母だった。

・「アメリカ 」(USS America, CVA/CV-66) キティホーク級、2005年海没処分

・「コーラル・シー」(USS Coral Sea, CV/CVB/CVA-43)ミッドウエイ級、1990年退役

・「サラトガ」(USS Saratoga, CVB/CVA/CV-60)フォレスタル級、1994年除籍、2014年5月1セントで売却

1991年の湾岸戦争は、「砂漠の嵐作戦」(Operation Desert Storm)が展開され、バグダッドにトマホークが撃ち込まれ、イラクからはスカッドミサイルが発射され、さらにバンカーバスター(地中貫通弾)なども使われるという、大規模な戦闘になった。

この作戦に参加した空母は、前記したように6隻。当時、アメリカはニミッツ級原子力空母5隻を展開させていたが、このうち「セオドア・ルーズベルト」のみを参加させ、残りは、通常型の大型空母5隻でまかなった。

「ミッドウエイ」(CVA-41)、「サラトガ」(CVB/CVA/CV-60)、「レンジャー」(CVA-66)、「アメリカ」(CVA/CV-66)、「ジョン・F・ケネディ」(CVA-67)の5隻である。

これらのことは、Wikipediaの「空母打撃群」の項を見れば、詳細に記述されているので確かめてほしい。

いずれにしても、このように見てくれば、今回のカール・ビンソン打撃群だけの派遣では、アメリカの本気度に疑問符がつく。トランプの完全な“口先攻撃”で、「脅し」にもなっていない。そのせいか、習近平・中国は異例の対応を見せてはいるが、腹の中ではトランプをバカにしているに違いない。

アメリカが北を攻撃するという「本気度」を見せるためには、少なくとも2つ、普通に考えて3つの空母打撃群が必要だ。つまり、カール・ビンソン打撃群に加えて、横須賀のロナルド・レーガン打撃群、そして、ワシントン州キトサップが母港の空母ジョン・C・ステニスの第3空母打撃群まで投入しなければ、攻撃準備が整ったとは言えない。

「NYタイムズ」紙や「ウオールストリート・ジャーナル」紙などの報道を総合すると、先の米中首脳会談ではトランプはなんの成果も得られなかったという。それ以前に、トランプは最大の公約、オバマケアの代替法案の議会提出を断念させられ、“口先だけでなにもできない”大統領ぶりを世界中に晒してしまった。

すでに“ハネムーン期間”の100日が過ぎようとしているが、歴代大統領のなかで、史上最低の支持率を更新している。

トランプは24日(米国時間)、中国、ロシアを含む国連安保理15カ国の大使をホワイトハウスに呼んで、「北朝鮮の現状維持は許されない」「安保理は北朝鮮に対しより強力な追加制裁を発動する用意を整えておく必要がある」と、もうわかり切っていることを繰り返し述べた。なにをいまさらである。

ところで、北朝鮮のカリアゲ将軍、金正恩第一書記も“口先”だけである。アメリカが攻撃してきたら「いつでも核で反撃する」と息巻いているが、そんな核が本当にあるのか? また、反撃するとしても、それを行うための武器を稼働させる燃料はあるのか?

軍事専門家によれば、北朝鮮軍は常時、燃料不足と食料不足の状態にあるという。そのため、兵士たちは自分たちで食料を調達しなければならない。

勇ましい軍事パレードの2日前、金正恩は空軍が持っている養豚場を視察し、冷蔵庫の中の豚を見て、「パイロットに新鮮な豚肉を十分供給できる基盤ができた」と述べたという。この国では、空軍が豚を飼育しているのだ。

さらに、陸軍は田畑を持っていて、兵士たちは普段は農業をやっているという。だから、もうじき田植えの季節なので、戦争などとてもできる状況ではないという。

これでは、「第二次朝鮮戦争」など起こるわけがないだろう。

トランプ大統領は一刻も早くハッタリをやめ、少なくとも3つの空母打撃群で朝鮮半島を囲み、本当の脅しをかけるべきだ。「力に寄らなければ平和はつくれない」とするなら、これを実行しなければならない。そうでなければ、“ハッタリ大統領”で終わるだけだ。

誰もが戦争は望まないが、このような見え透いたハッタリだけでは、なにも解決できないのは明らかだ。

最後に、以上の考察では、トランプと金正恩の性格というファクターはまったく考慮していない。見たところ、ハッタリとハッタリの応酬で、トランプも金正恩も“非常に相性がいい”ようなので、情勢が、外交・軍事常識を超えてしまうことはないとは言えない。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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