ツイッター関連の過去の判断を覆すもう1つの知財高裁判決:画像トリミングは同一性保持権侵害にはならない
昨日、「ツイッターについて常識的判断を行った知財高裁判決:スクショを使っても著作権上適正な引用になり得る」という11月2日付の判決に関する記事を書きましたが、奇しくもこれと似たパターンの知財高裁判決が10月19日にもありました。
トレース疑惑をツイッターで指摘されたイラストレーターがツイッター社を被告として発信者情報開示を請求したところ、地裁で請求が認められたのに対して、ツイッター社が控訴したものです。結論から言うと、地裁判決が覆り、発信者情報の開示は認められないことになりました。
知財高裁は、このケースにおけるトレース疑惑の指摘は正当な批評であって名誉毀損にあたらないとしました。この点の議論も興味深いのですが、本記事では著作権侵害、特に、著作者人格権の同一性保持権に関する議論にフォーカスします。
まず、著作財産権(複製権、公衆送信権)については、トレース疑惑を指摘するためのイラストの利用は正当な引用の範囲であるとして、侵害を認めませんでした。名誉毀損にあたらないという上記結論と表裏一体の話です。
同一性保持権については、地裁判決では、イラストレーターの画像がツイッターの仕様によりトリミングされて表示されることを理由として「原告の同一性保持権が侵害されたことが明らかであると認められる」としていました。これは、今回の事件とは直接関係ない過去の知財高裁の判例に基づくものです(関連過去記事)。
念のために書いておくと、同一性保持権とは著作者が(やむを得ない場合を除き)意に反して著作物を改変されないための権利です(著作権法20条)。ツイッターが画面表示の効率化のために画像をトリミング表示していること、投稿者としてはそれをコントロールしようがないこと、トリミングされた画像をクリックすれば元のトリミングされていない画像が表示されることを考えると、ツイッターに画像を投稿してツイッターがトリミング表示することでツイート主が同一性保持権を侵害することになってしまうというのは常識に反する(少なくともやむを得ない場合として例外扱いされるべき)であると思うのですが、過去の知財高裁判決はこうなっていたわけです。
そして、今回の知財高裁判決では、以下のとおり、この過去の知財高裁の判決に反して、同一性保持権侵害を認めませんでした(強調は栗原による)。
再び、「ですよねー」という感想です。なお、昨日書いた話では地裁判決を知財高裁がオーバーライドしたことになりますが、今回の話の過去判決は知財高裁によるものなので整合性が気になります。過去判決は写真の無断利用という明らかな著作権侵害に関連した事例、今回の判決は合法な引用(批評)に関連した事例ということで、折り合いを付けているのかという気はします(としても、やはり今回の判示が常識に則していると思わざるを得ません)。
ということで、ツイッターの画像トリミングによりツイート主が著作者人格権を侵害してしまうのかという話は「事例による」と考えた方が良いと思われます。