リツイートするだけで身元が他人に知られるリスクがあることを示した知財高裁判決
最近、興味深い知財高裁判決がありました(判決文リンク)。
職業写真家の写真が無断でツイッター上で利用されたという案件です。通常、このようなケースでは、権利者には写真を利用したユーザーが誰かはわかりませんので、プロバイダー責任制限法に基づきプロバイダー(この場合はツイッター社)に発信者情報開示請求を行います。本判決は、この発信者情報開示請求に関するものですが、発信者情報を開示する義務があるかないかの判断基準として著作権侵害があるかどうかが判断されました(開示には権利侵害が前提になるので当然です)。
地裁でも知財高裁でも他人が撮影した写真を無断でプロフィール写真等に使ったケース等については著作権(公衆送信権)侵害が認定され、発信者情報の開示が認められています。ここまでは当たり前です。注目すべきはリツイートに関する知財高裁の判断です。
ここでの重要論点は「リツイートしただけで写真の著作権を侵害することがあるのか?」です。ツイッターのシステム的な仕組みでは、リツイートでは元ツイートのURLがインラインリンクとして含まれるだけです。要するに、この話は既にネット上にある情報に対してリンクを張っただけで、そのリンクを張った人が著作権を侵害してしまうことがあり得るのかという重要な論点に帰着します。
地裁でも知財高裁でもインラインリンクを送信するだけでは著作財産権の侵害にはならないと判断しました。
しかし、注目すべきはその先の著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)の判断です。
本件のリツイートでは元ツイートの写真がトリミングされて表示されています。知財高裁は、このトリミングはリツイート行為の結果として送信されたCSS等によるものなので、リツイート主が同一性保持権および氏名表示権を侵害したと判断しました(写真には著作者の氏名表記があったのですがトリミングにより表示されなくなったため、氏名表示権も侵害されたと判断されました)。
なお、原告の写真家の方によるものと思われるウェブサイトを見ると状況がよくわかります。
ちょっと著作者人格権に関する判断が厳しすぎるような気がしますが、元々、日本の著作権法においては、著作者の名誉が損なわれたことは著作者人格権侵害の直接的要件とはされていないのでしょうがないとも言えます。
本裁判は著作権者とツイッター社の間の発信者情報開示の裁判なので、ツイッター社がリツイート者等のメールアドレスを権利者に開示すれば終了です。この後、おそらくは、権利者は発信者に対して何らかの権利行使することになると思われます(単なる警告かもしれないですし、著作権侵害訴訟をするのかもしれません)。
仮に著作権侵害訴訟ということになっても差止め(ツイートの削除)はほぼ自動的に認められますが、損害賠償については故意・過失が認定されなければ認められません。仮に故意・過失が認められたとしても、このケースで多額の損害賠償が認められることはちょっと想定しがたいです。
とは言え、他人の写真の著作物を含むツイートをリツイートしただけで、たとえ故意・過失がなくても、自分のメールアドレスが写真の著作権者に伝わるリスクがあるのは明らかになってしまいました。