シャビ・バルサの「ガビのフリーロール+偽SB」という新たな武器。
「バルセロナの歴史が、我々に多くを要求する。レアル・マドリーの歴史ではない。バルサは世界で最も難しいクラブだ」そのように語ったのはバルセロナを率いるシャビ・エルナンデス監督である。
「バルサでは、良いフットボールを見せ、勝たなければいけない。悪いプレーをして1−0で勝つというのは歓迎されない。我々の目標は、チャンピオンズリーグでトップレベルのチームと戦うことだ」
バルセロナは3月のインターナショナルウィーク明けから調子を落としている。セビージャ戦(1−0)、レバンテ戦(3−2)、フランクフルト戦(1−1)と接戦が続いたのち、フランクフルト戦(2−3)、カディス戦(0−1)と連敗。レアル・ソシエダ戦(1−0)でも苦しんだ。
無論、バルセロナのすべてが悪いという話ではない。攻撃面では改善が見られている。冬の移籍市場でピエール・エメリク・オーバメヤン、アダマ・トラオレ、ダニ・アウベス、フェラン・トーレスが加入した。とりわけ、オーバメヤン(17試合11得点)、フェラン(20試合7得点6アシスト)の到着は大きかった。彼らがゴールを挙げてチームの勝ち点獲得に貢献している。
今季、ロナルド・クーマン前監督の下で、バルセロナは13試合で16得点を記録していた。1試合平均得点は1.23得点だった。「得点」という観点では、それを上回る勢いでゴールを量産している。
■デンベレの突破力
また、シャビ監督の就任で、恩恵を受けたのがウスマン・デンベレだろう。
シャビ・バルサで、デンベレの1試合の決定機演出数は2回以上だ。エルネスト・バルベルデ政権(1.56回)、クーマン政権(1.43回)と比べ、格段によくなっている。
デンベレはあのポジションで世界最高の選手になれる。そう考えていたシャビ監督は、デンベレのポジションを右W Gに基本固定した。そして、アイソレーションを行うことで、デンベレの1対1の強さと突破力を生かそうとしたのである。
シャビ・バルサで、“復活”した選手が、もう一人いる。フレンキー・デ・ヨングだ。
デ・ヨングはアヤックスのカンテラ出身選手だ。2018−19シーズン、チャンピオンズリーグでベスト4進出と躍進した「ヤング・アヤックス」で中心選手として活躍して、欧州中に自身の名を知らしめた。
パス、ドリブル、シュート。技術は一級品で、育成年代の頃から高い評価を得ていた。だが一方、課題がないわけではなかった。足元がうまい選手は、テクニックに走りがちだ。デ・ヨングも、ご多分に漏れず、そうだった。「入団一年目からクオリティの高い選手だった。ただ、我々は彼にボールを持つときは顔を上げなさいと指導した。だが彼は『抜きたい選手を抜きたいからそのためにドリブルをする』と言っていた。非常に悪い答えだと思った」とは当時アヤックスの育成担当部門のダイレクターだったルベン・ヨンキント氏の弁である。
「16歳頃から頭を使うフットボールを理解し始めた」とヨンキント氏が語るように、徐々に頭角をあらわしたデ・ヨングは2019年夏にバルセロナに移籍する。しかしながらバルセロナでは、バルベルデ、キケ・セティエン、クーマンと複数の指揮官の下でポジションと役割が定まらなかった。
そのデ・ヨングにとって、シャビ監督は、ようやくしっかりと自分を起用してくれる監督だった。
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■左右のインテリオール
シャビ監督はデ・ヨングをインテリオールに固定した。アンカーで試したこともあるが、その案をすぐに引っ込め、中盤の前目のポジションを与えている。
加えて言えば、デ・ヨングの最適ポジションは左のインテリオールだろう。
シャビ・バルサのやり方なら、尚更だ。
現在、バルセロナはペドリ・ゴンサレスが負傷離脱中だ。ペドリの在・不在で、まったく別のチームになってしまう現実はある。一方でペドリ不在だからこそ、テストできるものがある。
ガビを右インテリオールに、デ・ヨングを左インテリオールに置く。
さらに、ここに戦術的な幅をもたせる。ガビは、アンカーの前のポジションで、動くタイプだ。「動ける」とも「動いてしまう」とも言えるが、動くこと自体をプラスに転換する。
動くガビを、トップ下の位置にいかせる。そして、空いたポジションを、ダニ・アウベスが埋める。ガビ(右IH)のフリーロールとアウベスの“偽サイドバック化”で、新しい攻撃の形と武器ができる。
そして、この戦術に前述の2選手が絡んでくる。
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