夏本番!子どもと花火を楽しむために 衣類着火でやけど・誤った遊び方による目のケガ…事故防止と対策とは
花火のシーズンになりました。
今年はコロナに伴う行動制限が解除された初めての本格的な夏シーズンということもあり、多くの人出で賑わいそうです。筆者は愛知県出身なのですが、おもちゃの花火の産地を調べたところ、父方の実家があった愛知県岡崎市周辺が中心だと知りました。ここだけで全国生産量の約半分が作られているそうですが、その理由は江戸時代、徳川幕府の火薬製造所があった名残だそうです[1]。今年の大河ドラマと合わせて、ちょっとタイムリーなトリビアかもしれません。
さて、そんな花火ですが、楽しい夏の思い出となるいっぽう、注意しないとやけどなどケガのリスクがあります。手に持つタイプでは火花がかかるなどのやけどが多いですが、実はロケットなど打ち上げるタイプでは目にあたると失明するリスクもあります。素敵な思い出で終わらせるためにも、どんなリスクがあり、どう気をつければよいのか、今回は解説したいと思います。
「使い方の間違い」か「不具合」が原因のことが多い
花火のケガの原因は主に2つです。一つは「間違った使い方」をした場合、もう一つは花火の不具合によるケガです[2]。前者は振り回したり、人に向けるなどしたケースが該当します。後者は家庭用打ち上げ花火が点火せず、覗き込んだタイミングで発射された場合や、風で横に倒れて発射された場合などです。
やけどは1-3歳の子どもに多い
花火のケガの中でも、やはり一番多いのはやけどです。医療機関ネットワークでは、花火で遊んでいる際にやけどを負った事故情報が2018-2022年度の5年間で全国で60件あり、その半数以上が1-3歳児だったとして、具体的な事例として以下を紹介しています[3]。
1歳児 手持ちの噴出花火の火をつかんでしまった
2歳児 花火がサンダルの上に落ち、足指にやけどした。
また日本煙火協会も、ウェブサイトで具体的な事例を紹介しています[1]
3歳女児 花火から火花が飛び散り足の甲をやけど
6歳男児 手持ち花火で、持ち方を誤り、後方から噴き出した火花で右手をやけど
8歳男児 炭火で点火したところ、火花が飛び散り左足の甲をやけど。
国民生活センターの資料には、やけどしやすい状況が図でわかりやすく紹介されています。
花火によるケガ、海外では圧倒的に男性に多い
花火はお祭りなど宗教や文化的な要素も大きく関係するため、海外と日本とではその事故の背景や内容も同じではありません。とはいえ海外でも花火によるケガは多く起こっており、そのデータはある程度参考になります。海外からの報告では、花火によるケガはおおむね5歳以上が多く[2] [4]、また圧倒的に男性に多いことが知られています。米国で、花火のケガで救急外来を受診した3200件を調べた報告では7割が男性だったとしていますし[5]、花火で入院した294例の調査に至っては9割が男性だったとしています[6]。入院するようなケガほど男性の割合が高くなるようですが、これは重症度の高いケガとして一番注意が必要なロケット花火による眼球損傷と関係しているのかもしれません。ロケット花火の打ち合いなどの危険な遊び方をするのは女性より男性に多いことは容易に想像がつきます。
ロケット花火は目に当たると失明することも
実は、ロケット花火によるケガは海外だけの話ではありません。日本でも10代を中心に起きています。先ほど触れたように目の深刻なケガにつながるため注意が必要です。
おもちゃ花火による目の傷害について、全国の眼科医療機関633施設を対象に行ったアンケート調査(2011年の1年間) [7]によると、19施設で20例報告があり、10歳未満7例 10-19歳7例 20歳以上が6例でした。男性17例女性3例とやはり男性に圧倒的に多く、このうちロケット花火が7例で、うち6例が水晶体や網膜に及ぶ深刻なケガでした。これらの多くが手術を要し、視力も0.4以下までしか回復しなかったと報告されています。ロケット花火では目のケガに注意が必要なことが分かります。
調査結果を踏まえて、日本眼科学会も「誤った花火遊びは、目に危険です」と注意喚起を出しています [8]が、あまり知られていないかもしれません。
花火のケガを防ぐには
このように花火にはケガのリスクがあるため、あらかじめ備えが必要です。
日本では1~3歳でやけどが多いため、保護者が必ず付き添って以下の注意点を守ることが大切です。
花火のケガを防ぐための方法(日本煙火協会ホームページ[1])
大人と一緒に遊ぶ。
腕をのばして、花火に着火する(体から離す)。
花火は風下に向ける。
花火を人に向けない。
点火時に服の袖や裾がローソクの火に触れないようにようにする。
向かい風があると花火を持つ子供に火花が降りかかってやけどをする可能性があります。風向きは小さいお子さんには判断できませんので、大人が判断してあげることが大切です。
花火のやけどについて、国民生活センターもポスターで注意喚起しています。
衣類に着火したやけどの例も
花火では衣類に着火してやけどするケースもあります。
医療機関ネットワークからの報告では、花火を振り回していたらスカートに火花が着火し燃え上がり、太ももにⅡ度の熱傷を負った6歳児の例を報告しています[3]。
衣類への着火に関して、花火ではありませんが少し昔に悲しい事故が報告されています[10]。
文献10より引用
浴衣のように袖やすそが長い衣類は着火しやすいのです。最近は難燃性の素材も開発されていますが、衣類に火が燃え移るリスクと、万が一燃え移った時の対処法を知っておくことは有用です。対処法は次の通りです。
衣類に着火した時の対処法[1]
着火した部分を叩いたり、水をかけたりする。
水がない場合はその場の地面に倒れて左右に転がり、燃えているところを地面に押し付けて消火する(ストップ・ドロップ・アンド・ロール)。
□走り回ると火の勢いが増し、さらに燃え広がる可能性があるためやってはいけない。
やけどをしたら少なくとも20分冷やす
では、もしやけどした場合の対処方法と受診目安はどうすればよいのでしょうか。
子ども、特に2歳未満の皮膚は薄いため、やけどは大人よりも深く広がりやすい傾向があります。花火遊びをしている時にやけどをしたら、まずは応急手当が必要です。
応急処置
すぐに水で冷やしてください。氷水ではなく流水で冷やしましょう。
水道水などの清潔な水で 15~20 分程度冷やしましょう。
衣類を着ている場合は、衣類ごと冷やしましょう。
水疱を破らないようにしましょう。
□範囲が広い場合には冷やしている間に体温が下がり過ぎないように注意が必要です。
受診の目安
やけどの範囲が広い場合はすぐに受診が必要です。また顔、頭、関節のやけどの場合は範囲が小さくても病院受診が必要です。
受診する場合にも、まず冷やしてから医療機関に向かいましょう。
やけどの受診目安については、私たちのプロジェクトのイラストもご参考になればと思います。
今日は花火のケガをテーマに、やけどを中心に予防や対処法についてお伝えしました。少しでも皆さんが楽しい時間を過ごすお役に立てればと思います。
参考文献
1.日本煙火協会ウェブサイト.
2.Puri V, et al. Firework injuries: a ten-year study. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2009 ;62(9):1103-11.
3.国民生活センター. 花火による子どものやけどに注意しましょう. 2023.
4.Canner JK, et al. US emergency department visits for fireworks injuries, 2006-2010. J Surg Res. 2014 Jul;190(1):305-11.
5.Winicki NM, et al. The epidemiology of firework-related injuries in the US, 2012-2022. Inj Epidemiol. 2023 ;10(1):32.
6.Sandvall BK, et al. Fireworks type, injury pattern, and permanent impairment following severe fireworks-related injuries. Am J Emerg Med. 2017; 35(10):1469-73.
7.田原 昭ほか. 花火による眼外傷の日本におけるアンケート調査結果. 日本眼科学会雑誌. 2014 2014.12;118(12):1007-12.
8.日本眼科学会. 誤った花火遊びは目に危険です. 2012.
9.国民生活センター. 花火による子どものやけどに注意しましょう.
10.山中龍宏. 子どもたちを事故から守る(連載第1回)事故事例の分析とその予防策を考える. 小児内科. 2003;35:104-5.