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依存症体質の有名人で金儲け。死の裏で売人はプライベートジェットの豪遊生活か【フレンズ俳優の死】

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
昨秋に突然死したペリーさん(2009年4月資料写真)。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカの人気俳優、マシュー・ペリーさんの突然の死から9ヵ月が経った。ドラマ『フレンズ』などで知られるペリーさんは昨年10月、ロサンゼルスの自宅の温水プールで意識不明の状態で発見され、死亡が確認された。しかし直前まで元気な姿が目撃されるなど不可解な点があるとして、捜査が進められていた。

捜査の結果、ペリーさんの死は抗うつ剤としても使用されることがある麻酔薬のケタミン(Ketamine)を過剰摂取したこと(オーバードーズ)によるものだったとわかった。

オーバードーズによる死亡事故は、ストレスを抱えるアメリカの深刻な社会問題の一つだ。

中毒および依存症体質で心身共に衰弱していたペリーさんにケタミンを投与することがいかに危険であるかを認識しながら、短期間で大金になるとしてケタミンを安易に処方および提供に加担し、死亡に関与した疑いで医師2人、ケタミンの闇販売業者、住み込みの個人秘書、知人の5人が15日、訴追された。

1ヵ月強で医師に約800万円払う

現地報道をまとめると、この事件は大物セレブであるペリーさんがケタミンを欲しがっていることを医師が知った昨年9月(死の1ヵ月強前)に始まった。

一人の医師が「スターが麻酔薬中毒で制御不能に陥っている」と話していたことや、医師同士で“I wonder how much this moron will pay.” (この愚か者がいくら払うかな)、“Lets find out.” (見ものだな)というテキストメッセージのやりとりがあったことが、NBCニュースなどで伝えられている(英文は原文ママ)。

医師は、ペリーさんが死亡する10月下旬までに、ケタミン約20瓶をペリーさんに処方していた。ペリーさんはこれに対して5万5000ドル(約800万円)を現金払いしたとみられる。つまり医師側からすると、ほんの1ヵ月強で一人の患者からそのような大金を稼ぐことができたというわけだ。

10月半ばには、長年の個人秘書(ケネス・イワマサという日本名)がケタミンの新たな入手先を探し、闇販売業者とつながった。個人秘書はペリーさんが死亡した当日、ペリーさんの依頼で少なくとも3回に分けて、ケタミンをペリーさんに注射器で投与したとされている。その時ペリーさんは、“shoot me up with a big one”(大きなもの=強いのを打ってくれ)と頼んだと報じられている。この言葉はどれだけペリーさんの心身が制御不能で、ケタミンに強く依存していたかを物語っている。

2000年5月14日 - NBCの人気ドラマ『フレンズ』のキャストたち。ペリーさん(右から3人目)は誰もが羨む富と成功を手にしたかと思われていたが...。
2000年5月14日 - NBCの人気ドラマ『フレンズ』のキャストたち。ペリーさん(右から3人目)は誰もが羨む富と成功を手にしたかと思われていたが...。提供:Warner Bros./ロイター/アフロ

売人はペリーさんの死後、贅沢な日本旅行へ

ハリウッドで「ケタミンの女王」として知られる闇の売人、ジャスヴィーン・サンガ容疑者は昨年10月の2週間でケタミンの小瓶約50本をペリーさんに提供し、現金約1万1000ドル(約160万円)を稼ぎ出したようだ。

彼女の自宅からはケタミンやメタンフェタミンを含む麻薬が数多く押収された。たった一人の顧客からこれだけ儲けていたのだから、全顧客でどれだけの収入があっただろうか。

彼女はセレブや上流階級者などロイヤル顧客を対象にケタミンなどを提供し、長年にわたり私腹を肥やしてきた。移動にプライベートジェットを利用するなど、SNSからその派手な生活ぶりが伝わってくる。

ペリーさんが亡くなったほんの11日後の昨年11月8日には、日本旅行に出発している。東京のマンダリン オリエンタル ホテルの高級フレンチや寿司を食すなどの贅沢三昧な体験を、着物姿の自撮りとともにSNSに投稿していた。上客が突然死したにも拘らずこんな行動(&アピール)ができるくらいだから、ペリーさんについてもただの「金づる」にしか思っていなかったのだろう。

ハリウッド界隈では、大金を払う有名人のためなら嘘をつくことも厭わず「何でもする」医者がいるという噂は以前よりある。

被害者はペリーさんだけではない。過去にはマイケル・ジャクソン(プロポフォール)、プリンス(フェンタニル)などセレブ中のセレブが、医師が処方した薬物の中毒が原因で亡くなっている。彼らは「弱い部分」を悪用され、金儲けの道具として利用されてきた。

ペリーさんは人気俳優になった成功の影で、長年オピオイド中毒、アルコール依存症、そしてうつ病と闘ってきた。うつ病の治療としてケタミンを以前より使用していたことも2022年に出版した回顧録で明かし、同じ境遇にいる人々を励ましていた。

これまでのセレブの悲劇から今回のペリーさんの死にまつわる容疑者の訴追劇まで、ハリウッドには成功者に群がり彼らの「脆弱さ」を悪用する者が絶えず存在していることを明らかにした。セレブの栄光の裏にある闇を映し出しているようだ。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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