イスラーム過激派の食卓:「イスラーム国 西アフリカ州」は手の内を隠す?
ラマダーンが明け、世界各地のイスラーム教徒たちが祝祭を楽しんでいることだろう。「イスラーム国」も例年通りラマダーンの最後の10日間に合わせて攻勢を実施したり、ラマダーンを過ごす構成員たちの画像を配信したりして過ごした。「イスラーム国」にとっての今期のラマダーンは、その20日ほど前に新しい自称「カリフ」が決まったこともあり、自称「カリフ」への忠誠を表明し、自分たちが活発に活動していることを宣伝するための重要な期間だったようだ。このため、2022年3月には「イスラーム国」名義の動画の発信件数が数年ぶりに月間10件を越えた。また、3月、4月の戦果発表や画像類の発信件数も過去数年と比べてやや増加している。一部では構成員らに対し攻撃の場面の画像の発信を増やすようにとの教唆が出回っているようなので、今後も質はともかく量(件数や画像の数など)が増えることはありうる。
「イスラーム国」の今期のラマダーンのごちそう場面で最も注目すべき対象は、同派の諸州の中で領域の占拠・住民の制圧などの面で成果を上げている可能性が高い「イスラーム国 西アフリカ州」である。この地域は「イスラーム国」の活動が世界的に低迷する中、比較的戦果が多い地域で、去る3月にはこれまで「西アフリカ州」の一部として戦禍などを発信していたと思われる集団が「サヘル州」という新たな名義を使い始めた。写真1、2、3は、そんな「イスラーム国 西アフリカ州」のラマダーンの食事風景だ。
写真1は、野外の露営地と思しき所で焚火で、しかも深鍋を用いて卵を調理するという、高度な調理場面だ。おいしくできたかどうか(写真2)はさておき、これだけではかなり軽めに見える。本稿では紹介しないが、同じ集団の食事風景とみられる画像ではスイカ、バナナ、柑橘類などが供されていたが、肉類は見当たらなかった。写真3はこれとは別の集団の野外での食事と思われるが、ここでは若干の肉類に対しスイカがかなりたくさん提供されている。「イスラーム国 西アフリカ州」といえば、既にそれなりの範囲の領域や住民を制圧し、次世代を育成する「教育施設」をも運営しているとの動画を発信している。それに鑑みれば、彼らが多数の構成員や関係者が起居する場所を確保し、そこで組織的に食事を提供する体制を構築していると考えるべきなのだが、今期のラマダーンの食事風景ではそうした体制を示す画像は発信されなかった。
一方、「イスラーム国 西アフリカ」は、従来の活動の中心だったナイジェリアの北部から同国の中部・南部へと活動範囲を拡大させたと主張した。写真4はナイジェリア南部、写真5はナイジェリア東部で活動する集団の食事風景と称する画像だ。
写真4も、野外のあまり居心地がよくなさそうな場所でスイカや柑橘類を食べているので、移動中か前線拠点・哨戒所のようなところなのだろうか。写真5は屋内でご飯上のものに肉や野菜のソースをかけた料理が提供されているがここでもスイカは欠かせない。ナイジェリアは面積の広大さやそこに居住する社会集団の多様性に鑑み、「イスラーム国」の者たちの活動範囲が広がれば彼らが摂る食事の内容も多様性が高まると思われる。特に、今までの活動地域とその住民の外側の地域や共同体から人員を勧誘する形で活動範囲が広がれば、食生活をはじめとする生活や行動の様式にも顕著な変化が出てくるだろう。そのようなわけで、ラマダーンのごちそうを観察している範囲では、「イスラーム国 西アフリカ州」は同派の活動の成功や拡大を示す材料を十分提供してくれなかった。これが、同派が活動の成功・拡大に見合う兵站体制を構築できていないことを示すのか、それとも兵站体制の実態を外部に知られないように発信する情報を制限しているのかは判断に迷うところだ。