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なぜ男は写真を撮り送らせるのか:リベンジポルノを実行する心理と現代ネット社会

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■もちろん悪いのは加害者

以前の記事、なぜ女性は写真を送ってしまうのか:リベンジポルノの被害を防ぐために:すてきな恋をするためにへのご意見として、むしろ「なぜ男性は女性の写真を撮り送らせるのか」が問題であると言うご意見を受け、今回この記事を書くことにしました。

こんなニュースも今日ありました。

26歳の会社員の男が、スマートフォンのチャットアプリで知り合った女子中学生に、裸の写真を送らせ、「会わないなら写真をばらまく」と脅した疑いで、警視庁に逮捕された。~当時14歳の女子中学生に、裸の写真などを送らせたうえ、会うことを拒否されると「会わないなら、インターネット上に写真をばらまく」と、脅した疑いが持たれている。

出典:女子中学生に裸の写真送らせ脅した疑い 26歳会社員逮捕 フジテレビ系(FNN) 3月14日Y!

■なぜ男は女の裸の写真を求めるのか

かつて写真は現像に出していました。さらに公序良俗に反する写真はプリントしてもらえませんでした(プロ用のラボだたらOKだったかな)。この時代に、付き合っている女性の裸の写真をとる男性は、ほとんどいなかったでしょう。でも今は、写真屋を通さずに写真ができます。

男性は、視覚から多くの性的刺激を受けます。昔から、そういう商売が成立していました。そこで、付き合っている女性の写真が欲しいと思うこと自体は、悪いことではないでしょう。もちろん、盗撮とか、強制とか、最初からだますつもりなど、犯罪目的といったことは、まったく別問題です。悪いに決まっています。また男性が成人で女性が未成年の場合もだめです。

大人同士で双方合意であるなら、他人がとやかく言うことではないかもしれません。しかし、一見「双方合意」に見えて、本当は女性が嫌がっている場合もあるでしょう。無理して素直でかわいい女性を演じていることもあるでしょう(本当は、ありのままで良いのに。→『アナと雪の女王』の心理学:「ありのまま」と個性の本当の意味)。

あるいは、嫌がっていない、本当の双方同意でも、女性を危険にさらす可能性はあるでしょう。

■自分本位と女性の「モノ化」

本当の恋愛は、その人を愛することです。その人の顔でもスタイルでもなく、その人を愛します。他の人ではダメです。その人が好きなのです。その人が年をとっても、病気になっても愛します。その人とコミュニケーションをとりたいと願います。コミュニケーションとは、心の交流であり、おしゃべりもあれば、ハグもあるでしょう。

ところがポルノは、基本的には見た目が好みなら、誰でも良いものです。「物」であれば、それで当然です。自動車は物ですから、気に入れば買いますし、壊れたり古くなれば買い換えます。その自動車自体に固執する必要はありません。

これが、物と人の違いです。恋人でも親子でも、本来取替えのきかないものです。似たような背格好や成績や収入なら誰でも良いなんてことは、あるわけがありません。

ところが、女性を「物」と見なす男性がいます(男性を「物」と見なす女性もいるでしょうが)。人は、自動車を愛車と呼び大切にしますが、それは自分のためです。お金をかけて磨き上げても、それは自分のためです。自動車は、自分の思い通りに動いてくれなければなりません。

男が自分のために、女性の写真を撮り、また送らせることがあるでしょう。そのとき、女性の側の幸福や、女性を危険にさらす可能性があることは、あまり考えません。第一に優先されるのは、自分の都合と快楽です。

このような男性に限らず、性的なことがらに関する女性の心の深い傷を、男性はなかなか理解できません。

ほんとの愛は、相手の幸せを願うことなのに。

■リベンジポルノによる利得:恨みと金

最初から相手を苦しめる意図はなくても、結果的にリベンジポルノを実行する男たちがいます。彼らは、恨みの感情を晴らそうとしています。ストレス解消のための行為です。

やってしまった行為は、とんでもなく乱暴で、許されないことです(女が写真をばら撒いてももちろんダメです)。

乱暴で怖い存在ですが、実は心理学的には、恨みの感情は弱者の感情です。思い通りにならない、社会的力を使って問題解決ができない、そんな人が恨みの感情を持ちます。

普通は、いったん恨んでも、その後で良いことがあれば忘れられるのですが、良いことがないと恨みの感情がまします。そのとき彼の手の中に「写真」という大きな武器があり、ネットという便利な道具がある今、リベンジポルノを実行してしまうのでしょう。

人は、ある感情があっても、その感情を発散する機会がなければ行動には移しません。写真の存在とネット環境が、恨み感情によるリベンジポルノを生みます。

リベンジポルノで脅して、自分の思い通りにしようという人もいますね。

さらに、このようなストレス発散と、金銭的目的が合致することもあります。金を出させることで、自分が得をし、相手を困らせようとするのでしょう。

■自己破滅的なリベンジポルノ

後先考えないリベンジポルノもあります。写真をばら撒いた側が、法的な制裁を受けることもあります。

普通なら、どんなに憎みあって別れても、相手の性的なことなど絶対に口にするものではありません。そんなことをすれば、その人自身の評価を下げるでしょう。

ところが、ネットの匿名社会では、実行する人がいます(本当は匿名ではないが)。

なかには、写真をばら撒き、相手を殺し、自分の人生も終わりにしようと思ってしまう人もいます。追い詰められた心で、本来の自分らしさを失い、逆境を乗り越える力は消えうせてしまうのです。

かわいさ余って憎さ百倍ということはありますが、失恋したことで終わりだと感じてしまう人がいます。自分が不幸になってでもいいから、相手を不幸にしようとする人もいます。

本当の恋愛は、1人でも強く幸福に生きていける人間同士が、それでももっと幸福になるためのものなのですが。

■心の成熟:本当の恋愛

みんなが幸せになるために、良い恋愛をするために、個人の心の成熟と社会の成熟が必要だと思います。異性の思いに共感し、相手の幸せを願う本当の恋愛をしたいものです。

本当の恋愛をするためには、強さも必要です。相手に合わせる強さや、相手の幸せのために一生懸命になれる強さ。そして思い通りにならなくても、失恋しても、耐えることができる強さです。

だれでも時にはけんかしますし、落ち込んだり、怒ったりするのは当然です。でも、して良いことと悪いことがあります。法的規制だけではなく、恋愛にもルールとマナーがあります。

DVも、セクハラも、ストーカーも、リベンジポルノも、とても乱暴ですが、未成熟で力の足りない人々の行為でしょう。

不正義は許さず、でも恋する男女をやさしく支え鍛える社会にしたいと思います。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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