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三鷹市女子高生刺殺事件:ストーカー犯罪防止のために私たちができること

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
私にもあなたにもできることがある

■三鷹市女子高生刺殺事件の概要

10月8日の夕方、東京・三鷹市に住む私立高校3年の女子高生(18)がナイフで刺されて殺害されました。警視庁は元交際相手の池永・チャールス・トーマス容疑者(21)を殺人未遂の疑いで逮捕。10日、容疑を殺人などに切り替えて検察庁に送りました。

報道によると、二人は2年前に知り合い交際を始めましたが、被害者女性が今年6月ごろから、別れを切り出し、着信を拒否するなどしていました。容疑者男性は、数日前からナイフを購入し、被害者女性宅周辺に表れていたようです。

被害者女性は、教師に相談し、親に相談し、警察とも相談していましたが、容疑者男性は事件当日昼ごろ被害者宅の鍵のかかっていなかった2階窓から侵入し、クローゼットに潜んでいました。

被害者女性が一人で帰宅後、加害者男性はナイフを持ってクローゼットから現れ、部屋から逃げる女子高校生を追いかけ、玄関先と路上で2度にわたって襲撃したとみられています。

11日、凶器と見られるナイフも発見されました。

■ストーカーとは

ストーカーとは、特定の他者に対して執拗に付きまとう行為を行う人のことです。

ストーカー規制法によれば、ストーカーとは、同一の者に対し、つきまといなどを反復して行う人です。つきまとい、監視、面会・交際要求、乱暴な言動、無言電話、迷惑メールなどが、規制されています。

■ストーカーの分類

犯罪心理学的には、たとえば次のように分類できます。

  • イノセントタイプ:まったくの見ず知らずの人に一方的に付きまとう。
  • 挫折愛タイプ:以前の恋人夫婦との関係の終わりを受け入れられない。
  • スター ストーカータイプ:有名人へのつきまとい。
  • エグゼクティブ ストーカータイプ:有名人ではないが、社会的地位のある人へのつきまとい。

被害者で多いのは、20代女性など若い女性ですが、警視庁の統計によれば、被害者の14パーセントは男性です。

■ストーカーの心理

診断名(病名)がつく人もいます。病的な妄想を持つ人もいます。他の社会的な行動は取れても、明らかに非現実的な妄想を持つ人がいますが、その妄想によるつきまといが起きる事があります。

様々なパーソナリティ障害が潜んでいることもあります。自己愛性人格障害(自分を特別扱いして欲しい)、反社会性人格障害(平気で社会のルールを破る)、境界性人格障害(相手への評価が0か100かで極端、強い見捨てられ不安があり、見捨てられないために非常識な行動までとる)。

ストーカー対策の基本・加害者の心理:被害者、加害者にならないために

■コミュニケーションの問題

ストーカー問題は、心理学的に言えば広い意味でのコミュニケーションの障害です。本来ならば、相手の気持ちを理解し、互いに気持ちよく生活できるように、調整しあうことが必要なのですが、それが上手くいかない人たちがいます。

婉曲に断っているのに理解してくれない人。こちらがこれだけ好きなのだから、相手も自分を好きだろうと思い込む人。自分の行為が、相手にとって迷惑であり、恐怖心さえ与えていることを理解できない人。そして、あきらめられない人です。

■今回の事件:三鷹市女子高生刺殺事件について

今回の事件では、まだ詳細は不明ですが、二人はフェイスブックで知り合い、交際が始まりました。容疑男性は、国家公務員になりたい希望もあったようですが、現在はアルバイトを転々とする生活。母親、妹と暮らしていましたが、仲が悪くなり、家を出たようです。

容疑者男性の関係者による評判は悪くありません。やさしい、まじめ、といった声が聞こえてきます。

しかし、ストーカー事件は、しばしばまじめそうな人が起こします。悪人ではないのですが、柔軟性が乏しい、思い込むが激しいといった人たちです。

ストーカー行為が明るみに出れば、自分の身が破滅します。ずるがしこい悪人であれば、もっと相手を利用し、自分の得になることをするでしょう。今回の容疑者は、女性を殺し、自分も死のうと思ったようです。

被害者の女子高生は、海外留学をし、芸能活動もしているような女性。容疑者男性はアルバイト生活でした。男性は、交際中の女性のことを自慢していたといいますが、男性の母親は、「立場が違い過ぎるのだから、そっと彼女の夢を応援し、彼女の気持ちを尊重するように」と言ったと報道されています。

二人は、知り合ってから急速に関係が近づいたようです。男性にとっては、本当に嬉しく、自慢だったのでしょう。なかなか上手くいかない人生の中で、この女子高生との関係は、光輝いていたのかもしれません。

しかし、そのような状態で、唯一の光を失うことはとても辛いでしょう(別れ話もつれ恨み 容疑者「殺すつもりで待った」)。恨みは、思いが果たせない弱者の感情です。普通は、徐々に忘れますが、他にも良いことがない場合などは、恨みが増幅されます。

恋愛心理学的には、別れを恐れすぎるとかえって良い恋愛ができないとされていますが、必死に彼女を引きとめようと奇妙な行動や、違法性のある行動をおこない、さらに彼女に嫌われ、心理的に追い詰められていったのかもしれません。

彼の行為は、残虐で簡単に同情できるものではありませんが、犯行直後、彼は母親に電話して話しています。

やりました。(女性は)意識不明。お母さんありがとう。死ぬ場所を探しておくわ

■ストーカー被害を防ぐために:あまり親しくない相手の場合

どんな犯罪も完璧な防止策はありませんが、防犯のために様々なことは工夫できるでしょう。

見ず知らずの人からのストーカー行為や、あまり親しくない人からのストーカー行為の場合。最初は婉曲に迷惑だと伝えるかもしれませんが、相手はなかなかわかってくれません。はっきりと、交際する意志はないと伝えましょう。さらにストーカー行為が続くのであれば、もっと強く迷惑だと伝えましょう。

それでも、つきまといを止めなければ、「やめてください。あなたのやっていることは、犯罪です。警察に言います」といって、ガチャンと電話を切りましょう。アドレスを知られていれば、着信拒否しましょう。

自分でできなければ、父親、兄、上司などが、はっきりと言ってくれてもいいでしょう。警察を通して警告してもらうのも、有効です。8割がたのストーカーは、強くはっきり言うことで、止まります。たいていのストーカーは、女性の前では強気でも、男性や警察の前では弱気です。

ストーカーかどうかはっきりしないような場合。たとえば、いつもバイト帰りに店の裏口に男性が立っているといった場合には、はっきり文句も言いづらいのですが、キッとにらみつけてやりましょう。あるいは、誰かに「何か御用でしょうか」などと話しかけてもらいましょう。多くの場合は、こそこそと逃げていくでしょう。

■ストーカー被害を防ぐために:交際していた場合

難しいのは、かつての恋人、夫婦です。いきなり激しい表現ではねつけたり、着信拒否したりすると、逆ギレすることがあります。表現に気をつけましょう。

「一生一緒だと言ったじゃないか」「約束を守れ」などと相手が言ってくることもあるでしょう。

今はどんなに大嫌いでも、かつて親しくしていたことは認めてあげましょう。多少誇張しても良いので、楽しかった、良い思い出だと語り、その上で別れたいと、穏やかに、でもはっきりと伝えましょう。

何度も話しているのに、もっとわかるように理由を説明しろとか、最後にもう一度会ってくれと言われて、要求をのんではいけません。この段階での相手への思いやりは、かえって問題をこじらせます。相手を侮辱する必要はありません。でも、毅然とした態度は必要です。

あなたが、恐怖や強い不安を感じた段階で、第三者に介入してもらいましょう。そして、「上手に」別れましょう。

警察も学んでいく必要はあるでしょう(高3女子刺殺 被害相談を察知、警告でかえって逆上し犯行か 警視庁に徹底調査指示へ(産経新聞 10月11日):諸沢英道教授(被害者学)「警告することで加害者が逆上し、凶暴化するケースも少なくない。『殺すぞ』と脅されていたならば、被害者の身の安全を守るため、やはり自宅に警察官を派遣させるべきだった」)。

ストーカー鈍い対応、警察連携怠る…三鷹殺害:読売新聞 10月11日

(今回の事件に関しては、男性が、警察への相談の事実を知らず、警告の留守番電話も聞かないまま犯行に及んだ可能性もあるとする新しい報道あり。:10.11.19:45補足)

■良い恋とコミュニケーション

あなたも相手も幸せになるために、コミュニケーション術を学びましょう。映画に3度誘って、3度とも断られたら、あなたとは交際したくないという意味です。「仕事が入っている」は口実です。普通は理解できるのですが、理解できない人もいます。気があるなら、3度も断った時には、相手から都合の良い日の提案があるでしょう。

恋は自由です。でも、ルールとマナーを守りましょう。

今回の事件でも、うまく話は通じていませんでした。(着信拒否後も「別れたつもりない」容疑者、母に

■犯罪防止のために

どこに危険が潜んでいるかわかりません。2階の窓の鍵をかけないことは、あることでしょう。しかし、そこから犯罪が起きることもあります。適度な「犯罪不安」を持ちましょう。カギは大切です。ドアは二重ロックを。

一見良い人でも、最初は油断大敵です。急速に深入りすることは止めましょう。特にネットでは相手のことがわかりません。今回の事件でも、容疑者男性は大学生と偽り交際をはじめていました(さらに一部報道によれば、容疑者男性は、今回の事件以前からネットを通して女性に危害を加えていたとも言われています)。

また、人は態度を急変させることがあります。どの事件でも、被害者は被害者であり、責めることは一切できませんが、犯罪予防を考えれば、互いに気をつけあいましょう。

今回の事件は、本当に悲惨な事件でした。ご冥福をお祈りいたします。そして、犯罪報道を通して、犯罪加害者にも被害者にもならないように、犯罪を誘発することがないように、より良い人間関係を作る努力を続けていきましょう。

ストーカーに出会わないために:ストーカーチェックリストとストーカー予防

女子高校生刺殺 教会での葬儀に約600人参列、早すぎる死を悼む:フジテレビ系(FNN) 10月11日(金)18時44分

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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